見出し画像

温泉療法①~ラドン温泉~

有馬温泉に浸かりながら

週末、久々の連休だったので、有馬温泉に行ってきた。
有馬温泉には、金泉・銀泉という2種類のお湯がある。
金泉は鉄分と塩分を含み、赤茶色で濁った泉質が特徴。
一方の銀泉は炭酸を含んだ温泉と、ラドンを含む放射能泉の2つあり、どちらも無色透明のお湯である。今回私は両方楽しめる『太閤の湯』で疲れを癒してきた。

温泉は「湯治場」という言葉があるように、古くから傷ついた体を癒す効果があるとされてきた。この温泉につかりながら、「温泉療法に関して、医学的な研究はどのくらいあるのか?」「ラドン温泉の効果とは?」「湯疲れ(いわゆる湯あたり)とは何なのか?」といった疑問が湧いてきた。
今回はこれらの疑問について、まとめてみよう。全3回を予定しており、今回は「ラドン温泉」についてである。

そもそも「ラドン温泉」とは?

ラジウムとラドンの関係

温泉水に含まれた微量の「ラジウム」から「ラドン」という気体が発生している温泉が「ラドン温泉」である。ラジウムはテレビ報道等で耳にしたことがあるかもしれないが、有名な学者夫婦キュリー夫妻により発見された放射性元素の一種である。

放射性物質であるラジウムは固体だが、壊変するとα(アルファ)線を放出し、気体であるラドンに変わる(ラドンの融点:約−71℃・沸点:約-62℃であるため)。また高校時代に「希ガス」という化学的に安定している元素として、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)の6元素を習ったが、ラドンはそのうちの一つであり、地中・水中の物質と反応することなく大気中に出てくる。このラドンが体内に入ることで、様々な効果をもたらすとされている。

補足

※ラジウムには、ウランから生じる「ラジウム226」と、トリウムから生じる「ラジウム224」とがある。このウラン由来のラジウム226から生じるものが一般的に「ラドン」と呼ばれ、トリウム由来のラジウム224から生じるものは「トロン」と呼ばれる。この「トロン」を人工的に生成し、温泉に利用した「トロン浴」を行っている施設もあるようだ。

なぜラドンには効果があるのか

日本の三大ラドン含有温泉の一つ、鳥取県三朝町の三朝(みささ)温泉には、岡山大学の温泉療法を研究する施設と病院がおかれ、医師の下、わが国唯一のラドンによる温泉療法を行っている。その岡山大学から出ている論文を紹介する(参照:片岡隆浩氏ら、三朝ラドン温泉の健康効果に関する最近の研究動向、温泉科学64巻4号、Page380-387)。
※なお、この論文で記載されているメカニズムはマウスでの実験を基にしており、ヒトでの疾患発症メカニズムが異なる可能性もある。

まず結論から

ラドン吸入は抗酸化機能を亢進させ、酸化ストレスが緩和されることで、活性酸素由来の疾患の症状を緩和する、というメカニズムのようだ。

今までの報告で分かっていること

ラドン療法は関節リウマチ・変形性関節症・変形性脊椎症・強直性
脊椎炎などの痛みを伴う疾患に対し、従来の治療に加えて行うことで疼痛緩
和の効果の増強、鎮痛剤の投与量減少等の効果が得られ、ラドン療法は通常の治療の効果を高める役割をすると考えられている。

活性酸素、フリーラジカルに関して

以下は厚労省のホームページからの引用である(フリーラジカル | e-ヘルスネット(厚生労働省))。
***************************
すべての物質は分子から成り立っていますが、その分子は原子核と電子からなる原子の組み合わせによって構成されています。通常、分子の中の電子は2つが対をなして安定して存在していますが、その電子が対をなさず、ひとつだけ離れて存在することがあります。このような対をなしていない電子(不対電子)を持つ原子や分子をフリーラジカルと呼びます(単にラジカルとも呼ばれる場合もあります)。

活性酸素と混同されてしまうことがありますが、活性酸素の中には不対電子を持つものと持たないものがあります。
スーパーオキシドやヒドロキシラジカルはフリーラジカルですが、一重項酸素や過酸化水素はフリーラジカルではありません。ラジカル(過激な)という言葉通り、電子が足りないために不安定で、反応しやすいという性質をもちます。
***************************

つまり
・フリーラジカルとは、不対電子をもつ原子または分子のことである。これらには細胞構成要素との高い反応性がある。例えば、細胞質やDNAなどを参加させることで異常をきたし、その蓄積によりパーキンソン病や白内障、癌などの様々な疾患が生じると考えられている。
・活性酸素にはスーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素等があり、このうちスーパーオキシドアニオンとヒドロキシルラジカルはフリーラジカルである。

これらの活性酸素消去には、superoxide dismutase(SOD)やカタラーゼ、グルタチオンなどの抗酸化酵素・ 物質が関与する。例えばSODはスーパーオキシドアニオンを過酸化水素に、カタラーゼやグルタチオンは過酸化水素を無毒化(不均化)する。また、グルタチオンは反応性の高いヒドロキシルラジカルも無毒化する。

ラドンの効果

ラドンは、このSOD・カタラーゼ活性を高め、総グルタチオン量を増加させる。結果として、酸化ストレスの指標である「過酸化脂質量」を減少させたと報告されている。

また、血管を拡張させることで血液循環が良くなり、代謝が改善されることで痛みの原因物質の分解・除去が起こり痛みが和らぐ可能性や、モルヒネ様作用を発現する内因性ペプチド(β endorphin)を増やすことで鎮痛効果をもたらす可能性があることも記されている。

被爆について

ラドンを生じるラジウムは放射線物質であり、1番気になるのは被爆に関してではないだろうか。
様々なデータがあるので、ここでは結論のみ述べるが、ラドン温泉に毎日入ったとしても、被爆に関しては心配する必要がない。
高齢の方、体調がすぐれない方は、被爆より長時間入浴することの影響を心配するべきだろう。長時間入浴と脱水になったり、血管が拡張することによって意識をなくしたりする。温泉であれば、床が滑りやすかったり、石でできていたりすると、転倒しやすく頭をぶつけた時の怪我が深刻になる。
入浴前に水分をとり、体調が悪いときの長時間入浴は避けることを心がける必要がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?