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2018年10月の記事一覧
VIV. 香りを伝える表現
個人調香した香水をお渡しする際には、調香に使用した全ての天然香料名とその比率のメモを一緒にお渡ししている。再現材料にもならないので調香師にとってもクライアントにとってもさして意味はなく、調香した季節に沿った香料原料の備忘録に過ぎない。同様に、調香ノートのトップ、ミドル、ラストの香料成分記載は、香りのコンセプトを理解する手助けにはなるものの、必ずしもそれらの成分が香るわけではないため参考以上のもので
もっとみるII. 私たちは香りについてまだ何も知らない
それから約2年間は、独学で香りに関することを調べ始めた。
化学、薬学、植物学、神経学、解剖学、心理学、歴史、切り口が無数にある。そして、調べれば調べるほど驚くことに、香りに関して知りたいことの大半が未解明であることを知る。心、記憶、意識に関わる香りの働きに興味を抱いている私の疑問には、答えの断片すら見つからなかった。
嗅覚の分子受容タンパクの種類はゲノムから推定可能でおよそ300程度と考えられて
III. 力をもつ香水
2013年12月、後にレッスン生として勉強会に加えて頂くことになる辻大介先生の個人調香を初めて受けた。そこに行きつくまでには、独学に加え、一般向けに開催されている植物療法や芳香療法の講習を受講してみたこともある。しかし、容易に手に取ることができるありふれた書籍に記載されている以上の情報は得られず、受講料を支払って知り得たことは、未だ香りは謎に満ちた世界であるにも拘らず、香りを使って何かをしようとし
もっとみるIV. ファッションフレグランスではない
制服を着ていたころから香水類に興味があった。しかし、私はファッションコンシャスな人間ではなく、美しい服もいい香りも、自分の身を飾るために纏うことはなかった。ただそれを身近に持ち、時々取り出し眺めてはひとり味わうような態度は今も変わらない。母が繰り返す「肌に付けるとかぶれる」という呪いの言葉も影響したのかもしれない。実際雑貨屋で売っている香り付き石鹸を使い両腕にひどく湿疹ができたことはあった。調香を
もっとみるVI.調香室 Śūnyatā スニャータ
調香室 Śūnyatā スニャータ:
サンスクリット語表記を選んだ。意味は[からっぽ、空 ku、実体がないこと、ゼロ、無]。
私が調香したいものは、流行や自己表現のために纏うファッションフレグランスではない。効能を謳うアロマテラピーではない。芸術表現とも違う。微かで尊い、香りの力を如何にしよう。香りの力を探り、楽しむための実験室。それこそ私が欲しかった場所。
「Śūnyatā」は、命の在り様を説
VII. 香りという”像”
人は感覚経験を蓄積しながら、独自の思考回路を脳内に構築している。それは日々変化しつつ、その人独自の回路となる。思考回路ができがると、感覚器からの情報をそのまま受けとり認識するよりも速く、過去の経験との照合を基に、脳内で情報が再構築される。それは、限られた時間の流れの中、スムーズに日常生活を営むために現代人が獲得した能力。特に年齢が上がるほど強くなる傾向がある。その能力と引き換えに、外界からの情報を
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