愛以外引っ込んでろよ
身体の筋肉痛がいつまでもとれない。呪いのように寝ても覚めてもびっちりとまとわりつく。3日前にやった芸人草野球でのダメージが草じゃ毎度済まない。劇場であの日野球をした芸人みんなに聞いて、百発百中でみんな呪いを背負ってた。全ては等価交換。1人200円で味わう大娯楽の代償は、あまりにも長くて、あまりにも嫌じゃない。ただ痛いだけだ。それでもあんなに笑って楽しんで200円は安すぎるよ。酒やパチンコや競馬やTVゲーム。全ての娯楽で草野球が一位になった時、それは世界が平和になった時。みんなでトンボかけてアクエリアスで乾杯したい。
ここ最近は、毎年春になれば、ママタルトの2人を主催に芸人たちで集まって草野球をする。大学まで野球をやってた熟練者もいれば、僕みたいに一切野球に触れてこなかったド素人もいて。全部ごっちゃになってじゃんけんでグーパーしてチームを分ける。好きな球団のユニフォームを着てるやつもいれば、サッカーユニフォーム着てるやつもいるし、短パンで来て後悔するやつもいる。毎度ランニングシューズで挑む僕は帰りは砂まみれになって靴下が終わっちゃう。それでもいいさ、お咎めなし、お気楽野球がこの草野球のいいとこだ。
休日にわざわざ会うことないのぶきよと唯一休日に会うのがこの草野球。ちなみにあいつはソフトボール経験者だから素人の僕からしたら神の域で上手い。とにかく下手な僕らが何を頑張るかと言うと、声しかない。とにかく声を出す。ガヤ野球。基本的に素晴らしいプレーが出たらみんなで
「野球ー!!!!」
「野球すぎ!!!!」
「今のはまじで、せーの、野球!!!!」
もうこれしかない。
誰かがミスしたら、声が出てなかったからだ。俺たちには声が足りてなかった。人間と人間でやってんだ、そりゃミスが出る。その隙間を俺たちは、声で埋めるんだよ。
いかに前のめりで楽しんで声を出すか。もはや野球ではない、野声。野声なのだ。
事務所も芸人も作家も職種も関係なく集まって、僕たちはゲラゲラと野声で笑う。ゲームセットの声が鳴り、試合は終わる。主催のママタルトの肥満がみんなに叫ぶ。
「すいません、今回は新しいバットを導入したので、1人、、、、800円になります!!!」
「安すぎんだろ!!!!!!!!」
「ありがとう!!!!!!!!!」
僕らは風神雷神の如く、この二言を返し刀に叫ぶ。大の大人たちが集まって4〜5時間笑いまくって800円はどうかしてる。全人類が草野球をしてほしい。僕なんて3打席ノーヒット。筋肉痛地獄。それでもあぁ楽しかったと笑う。こんな健康でコスパの良い娯楽は無いよ。
グラウンドの外には桜が綺麗に満開で。いつも試合終わりホームベースで全体写真を撮るけど、誰かが桜の前で撮ろうよと言って、それもそうだなとみんなで移動した。1番後ろでみんなが桜に向かって歩いてるのを見て、
「これが幸せじゃん」
東京に来て14年。染まりに染まった標準語が心から飛び出した。
春の夜の夢のごとし。儚いなら重ねりゃいいじゃん。何度でも。平家たちもけまりして笑ってたのだろう。何度でも。
各々、それぞれの仕事や予定に帰っていって。僕は公園内の売店でちびっ子たちに並んで、ブタメンとオレンジジュースを買った。公園で食うブタメンの美味しさたるや。脳汁が鼻骨を通って鼻血として噴き出る。隣じゃのぶきよがコーラとおにぎりを食べていた。みんなは知らないかもしれないけど、永い地球の歴史で、稀にあるんだよ。コーラとおにぎりがケミストリーする瞬間。オレンジジュースと豚骨ラーメンもそうなんだけどさ。足りない隙間は声で埋めるんだ。これが幸せじゃん。
3月31日。
無限大で恒例のチャンピオンシップがあった。もうバトルなんてこりごりだよと嘆くも、いざ始まったら負けたくねえからみんな轟々と、静かに青く燃える。今回は予選が2つにブロックに分かれていて、上位5組ずつが決勝ブロックにいく。惜しくもどころか、全然かすりもせず僕らサンシャインは予選で負ける。トホホの果て。そして決勝は、ダイタクさんとマユリカのどちらが優勝するかの一騎打ちになり、賞金30万ということもあり、熱気は加速する。というのも楽屋にいるダイタクさんに金貸してる芸人たちがどうにかダイタクさんに勝ってほしいと、競馬の有馬記念並みに熱くなる。
「いけ!いけー!カテヨダイタクー!!」
完全に競走馬となるダイタクさん。しかし僅差、鼻の差で勝ったのはマユリカ。浪速のサラブレッド、ズットモキモダチが優勝賞金30万を手にした。
