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「小説 雨と水玉(仮題)(69)」/美智子さんの近代 ”ハネムーンと仕事”

(69)ハネムーンと仕事

五月連休は、意外にゆっくりと過ごすことができた。後半で式場と打ち合あせをして、スケジュールを確認し、いずれにしても毎週末啓一が大阪に来ることになっているので、問題なく進みそうだった。
新居の方も大方の準備は済み、あとは美智子の方が仕事関係について済まさなければならないことが残っていた。そのためにも啓一が大阪に足を運び続けてくれるのは良かったかもしれない。
連休明けの迫った土曜日夜、啓一は東京に戻ることにしていた。
早めの夕食を美智子の実家で食べさせてもらい、まだ明るい夕方六時過ぎに曽根駅に二人で向かった。
「美智子さん、話は来週でもいいけど、仕事の方は引継ぎとかあるんでしょ?」
「うん、それは。
でも引継ぎは何とかなると思うねんけど、新しい仕事の方が心配があるの」
「詳しくはまだ決まってないの?」
「うん」
「こちらにいるときに、少し情報を集めた方がいいやろうね」
「うん、先輩や上司に少しづつ訊いてみる」
「その辺の情報を集めつつ、新婚旅行のほうも日程とかを決めていく必要あるなと思てるんやけど」
「うん。
せやけど東京に転勤した後の予定って立てづらいなあ」
「そうやろうね」
たくまず、そんな話になっていた。

翌週の土曜日昼過ぎに二人は大阪梅田で落ち合い、いつものように昼食を共にした。
啓一が、
「せかすわけではないんだけど、転勤後の仕事については何かわかった?」
「うん、上司に事情を話して聞いてみた。そしたらね、今の仕事に近いけれど、少し違う部分もあるらしくて、でもそれは慣れるから大丈夫、安心しなさいって、言われた。
それでね、旅行の話もしてみたら、結婚休暇を振り替えて取ることはできるから、最初に言っときなさいって。東京の上司にも伝えてくれるというふうにも言ってくれた。」
と笑顔で美智子が答えたので、啓一はその顔を見ているだけで嬉しくなってきた。
「それは満点やねえ、よかった。」
「でも、出来るだけ職場に迷惑かけないように日程は決めたいと思って」
「うん、了解。まずは転勤してから正式に決める感じかな?」
「うん、でも候補はいくつか考えておきたい、準備は必要やから」
「そうやね、そうしよう」

昼食後、美味しいコーヒーが飲みたいということになって、美智子が知っている喫茶に行って話を続けた。
「以前に美智子さんと、ロンドンとパリに行こうかって話ししたよねえ」
「前に啓一さん、どちらかでもいいし、両方ともっていうのもいいかもって言ってたけど、行ったことあるの?」
「うん、パリは一度行ったことある。雰囲気もいいし、食事も美味しかったよ。」
「啓一さん、いつ行ったの?」
「2年前のお正月かな、寒かったけど、美術館とか巡る分には愉しかったよ。
パリだけじゃなくてロンドンも一週間あればなんとか行けるんちゃうかな」
「へえ、
行くのはやっぱり暖かいうちがいいんでしょ?」
「そやろね、でも7月いきなり休みもらうこと出来る?8月もいいけどこれも難しくない?」
「そやねえ、転勤してすぐはお店の開店が7月やから難しいかもしれへん。或る程度慣れてからというのと、あんまり先延ばしというのも」
「そうすると、9月くらいを第一候補に考える?」
「うん、そやね。
時期はそのくらいでいいかもしれへんけど、、、」
美智子は少し考えていた。そして、
「あのね、わたしたちを結び付けてくれた『雨に唄えば』、その舞台を見に行くのってどうなんやろう?わたし、少し前から考えてたんやけど、ニューヨークに『雨に唄えば』を見に行きたい。それってあかん?」
啓一は射抜くように目を見つめて言う美智子に少したじろいで見つめ返していた。
「ねえ、あかん?」

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