見出し画像

ステラおばさんじゃねーよっ‼️88.忘恋(ぼうれん)の彼方

👆ステラおばさんじゃねーよっ‼️87.家族が増えた日 は、こちら。




🍪 超・救急車



「いただきまーす!!」

丹精込め作られた料理をしっかりと味わい噛みしめながら、ふたりは歩を褒めたたえた。

「このコロッケ、サクサクで美味い!」

「ポテサラの隠し味、教えて〜!!」

歩はそんなふたりのふるまいを見て、いつしか機嫌が直っていた。

「歩、いま学校はどう?」

カイワレが近況を訊ね、初めて歩を呼び捨てで呼んだ。

「実習でね、患者役、看護師役に分かれて看護シミュレーションをやるんだけど、まだちょっと緊張しちゃう」

「医療用語って覚えるのすごく大変そうだしなぁ。ね、知波先輩!」

とカイワレが知波へ話を振ると、

「そうね。まずは看護状況に応じた段取りや作業を体で覚えながら、少しずつ患者さんの心に寄り添えるように意識したらいいんじゃないかな」

歩は新米を口に運びながら知波の助言にうなずき応えた。

「ところでさ」

歩が知波に問いかけた。

「何でも訊いて。ママも看護師のはしくれだから答えられる事はすべて答えるから」

すると歩はつかんでいた箸を下ろし、あらたまった雰囲気を醸し知波に訊いた。

「はい、先輩!若森さんとの関係は今、どうなってますか?」

知波とカイワレは、同時に飲んでいた汁物を吹き出した。

「いやだ、ふたりとも!噴水なの?マーライオンみた〜い!!」

ケタケタ笑いながら、歩はテーブル布巾を取りにキッチンへ走った。

ふたりは顔を見合せ、知波はばつが悪そうにうつむいた。

⭐︎

汚れたテーブルを拭き、キッチンシンクを往復する歩は、綺麗な布巾を持って自席に着いた。

「えー、と」

知波は間投詞で時間を稼ぎながら、気持をどう言葉で表すか思案した。

「あのね、ママさ、恋の仕方を忘れてしまったの…今恋愛にまつわる本を読んでるんだけど、どうしたらいいのか計画を立ててる…」

「計画って、どんな??」

「恋のすすめ方…の?あれ、自分で何を言ってるのかわからなくなっちゃったよ」

知波の顔は、みるみる紅潮した。

「ママ、林檎みた〜い!」

歩は知波をからかった。

「だってママ、この年齢(とし)で恋するなんて思いもしなかったもの!あなたのパパとのそれが最後だと思ってたし。だから恋の仕方を本当に忘れちゃったの!!」

大人げなく、キレ気味に知波は応えた。

カイワレもそば耳を立て、ふたりの会話を黙って聞いている。

歩はあっけらかんとした調子で、

「恋なんてフィーリングでしょ?!考えたって仕方なくない!?ママが感じたままに動けばいいじゃん!あとはガッチリ、悟さんに受け止めてもらえばいいよ。ね、たい兄?」

歩からの恋バナキラーパスに戸惑いつつも、

「そ、そうだよ母さん。若森さんにぶつかっていくしかないよ」

ともっともらしい言葉を知波に投げた。

「そうね。でもまさかあなた達に恋愛指南を受ける日が来るなんて夢にも思わなかったわ」

そう言うと身の置き場に困り果てた知波は、

「あーもう、疲れたから寝るっ!」

と苦笑し自室へ戻った。

母は案外生涯3人めの恋について、真剣に考えているのだなと歩は思った。

カイワレは若森と知波がふたりで手をつなぎ街中を歩く姿を想像してみたが、どうしても受け容れられない自分がいるのに気づき、ハッとした。

リビングの飾り棚上に置かれた悠一朗の骨壷の蓋が、カタリと動いた気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?