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2020年、山火事・コロナ禍・ヒートウェーブのカリフォルニアの話

SUNSET CELLARShatone(はとね) fah(ファー)です。

米カリフォルニア州でワインを生産しています。2020年は私達新生SUNSET CELLARS チームにとって初めてフルで収穫から生産までをやり遂げた年でした。これは、過去最大の山火事と、前代未聞のコロナ禍の中での作業となりました。

こちらでお話したとおり、私達は増産に踏み切りました。
私達がどうして増産を決意できたのか、今回はお話をしていきます。

ワインブランドの2つの行方

もともとワインビジネスは、クラフトビールや合法マリファナ産業の急成長などに押され、だんだん縮小、もしくは統廃合が進むと言われています。
事実、ロバート・モンダヴィを経営するワインビジネスコングロマリットのコンスタレーションブランドは、数々のワインブランドを売却し、逆にマリファナビジネスに投資を始めています。先日も、マリファナ飲料へ参入するという発表がありました。
参考ニュース: Constellation Brands enters US cannabis beverage market

その中、ワインブランドはモンダヴィのような大企業や大ブランドか、もしくはマイクロクラフト系のローカルブランドに集約されていく傾向にあります。

SUNSET CELLARSもおかげさまでカリフォルニアのススーン・ヴァレーの根強いローカル顧客と、日本にて2019年からスタートしたVine Owner's Clubのメンバーシップに支えられ、マイクロワイナリーとして逆に成長軌道に乗ることが出来ています。

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この流れを強く感じたのが2020年の収穫でした。

私達は昨年までの減産体制から一気に650ケースまでの増産体制に1年で切替えました。ワインクラブ運営にとって、提供できるワインのバラエティは重要。バルベーラのような毎年ヴィンテージを作る固定アイテムに加え、何が新しいイノベーションをもたらすのか、どのような葡萄がローカルで収穫でき、また我々のZen Zinスタイル(とにかく質の良い葡萄を見つけ、その葡萄がなりたいようなワインを造る哲学)に合うのか。2020年の収穫はそのトライアル元年と位置づけ、小ロット生産でできるだけ多くの品種を生産する計画を当初から掲げていました。

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そしてコロナ禍

3月18日からのワイナリー閉鎖により、この先のビジネスに不穏な空気が流れる中、ススーン・ヴァレーのワイナリーのいくつかも廃業に追い込まれました。数年前よりワイン業界最大手のギャロ、ワグナー(Caymusブランド)などがススーン・ヴァレーの葡萄畑の買収統合を進めるのを横目でみて、何があってもこの地域の葡萄品質はナパ・ヴァレーに勝るとも劣らないと信じてやまない私達。テイスティングルームの改装を地道に行いながら、ワインメーカーのファーは日々地元の葡萄農家とコミュニケーションを取り続け、ネットワークを広げていきました。

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夏、過去最大級の山火事の避難勧告

例年よりも更に早く山火事のニュース。季節イベントだから、まあしょうがない、とはいえそのレベル感が2020年は半端ありませんでした。ススーン・ヴァレーは、LNU (Lightning Complex Fireの総称)という州でも過去最大級の山火事の避難勧告区域の勧告を受けました。コロナ禍でも営業を制限されている上、炎と灰塵で一時休業をやむを得なくされました。
収穫の季節はすぐに始まり、不穏な流れは続きます。

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数々の大手ワイナリーが灰の影響や品質の懸念から今年の収穫を見送るというニュースが流れます。その真っ只中でのナパ・ヴァレーの山火事。これが最後のボディブローノックアウト。お城のような建築で有名なカステロ・デ・アマロッサのワイン倉庫が焼け落ちる光景が象徴するように、世の中的には2020年は葡萄収穫の厄年のようになってしまいました。

ローカル葡萄農家とコミュニケーションを取り続けるファーは、この厄話を手にとるように直接農家から聞いています。彼らにとって、大手ワイナリーの収穫キャンセルは大きな痛手です。せっかく大事に育てた葡萄が収穫もなしに無駄になってしまいます。しかし、灰塵によって品質の担保もできない。その渦中で培われた私達との繋がりは、お互いにとってプライスレスだったと思います。赤ブドウの収穫になる9月、10月、ファーの電話にはひっきりなしに農家からのの電話がかかります。「来週ヒートウェーブ(※定義は様々だが、通常連続3日以上の例外的な高気温の気象条件を指す。カリフォルニアの場合は摂氏38度/華氏100度を超えるとヒートウェーブということが多い) になるから明日収穫するぞ。葡萄が欲しいか?」「せっかく収穫すると思ってたのにキャンセルされた。お前はどうだ?」など。ローカルマイクロワイナリーの強みが発揮されました。

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聞いた瞬間に少し車で走り、農園に行ってエリアをチェック。手に葡萄を取り、日差しを確認し、農園の中の最も品質が高く、かつ灰塵の影響を受けていない区画を特定し、農家との購買契約。そして次の日に収穫。この繰り返しでした。

お陰様で、カリニャン、チャボーノ、ペティ・シラーといった今後のワイン造りにたくさんの彩りを加えることのできる面白い葡萄品種の地元での収穫に成功しました。収穫後、プレスをした当たりから、恐る恐る葡萄ジュースを飲んでみては「うまい!」の連続。カリフォルニアワイン産業にとって世紀末のような2020年は新生SUNSET CELLARSにとってはとてもいい収穫元年になったのです。

「いい葡萄が採れなければいいワインは造れない」はダグの金言。葡萄のなりたいようにワインを造っていくSUNSET CELLARSの哲学「Zen Zin」とは収穫から始まるのだな。そうチーム全員で実感した2020年でした。

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コロナ禍、山火事、ヒートウェーブの最中で

大規模なワイナリーの場合、私達のような直接細かい区画別の品質査定を直接出来ないこともあります。不定期に訪れる収穫直前のタイミングで、葡萄畑をひとつひとつチェックするのは、とてつもなく大変な作業です。Zen Zinとは反対のスタイルのような、ゴールの味、色、質感を目指してワインを作っていくには、すべての品質チェックはリモートで行われ、検査の末に規格を満たさなければ生産できません。これがコロナ禍と山火事で大きな痛手となりました。

ワイン造りは農業。葡萄の品質や収穫タイミングは天候や他、様々なファクターによって気まぐれに変化します。それをリモートでコントロールするには、ラボの頻繁な検査が必要です。ところが、コロナ禍と山火事で、ただでさえ限られたリソースのラボが、休業や制限営業に追い込まれ、検査結果を短期間で得ることが出来くなってしまいました。サンプルを送って検査結果が出てくるまでに、数週間から1ヶ月。これでは明日収穫するか、という瀬戸際の意思決定が出来ません。ススーン・ヴァレーでは収穫のタイミングで少なくとも3回はヒートウェーブに見舞われました。ヒートウェーブの情報がいつくるかは不定期にもかかわらず、収穫をその前後どちらでするかで品質が大きく左右されてしまいます。

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SUNSET CELLARSは自分の目と舌と手で直接葡萄と接して判断する伝統を継承しています。だからこそ柔軟に、コロナ禍でも、山火事でも、ヒートウェーブでも、私達の追い求める夢に向かって突き進むことが出来ている。そのクラフト的な誇りを糧に、毎日ワイン造りに励んでいます。

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