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【食】伊勢詣一月家賑

減らない焼酎

   まるでそれは、酒場の景色の一部のような、そんな常連があつまる店に悪い店は、まず、ない。伊勢の宮町、一月家いちげつやのカウンターは常連七割といったところだろうか。そもそも、どうして自分が一月家ここの暖簾をくぐったのか、何度か思い出そうとしたが、さっぱり思い出せないのは、一月家の濃過ぎる緑茶割の原因せいかもしれない。わたしの記憶だと、今は無き、神奈川は青木町のみのかんの次に濃い。
   なんで、こんなに濃いの?と訊くと、おかわりつくるのが面倒だから、だと。ホントかな。そんな濃い焼酎の緑茶割には、ウヰスキーの瓶に入った水が供される。水をしつつ、緑茶割を飲んでると、若主人が「うちの焼酎減らないんよ」と、ニコッと笑う。商売にならないじゃないの。

一月家の焼きあげ

   一月家の油揚は、先日こちらでもお話した。揚げの香ばしさ、伊勢醤油の甘さ、どれをとっても旨いのだ。適量が最大の調味料だということは、百も承知なのだけれど、湯豆腐ーこれも名物ーをたのまずに、焼きあげを再度頼む。もちろん、自宅ウチで食べても旨いのだけど、わたしにとって、これはあくまで、『一月家の焼きあげ』なのだ。自宅ウチで食べる町家とうふ萬来のやみつきあげは、その向こうに、一月家への恋慕がある。ああ、一月家に行きたいな、という肴なのだ。

所変われば品名が変わる

   よこわという魚をご存知だろうか?わたしも三年前まで全く馴染みのない魚だった。いや、よく知っている魚ではあるものの、よこわという呼び方に馴染みがなかった。と、いうのが、正しいところだろうか。徳島へ仕事で行った際、秋田町の居酒屋で、よこわってなんですか?と訊くと、クロマグロの幼魚ですよ。と、返事が返ってきた。
   所謂、所変われば……と、いうやつだ。ちなみに、品変わる、ではなく、品名しななが変わる、だ。三重から西で見られる呼び名だそう。
   ねっとり、もっちりとしていて、さっぱりしてるところに、うっすら脂、なんだなんだ、いいところだらけじゃないか。と、いうのが、よこわ。これまた、甘めの伊勢醤油、たまりかな?が、よく合う。よこわを口にすると、ああ、西の旅だな、と、そう思う。

ひとをくうやつ

   伊勢の名物のひとつに、鮫がある。さめのたれと言って、味醂や塩で味をつけて、天日干しにしたものだ。房総半島や伊豆半島でも、クジラやイルカの日干しをタレと呼ぶが、同じ語源だろうか?タレにつけて、天日干しするから、たれ。でも、わたしは塩たれが好き。これもスーパーで買って帰る。さめは、フライやソテーだとふわっとしているが、さめのたれは身がぎゅっと詰まったよう。名物に旨いものあり。

宮町の海老は夜ひらく

   伊勢志摩に行くと、海老フライはひらいたもの、という絵面は知っていたものの、百聞は一食に如かず。いかにも酒場の肴たちという面々が続いたあとは、ちょっと揚げ物でも、という時の海老フライ。ひらきになると、とっても軽い揚げあがりになります。食感よりも、海老の香りがひろがるというか。

居酒屋カレー

   一月家愛が溢れて、思いの外の長文に。そして、写真を選んで、書いて、腹が減る。飯テロという言葉があるが、飯の自爆テロだ。一月家愛の短編数珠繋ぎ、最後はカレー。
   カレーライスと短冊がかかる酒場に、しばしば会う。わたしは、このカレーライスに滅法弱いのだ。まず、〆を、酒場ですることはないのだけれど、カレーライスは頼んでしまう。なんなら、ルーだけ貰えますか、と。そして、わざわざカレーを仕込む酒場のそれが、美味くないわけがない。
   一月家のカレーは野菜が全面にきて、スパイス控えめ。カレーを頼んだからと言って、その匂いが一月家の雰囲気を壊すということも、決してない。が、一月家ここでカレーライスをきめてしまったら、美鈴の餃子、からあげ、おにぎりは諦めるしかない。っと、美鈴のはなしまですると、また、長くなる。

   伊勢の一月家はひとつの到達点である。

書くことは、落語を演るのと同じように好きです。 高座ではおなししないようなおはなしを、したいとおもいます。もし、よろしければ、よろしくお願いします。 2000円以上サポートいただいた方には、ささやかながら、手ぬぐいをお礼にお送りいたします。ご住所を教えていただければと思います。