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「重低音」とあくび

私はベーシストになりたかった。物心がつく中学生の時分、とにかく傾倒していたのが、某ビジュアル系ロックバンド。そのベーシストが大好きだった。聴くだけでは物足りず、どうしても弾いてみたくなった。親にベースを買ってほしいと言ってみたが、答えは予測できるほど早くNOだった。私は提案した。中1から中3までのお年玉を全額渡すので、高校に入ったらベースを買ってくれと。交渉は成立した。お年玉を全額渡すのはかなりキツかった。弟や姉たちはお正月のお年玉で好きなものを買い、見せびらかしてくる。私は全額親に渡したのでもちろん何も買えない・・・。3年間、我慢に我慢を重ねて、やっと高校に入学。父の車で毎週のように通っていた楽器店へ行き、ベースを買った。とにかく嬉しかった。当時はyou tubeなど無かったので、結構値の張るCD付きの教則本、有名ベーシストの教則ビデオなど、毎月のお小遣いからなんとか捻出して購入した。そのなかでも一番お金がかかったのが「弦」。ギターは高くても700~ 800円くらいで買えるのに、ベースの弦は3,000円くらいする。高1のときのお小遣いが月3,000円なので、弦を買うと、もうその月は何もできない。苦肉の策で「弦」を茹でて再利用したこともある。とにかく毎日夜遅くまでベースを弾き、ベースと一緒に寝て、ベースと一緒に起きていた。その頃からこっそり居酒屋でバイトも始めた。お金はある程度入っては来たが、今度は寝る時間がない。学校へ行っても居眠りばっかり。まともに授業は聴いていなかった。いま考えるとかなり無謀な生活だった。高校を卒業し中国に留学すると決めたとき、ベースはスパッとやめた。あれから何年経つだろう。いま思い出すのは、ベースを弾いているときの楽しさと、それをはるかに上回る強烈な睡魔だ。だから今でも重低音の効いた曲を聴くと、自然とあくびがでる。

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