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食本Vol.12『伝統食の復権』島田彰夫

☆日本人の”失われた食文化”の復権を常に伝え続けた一人の学者の本

先日、あるニュース番組でこの1年間でパックごはんの売上が急激に伸びていると報じていました。
主な理由は次のようなことだそうです。
その1:炊飯の手間暇の省略、時間短縮
その2:保存食防災食としての備蓄量の増加
その3:1回当たりの米の消費量の減少


日本人のコメ離れが進んでいると言うニュースにもはや驚きはありませんが、ごはんを炊くことを「面倒」と思うような時代になっているということには何か寂しさを感じます。

日本人はなぜ米を食べなくなってしまったのか。

これは単なる嗜好傾向の変化、ということではなく、今に至るまでの日本という国そのものが抱える様々な問題課題と歴史が関わっています。
本書を読むと、「食文化」に関して、果たして、本当に現代の日本は豊か、と言えるのだろうか、と思います。

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表紙です。粗食のススメ、みたいな内容かな、と思うテイですが、違います。

☆ヒトとしての食事。”日本民族”としての食事。
本書著者である島田彰夫氏が一貫して言い続けているのは動物の”ヒト”としての食事、そしてアメリカ人でもフランス人でもなドイツ人でもなく”日本民族”という人種のDNAが脈々と息づく我々の身体に必要不可欠な食事、です。
戦後、日本に欧米の文化である栄養学が持ち込まれ、欧米人の基準での栄養素の摂取、食物の調理方法などが様々な形で普及拡大そして浸透されていきました。
現代において栄養学や栄養素、油を使った炒め物等の調理方法は当たり前過ぎてなんの疑問も問題意識も持ちません。
しかし、島田彰夫氏が本書内でも書かれいるように、栄養学の成り立ち、日本にどのように入ってきたのか、など、知ることによって、現代日本における食、食文化というものをもう少し俯瞰で、客観的に考えることができるようになるかもしれません。
余談ですが、最近出版されたジャック・アタリ『食の歴史』で「栄養学というアメリカ資本主義の策略」の項にて政治経済と栄養学の関係について触れています。
※決して栄養学を否定しようとしているわけではありません。

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本書第4章に出てくるヒトのアミラーゼ活性の経年変化。ヒトはもっとでんぷんをとるべき!と島田先生。

☆読むだけでも目からうろこものの目次

序 章 今こそ「ヒト」に返るとき~動物として「食」をとらえる
第1章 食生活はいかに、”改悪”させられたか
    ・「北緯50度の栄養学」の導入 ・欧米人化を目指した栄養教育
    ・戦後の食生活改善運動 :商業主義による食の変容 
    ・『毎日がお祭り』の食生活 など
第2章 実験室”栄養学”の大罪~伝統食否定がもたらした不健康
    ・『栄養指導』を守った地域ほど悪い健康状態 
    ・ヒトとしての機能低下 ・生殖機能の低下 
    ・若者の『肩こり』の増加  など
第3章 「食」の健康”常識”を問い直す~日本人を呪縛する「栄養素信仰」
    ・牛乳でカルシウムは吸収できるのか?
    ・肉のない食事は貧しいのか? ・減塩運動の功罪
    ・科学的根拠のない高カルシウム・高タンパク思想 など
第4章 これからの食事の指針~ヒトらしい食生活を取り戻す
    ・一度、栄養素を忘れてみよう ・牛乳からの脱却
    ・デンプンに正当な評価を ・日本人らしい食生活を取り戻す 
    ・しっかりよく噛む など
終 章 地球問題として「食」を見直す~生態系のなかのヒト
    ・肉食の時代は続かない ・欧米人にとっても望まれる植物食
    ・食の安全を真剣に考える など

☆今回の”旅”で島田先生から教えてもらった「食」「食べる」こととは?
今回本書を通じて島田彰夫先生から教えてもらった「食」「食べる」ことと
は、その国、地域に根差したものであり、それはその国、地域の人々の遺伝子に受け継がれているということ。
すなわち、日本人本来の食文化、伝統食は日本人にとって日本人がこれから健康的な身体、遺伝子を後世につないでいくためにとても大切なものの一つなのですよ、ということを島田先生は現代の我々に伝え続けてこられたのだと思います。
島田彰夫氏は他にも多数の著書を書かれています。その一冊一冊が医学博士としての淡々とした、客観的な視点からの「食」と健康・地域・環境等をテーマとした本です。そしてその一冊一冊が全て日本人本来の食の在り方や豊かさを伝えています。

☆今回の食本
『伝統食の復権~栄養素信仰の呪縛を解く』島田彰夫著(不知火書房)

☆本日のおまけ~炊きたてごはんと自家製梅干し
毎年少しですが、梅干しを作ります。
炊きたてのごはんにふっくら大きな梅干し一つ。
これだけで幸せな気持ちになります。

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