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ステラおばさんじゃねーよっ‼️89.初恋の萌(きざし)①〜ボサノバ

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️88.忘恋(ぼうれん)の彼方 は、こちら。



🍪 超・救急車


島から帰宅した翌日より、カイワレにはライターの日常が戻った。

いつもより遅めに起きると既に部屋には誰ひとりおらず、しんとした空気が冷たく張りつめている。

窓を細く開けると、どっちつかずのぬるい秋風が顔を鈍くかすった。

ダイニングテーブルには、ハムエッグとバターが塗られたトーストの皿が置かれ、メモ書きには、

《おはよう!今日も執筆、頑張ってね! 知波》

と書かれ、名前の後に林檎の画がぽつりと描かれている。

林檎の画が目に入ると、昨晩の恋バナで赤面した知波を思い出し、カイワレはくすりと笑った。

寝起きの顔をすっきりさせたくて洗面台へ向かうと、真っ先に自分の姿が鏡に映る。

髪、のびきっていて寝癖で爆発中…。

「ボサノバやん」

と思わず呟いた。

洗面ついでに、髪を湯で濡らし手ぐしで整えた。

⭐︎

ピンポーン…。

誰もいないせいか、インターホンの音がいつも以上に大きく聞こえた。

エントランスモニターに映ったのは、若森だった。

「どちら様ですか?」

「あ、俺、俺〜!近くまで来たから打合せしたいな〜なんて。開けてくれる?」

「アポ無しの来客は、お断りしています」

「なぁそこをなんとか、カイちゃん!」

合掌し人たらしな笑顔が、寝起きのカイワレを軽く苛つかせる。

「はぁ、わかりました。着替えるんで5分くらいそこで待機してもらえますか?」

ため息をつきながらもカイワレはパジャマからお気に入りのパーカーへ着替え、来客の準備をした。

⭐︎

5分ちょうどに、カイワレ宅の扉は開いた。

「ごめんな、急な来訪で。あ、紹介します。君の出版担当の小比類巻◯◯さん」

若森だけの来訪想定だったので、もうひとりの来客、しかも女性の姿に動転し、若森が口にした名がカイワレにははっきり聞こえなかった。

「あ、あの、小比類巻 萌 (こひるいまき もえ)です。急にお邪魔してしまい申し訳ございません!」

頭を下げた萌はおどおどした態度で、眼鏡越しからカイワレの目をおずおずと見やった。

「あ、どうぞ。急でしたので散らかっていますが」

若森はカイワレに【人見知りスイッチ】が入ったのをすぐに見抜いた。

紋切り型でぶっきら棒な初対面の応対に若森は、【またか…】と、苦笑するしかなかった。

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