白熱したチャンピオンシップ。みんな面白くて流石の無限大メンバーの層の厚さ。全員面白いから仕方ない。
熱が帯びる中、僕はと言えば、水をもう3リットルは呑んでいた。緊張して永遠に喉が渇く。
その日の最後のライブはオズワルドの無限大卒業ライブ。
僕は監修の作家の山田ナビスコさんから、出し物を頼まれていた。
ライブ後半での出番。後輩のトニーフランクと、オズワルドへの贈る詩。
「俺たちだけが知ってるオズワルド」
昨年末のダイタク生誕祭でのダイタクさんへ生誕祝いの詩で、イケると見込んでくれた山田さんからのオファー。そんな大役、恐れ多いが、それはもう是非と引き受けた。一個下の後輩で、賞レースはもちろん、今じゃテレビで見ない日ないぐらい売れてるけど、ずっと泥水すすってきた時から知ってる可愛い後輩の旅立ちに。どんな言葉を贈ろうか、話を貰ってからずっとずっと考えていた。
ライブはMCダイタクさんの見事なさばきで、最初からクライマックス。伊藤VSギャガー軍団のギャグ合戦。客席には最前列から芸人がガヤとして座っていて、最高潮の盛り上がり。呆れるほど面白かった。ライブ時間が限られてるため、1人1発。それはもう一撃必殺の嵐。全員人間力とユーモア爆発で笑いすぎて涙が出た。特にニッ社ケツのギャグがちょっともうやばすぎた。なんだあいつ。天才というよりもう、化け物だな。僕が見たギャグ史上、一番殺傷能力があった。人を笑い殺すギャグ。
「犬のうんことー、猫のうんこをー、ハイハイ、ハハイッ!!!」
文字で現すには到底無理がある。ダイの大冒険でいう、フィンガーフレアボムズ。メラゾーマ5発分。
なんなら、集めてる感じからいってもう悟空の元気玉。ブウを倒した時の、地球のみんな全員から集めた、笑気玉。
ちょっともう凄すぎた。なんだよあいつ。かっこいいよ本当。本人は、集めて食べるイメージで、、とか言ってた。なんなんだよまじで。意味わかんねえよな。スカトロで爆笑とってた。みんな本当に爆発したように笑った。
そしてオズワルド畠中のオリジナルソング、バンドバージョン。これがまた最高だった。「うさぎとかめ」畠中が作詞作曲した曲。畠中の歌声はもちろん歌詞が沁みるほどに素晴らしい。バンドには、ギター辻井さん、ベースのぶきよ、ドラムス原田フニャオ、バイオリン俵山、カズー大原。なんだよカズーて。楽器隊のみんなも素晴らしくて、なにより俵山のバイオリンが上手すぎて笑ってしまう。なんでもやっぱり過ぎると最高に面白い。なんで弾けるんだよバイオリン。
歌終わりのメンバー紹介でのフニャオのドラムも最高だった。あれももう文字では書けない。またいつか見れる日をみんな楽しみにしてほしい。あとで聞いたら、フニャオは天然で、かっこいいと思って本気でやってたみたいだ。最高だよ。本気はいつだってかっこよくて、いつだって面白い。
次に震源棒ゲーム。これも伊藤とイワクラちゃんの絡みが最高だった。そして熊元プロレスの名人芸。あれはもう名人だよ。なんだよ自分のちんこ確認するって。天才の名人芸。
そして僕たちの出番。ダイタク生誕祭を知ってるダンビラムーチョ大原と原田、キンボシ有宗は、僕がやると知ってから凄い楽しみにしてくれていた。仲間が楽しみにしてくれるのは嬉しい。でもお客さんはまだしも、ほとんどの芸人たちが知らない。
トニーがギターでイントロを奏でる。最近まぶたが重いからと、二重に整形したトニーが登場だけで爆笑をとる。頼もしいよこいつは。イントロが鳴る中、後から僕が出てくる。オズワルドにはもちろん、芸人みんなにも内緒だったから、何すんのこれ?という不思議な空気だったろう。
唄は、俺たちだけが知ってるオズワルド。オズワルド2人の紹介から、思い出の歴史。芸人仲間とのエピソード。みんなが想うことを願うことを代表して叫ばせてもらった。
一個一個のエピソードを歌う隙間の、客席の芸人たちの声に、熱狂に打たれ、想いは加速した。
僕らと同じ担当マネージャーの白坂との思い出。2019年。不義理にあって、悔しくて泣いた夜。3人で悔しさを分かち合って誓った夜。M-1決勝。その約束を果たした夜。そして果たし続けた先の夜。いくつもの夜があって、この劇場の、この瞬間に、辿り着いたんだよ。
「覚悟のないやつは引っ込んでろ。愛だけだ。愛だけがここにある。愛だけが用がある。愛以外は引っ込んでろよ」
