ステラおばさんじゃねーよっ‼️㉞経緯
👆 ステラおばさんじゃねーよっ‼️㉝憶測と同盟〜ロックナンバー は、こちら。
🍪 超・救急車
あの行きつけのカレー屋でひさびさにランチをとりながら、カイワレは若森と【夢占い】企画の打合せをしている。
若森は、大手出版会社・遊樂社の看板雑誌のひとつである月刊女性誌《Fabuleux》のサブ・デスクマネジャー。
カイワレに何かと仕事を振ってくれるヤサ男だ。
「へー!人見知り過ぎるカイちゃんが、ネタ提供者に取材ねぇ」
若森はニヤつきながら、年季の入ったイカついオイルライターをカチリと言わせ、タバコに火を点けた。
「ライターなら取材なんて普通なんでしょうけど、俺にしてはまぁ頑張りましたよね」
カイワレは他人事のように答えた。
「で、お願いって何?ここのカレーとお茶、おごれって?」
「そういう事じゃなくて」
カイワレは一瞬口ごもる。
「何かいつものカイちゃんらしくなーいなッ!深刻なハナシ?」
若森はタバコを吸いながら、カイワレを薄目で見つめる。
「今回の企画、俺絶対に成功させたいんです!それでですね!」
「お…おおおおおーー!?カイちゃんにやっとやる気アンテナが立ったー!!それでそれで?」
タバコを灰皿へポイと放り、若森は弾けるような笑顔でカイワレの両肩をガクガクと揺さぶった。
カイワレは身体をくねらせて若森からの両手から脱け出し、あらためて真剣なまなざしを向けた。
「今回の企画書を簡素に編集して、ネタ提供者とその娘さんに見せてもいいですか?」
若森は吸いかけのタバコを灰皿からまた拾いくわえ直し、顔を真上に向けしばらく黙った。
⭐︎
カイワレはネタ提供者の事情を手短かに説明した。
「経緯(いきさつ)はわかった。本来なら会社として情報を外部流出する事には許可はできないんだが。今回に限り、カイワレ君の真剣な想いと、これからの素晴らしい原稿に期待して、わたくし若森が、この件に関して一切の責任を持つよ」
若森は大袈裟なジェスチャーを混じえて、カイワレへ自己アピールした。
そして、若森は続けて言った。
「俺と別れたかみさんの間にできた女の子がいるんだけど、それがそのネタ提供者の娘さんと同世代でな。難しいよな〜、その年頃の女の子ってのはさ」
遠い目をしながら若森は、しばらく会っていない娘を想った。
カイワレは何も言わず、黙って聞いていた。
食後の温かいコーヒーが届き、若森が二本目のタバコに火を点けた時、カイワレがぼそりと呟いた。
「借り、ですかね?」
「そ!大きな貸し!それと今度飲みに付き合ってもらおう!」
と若森は嬉々としてカイワレに告げた。
「えー借りとか言わなきゃ良かった。若森さん、飲み出すと長いからなぁ」
「ありがとうございます、は!?」
「ありがとうございます」
「若森さんと〜?」
若森は復唱を促すように、カイワレに目配せをする。
「若森さんと」
「飲みに〜行きたいです♪ハイッ!」
「飲みに、行きた…いです」
「よーし、じゃ今から飲みに行くぞ!」
若森はご機嫌でカイワレを誘った。
「え、今!?真っ昼間から!?…はいはい行きますよ」
カイワレはブツクサ言いながら半ばあきらめたように、若森からの急な誘いを呑む事にした。
若森は薄ら笑いを浮かべて、ヨシっ!と、拳に力を込めた。
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