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先生。2weekのコンタクトが吹っ飛んだ日のこと、覚えていますか?

小学5年生から高校まで剣道をやっていた。高校時代は、バリバリの部活少女だった。

今でこそ髪の毛を伸ばしてメイクをして、ファッションを楽しんでいるけど、高校3年間は短髪で、怒られるのが怖くてメイクなんて考えたこともない。

髪の毛を伸ばしたり、リップクリームを塗ったりしただけで「色気づくな!」とシバかれる。そんな世界だった。


中学生の時に出会った道場の先生が、強くて美しくて、尊敬していた。その先生の指導を受け始めたら勝てるようになり、剣道が好きになった。

自分に自信もついたけれど、最後の大会は県大会入賞が精一杯で、自分の力の無さに、たくさん泣いた。

だからこそ、高校ではもっと強くなりたいと意気込んで、部活強化のクラスがある私立を選んだ。

高校の先生に声をかけてもらい、この人についていきたいと思ったからだ。


結論から言うと、私は何ひとつ結果を残せなかった。

技術も、心も、弱かった。


勝負をしてるのは、目の前の相手ではなく、いつも先生だった。

厳しい先生というのは、よく知っていた。
知っていたけど”ついていけなかった”というのが本音だろう。


剣道部のはずなのに竹刀放り出してプロレス始めるし、防具外されて投げられるし。負けてふっ飛ばされて、コンタクトが外れたこともある。

先生、あのコンタクト。新品の2weekだったんですよ。


今は笑い話にできるけど、当時は「生きるか死ぬか」選択肢は2つしかないと思ってた。


好きだったはずの剣道は、大嫌いになった。



今でも覚えているのは、校内試合で後輩に負けた日。

人生で初めて、心が折れた。

後輩は普通クラスで、私は部活強化のクラス。後輩の方が練習量は少ないはずなのに。

ボロクソに怒られると思いきや、汚いものを見るような、冷たい目で見られた。

そりゃ、そうか。勝てない私は、意味がない。

弱すぎる自分の存在価値がわからなくて、プライドもメンタルもズタボロだった。


迎えにきた父の車に乗った瞬間、涙が溢れて止まらなかった。


毎朝ご飯を持って6時前に家を出て、親に駅まで送ってもらって、朝練して。週2日は午後からずっと部活して。高い学費を出してもらってるのに、結果を出すことができない。

両親に申し訳なくて「ごめんね、ごめんね」と思いながら、自分の弱さに絶望した。


今思えば、本当の努力や強くなる練習は、できていなかった。

生きることに必死で、常に監視されてるような気がして、怒られないように、負けないように。”努力してる風”の練習ばかりだった。

勝つための試合ではなく、負けないように逃げる試合しかできなくなった。

先生は、私たちを強くすることを諦めた。

私の思い込みかもしれないけど、見捨てられる怖さを知ったのは、それが初めてだった。


高校生といえばキラキラしたイメージだけど、私の高校3年間は、傷だらけで泥だらけ。

青春と呼べるほど、良い思い出はない。

私は何をやってもダメな人間なんだ。
それを思い知らされた3年間だった。


それでも辞めずに卒業できたのは、支えてくれた家族と、保護者のおかげだった。

負け続ける弱い私を「勝たせてあげたい」と応援してくれる保護者。

我慢しきれず泣いて帰った時、一緒に泣いてくれた母、一緒に怒ってくれた兄弟、無口な父の応援。それが私の支えだった。


高校3年間で「強くならないと」「頑張らないと」根性が完成した。
それは長年、私を悩ませ苦しめた。できない自分を何度も責めた。

本当は「生き抜いた」ことを褒めたかった。

昨年になってようやく「弱いワタシ」を許すことができた。初めて、自分で自分を抱きしめることができた。



卒業してから、先生には1回しか会ってない。たしか、後輩の試合を見に行って、会ったきり。高校卒業直後に携帯を紛失して、先生の電話番号もなくしたので、5年ほど音信不通だった。

高校は数回遊びに行ったけど、タイミングが合わなかった。職員会議だったり家族の都合だったり。いろんな人に「わざと?」と聞かれる。

毎度会いに行ってるはずなんですけどね…。

でも、会えないことに、いつもホッとしていた。

きっと私は、心の中で先生を責めていたのだ。

弱い自分を認められなくて。
先生に見てもらえなかったことを、認めたくなくて。

会ったらドロドロの黒い感情に襲われそうで、会いたくなかった。

先生が怖くて大嫌いだった。そして、大好きだった。
だからこそ、認めたくなかった。


去年の年末、人伝に聞いた先生の電話番号に、ショートメールを送った。

返信と着信が入っていたけど、気付いたのは3日後。わざとじゃない。そして、返信は気まずくてできていないまま。

なんて肝の座った人間になったの…。

返信もせず先生には申し訳ないけど、私の中では大きな一歩を踏み出せて満足だった。


先生。
高校の時、先生が怖くて仕方ありませんでした。先輩達がかわいいのはわかるけど、私達のことも見て欲しかったな。私達のことも、信じて応援してほしかった。味方でいてほしかった。

先生。
私はずっと自分が信じられなくて、自分が嫌いでした。でも今は、高校時代の私を、抱きしめている自分がいます。高校生の私は、1人で頑張ろうとしすぎました。もっと先生と、周りを頼ればよかった。もっとみんなを信じればよかった。私は強くなるために必死で、先生は強くさせるために必死でした。
今になって気付きました。

今の私は周りに頼ってばかりで”弱い”けど、信じられる人がいるから”強い”と思う。

「周りに感謝しなさい」「最後は人間性だよ」と言われ続けてきた意味が、ようやくわかった気がします。


もう少ししたら、今度は電話します。
いや。やっぱり、会いに行きますね。世界が落ち着いた頃に。

その時も、コンタクトは付けていきますね。

やっぱり私は、先生が好きだと思います。


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