想いのままに振り上げた拳は、呼応するように。客席に振り上がったいくつもの拳に、心が湧いた。上げた拳の意味が、想いが、葛藤や挫折や、闘い抜いた日々が、痛いほどにわかって。わかりすぎて僕らは同時に拳を突き上げた。馬鹿みたいに笑って馬鹿みたいに突き上げた。どうしようもなく、その夜の価値を僕ら分かちあって、抱きしめた。お前は最高で。僕らは最高で。どうしようもなくダメで、どうしようもなく美しくて。それをみんなで分かち合ったんだよ。僕らはみんなで分かち合ったんだ。
ライブが終わって、ダイタク大さんとダンビラ原田とトニーと伊藤と呑んだ。今夜のライブがいかに素晴らしかったか。1秒も無駄な瞬間が無くて、こんなにも素晴らしい時間はなかった。あの悪魔の双子の兄貴、大さんがずっと、良かった、良かったと今夜のライブを褒めていた。こんなこと200年に一度だぜ。全員が素晴らしかった、東京吉本のライブの最高傑作だとみんなで褒め合って、みんなのボケを一個一個思い出して、馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに美味い酒を呑んだ。
次の日、のぶきよからもめちゃくちゃに褒められた。
「年に一度、俺がお前を褒める日や」とライオンの父かの如くツンデレで褒めてきた。
「素晴らしかった。あんなの出来るやつお前しかいない。唯一無二、感動した。すげえよ、嫉妬したよ芸人として。売れる要素は十分にある。後は周りの意見を上手く聞くか、自分で考え抜くかだな」
なんやこいつ。なに目線で言ってんだよ。それでもこんな素直に褒めちぎってくれる愛すべき馬鹿はこいつしかいない。嬉しいよ。こいつも唯一無二の化け物だ。売れなきゃ嘘だよ。
白坂マネージャーはもちろん、いろんな社員さんたちからもお褒めの言葉を貰ってなにより。闘ってるのは何も芸人だけじゃない。マネージャーも劇場スタッフさんも、みんなで創り上げてる。沢山の芸人の仲間たちやスタッフさんに沢山褒められてとてつもなく嬉しい。でも何より嬉しいのは僕らみんなもがいてもがいて、それでも笑って、たどり着いたあの夜で、お客さんもスタッフさんも、あの瞬間に一緒に心が動いたことが嬉しい。そんなこと人生でいくつも無い。あってたまるか。だからこそ、それが嬉しいのだ。
今日の楽屋で、マルセイユ別府さんがいたのでライブでのギャグと歌をお互い褒め合ってたら、紅しょうが稲田が
「もうええて。そんな何日も前の話で褒め合わんで!!」
と、プリプリ怒ってた。
おいおい、どうした稲田?と聞くと
「配信何回も見直したわ!2人とも、好き!!!」
とんでもない反抗期の褒め方をされた。ツンデレすぎて笑っちゃったよ。今日も我が社の職場は愛で賑やかだ。
14年目になった。芸人になって丸13年が経つ。小1から高3まで、1番長くやってた剣道だって12年。人生でお笑いを1番長くやってる。
それなのに未だに上手く笑いをとれないし、ましてや稼ぎも無い。今日も、後輩のドッチモドッチが5分ネタのところを2分もショートしてたから、何してんだ、お前らの分も俺たちがやってやるとカッコつけて、変にアドリブでボケ足しすぎて収集つかなくなって9分間、脂汗かいて終わった。こういうことだぞ、と全く説得力ないアンサーを後輩に託し結果怒られた。楽屋には次のライブで、上京してきた大阪組の同期たちが沢山来てたけど、呑みいこうぜというのを我慢して、2時間家まで歩いてネタを考えた。一緒にずっと遊ぶには、闘わなくちゃいけねえもんな。そう言って鼓舞したとて筋肉痛でまともに考えられず泣きべそをかいて歩いた。遠回りして帰った道で新しい町中華の店を見つけた。これはもう勝ちだよなとグーグルマップでチェックして、近い未来の青椒肉絲に微笑んだ。張り切った矢先に明日からのぶきよは韓国旅行なもので、またしても連休。こうなりゃ新大久保でチャドルバギでも食べるか。薄い牛肉のあっさりしたやつ。美味すぎるんだよな。
とりあえず洗濯でもしよう。買ってまだ読んでない小説を読もう。溜めてるアニメを一気見しよう。遠くの銭湯に浸かりに行こう。日曜日よりの使者を練習しよう。久しぶりにカレーでも作ろう。日々を過ごそう。愛を持って進もう。笑うように生きよう。
読んでくださって皆さんありがとうございます。サポートは全てこれからの血となり肉となり人生となります。応援していただけたら最愛です。そしてここからはよりプライベートの日記です。是非是非に覗いてください。
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