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ステラおばさんじゃねーよっ‼️㊾葬儀〜御通夜

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️㊽葬儀準備 は、こちら。



🍪 超・救急車


翌朝に歩を学校へ送り出した後、知波は児童養護施設《しらゆり園》へ電話をかけた。

「もしもし、わたくし河愛 聖さんの…友人で、小鳥遊と申します。聖さんが亡くなられた事を病院で伺いまして」

聖の数少ない知人からの連絡だからだろうか、施設の職員は深い悲しみを共有できる相手として、いたわりの言葉をかけ、葬儀の予定を丁寧に伝えてくれた。

本日16時から御通夜との事で、会場の【ルミエール斎場】は八雄駅から歩いて10分くらいの場所にあった。

歩が帰宅する前に、御焼香だけでもあげに行っておきたい。

知波は悲嘆に暮れそうな気持をぐっと抑え、慌ただしく喪服の支度をした。

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カイワレは結局ホテルで一睡もできず、仕事の徹夜明けとはまるで異質の昂揚感に支配されていた。

実は身内だった人の葬儀を主催する…なんて、今までの生い立ちからは想像すらできなかった。

しかもあんなに身近にいたのに、何の恩返しもできずに、聖は逝ってしまった。

カイワレは天井を見ながら、顔上に両腕をクロスさせ、熱い目頭の上に置いた。

一条の涙がまた、こぼれ落ちた。

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カイワレはホテルにいても落ち着かないので、結局昼過ぎには斎場に出向いた。

ポーちゃんとひかりを探すと、控室の隅で仮眠を取っていたので、そっとしておいた。

カイワレにとっては喪服に袖を通すのも、生まれて初めての経験。

貸衣装の喪服は、ひかりがポーちゃんからカイワレのおよそのサイズで手配してくれたもので、少しダブついている。

そして普段まったく頓着のない髪を整髪し、身だしなみを正した。

あと数時間後には、弔問客が何人かは訪れるだろう。

「聖先生…」

人見知りなカイワレでも、今日は緊張感より喪失感だけがまとわりついていた。

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知波は喪服に着替え、斎場まで自転車を飛ばしていた。

真冬到来の時季で、自転車を漕ぐ黒脚のストッキングを通して、刺すように冷たい空気が脚の毛穴すべてから入り込んでくる。

斎場の駐輪場に着き、ボサボサになった髪を何となく撫でつけながら、斎場の中へ入っていった。

【河愛家】と毛筆で書かれた貼り紙を見つけると、受付には若い男女が立っている。

「お越しいただきありがとうございます。こちらに御記帳ください」

知波は筆ペンを持つ手が、少し震えた。

御霊前を渡し会場へ進もうとした時、祭壇間近の遠く視線の先に、知波は見た事のある長身の男性が立っているのが見えた。

え!?

なんであそこに、カイワレさんが立っているの!?

知波は不意に後ずさりし、後ろを振り返った。

そして受付のポーちゃんとひかりに、

「急用を思い出しましたので帰ります」

と告げ、踵(きびす)を返した。

「あ、ではこちらの返礼品をお持ちください」

「急いでおりますので結構です」

足速に知波は出口に向かった。

受付のふたりは顔を見合せて、

「あの方、どうしちゃったんだろう」

「……あ!ねえウタ、この名前」

ひかりは記帳された名前を指差して、ポーちゃんへその文字を追わせた。

「小鳥遊…知波?どこかで聞いた事あるような」

「ねえ!たいしろうさんのお母様の名前じゃない?」

それを聞いた瞬間、ポーちゃんは知波を追いかけ走り出した。

「待ってください、小鳥遊さん!!」

なんで、追いかけてくるの?!

知波は怖くなって急いで自転車にまたがり、斎場から必死になって走り去った。

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「ごめんカンちゃーん。逃げられちゃったわ」

ポーちゃんはゼーゼーと息を切らしながら、悔しそうにひかりに告げた。

「追いかけられたら、人は逃げるものなのね。理由があっても、なくても」

ひかりは哲学者のように、ふと呟いた。

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