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「自閉症」の歴史シリーズ①名前の由来

うつ病カウンセラーのしくじり日記は、あともう少し続きがありますが、私のしくじり体験だけでない知識の部分が何かのお役に立つのではないかと思い、新シリーズを立ち上げてみることにしました。

・きっかけ

きっかけは「TED」という動画アプリで知ったアメリカで実際に起きている悲しい無理解による出来事。アメリカだけでなく、世界中の一部の人々の中で「反ワクチン運動」なるものが起きているのだそうです。その背景には「ワクチンを摂取することで自閉症になる子どもが増えている」という実に信じられないような論文をとある医師が発表したことだったようです。その信じがたい言説を信じて、実際に子どもへのワクチン接種を拒否する保護者が増えているおかげで、本来であればワクチンで防げたはずの病に感染してしまう子どもが増えているのだとか・・・

とても受け入れがたい話でした。自閉症は「先天性」の症状である事が概ね明らかとなっており(被虐待児に見られる類似症状については後程概説します)ワクチン接種の有無が有症率に関連しているという発想自体が考えがたい事だと、少しでもお子さんの医療等に携わる立場の人間であれば理解できる事です。むしろお子さんの健康と安全を考えるならばワクチンを接種する選択の方がよっぽど健全かつ有効な判断のはずなのです(個々のワクチンの有用性等に関する議論についてはここでは扱いません。私は医者ではなく心理士ですので、心理士の観点からお話を進めます)。

確かに多くの、一般の方にとって理解しがたい症状や行動に不安感を持ち、それに伴う不確かで怪しげな言説を耳にすれば信じてすがりたくなる現象は、近年のウイルス騒動の元でも確認されています。昨今のウイルス騒動は人類にとって未だ未知の脅威であり、治療法もなく現時点で人類には予防対策・免疫による自然治癒以外に対抗手段がありません。それは発生してからまだ半年しかたたないうちに世界中で信じがたいほど急激な感染スピードで猛威を奮っているからに他なりません。しかしながら自閉症は違います。自閉症は60年以上も前から研究され続け、特にここ20年の研究精度の進化には目覚ましいものがあります。自閉症についての解明が精神医学の進歩、診断マニュアルの進化につながったと言っても過言ではありません。

そんな自閉症について(今回は特に意図的にこの表現を使用します)、もっと理解が広まれば、「自閉症にさせたくないからワクチンを摂取させない」とか「自閉症は親の育て方が悪いせいだ」という言説の流布に歯止めをかけ、適切な環境と対応により社会全体で相互理解できる仕組みづくりもできるのではないか、と考えてこのシリーズを記します。

前説が長くなりましたが、第1回は「自閉症という名前の由来」についてです。

・自分の中に閉じこもるから自閉症??

読んで字の如く、そのような理解をされている方が多いのではないかと思いますが、厳密にいうと少し違います。自閉症の名前の由来を知るためには、自閉症研究の歴史について遡る必要がありますね。

1943年 レオ・カナーというアメリカの児童精神科医が一つの研究を発表しました。『小児精神分裂病』というタイトルで知られるその書籍は、後の自閉症研究のパイオニアとしてカナーの地位を確立させました。精神分裂病とは、今でいう統合失調症の事です。つまり、カナーは「小さな子ども時期から統合失調症の症状が見られる子どもたちがいるよ」という報告をしたわけです。この小児精神分裂病がやがて「自閉症<autism>」という表現へと変わっていきます。

・autismとは

カナーが『小児精神分裂病』を発表した1943年から遡る事約20年、スイスの精神科医にオイゲン・ブロイラーというお医者さんがいました。ブロイラーは精神分裂病、つまり統合失調症の研究で著名な精神科医でした。ブロイラーは統合失調症の症状を特徴ごとに分類して、4つの基本症状を挙げました。その基本症状の一つが

『自閉性(じへいせい−autism)』

でした。ブロイラーは自閉性を、「現実世界から離れて、自己中心の空想的な精神生活を送る精神状態」と考えました。カナーは統合失調症の特徴の中でも特にこの「自閉性」の特徴が、『小児精神分裂病』の子ども達に見受けられることから「autism(自閉症)」という診断名を提唱しました。


・autism=自閉性と日本で訳したのはいつ頃誰が?

1968年、内村祐之という方が統合失調症の陰性症状としてのautismを自閉性と翻訳して以来(✳︎1)、日本国内ではautismに対して「自閉」という翻訳が当てられるようになりました。同時期、先述のカナーが『小児精神分裂病』と呼んでいた子どもたちの診断名として『autism』を用いた事で、日本では引き続きautismに「自閉」という訳を当てるようになりました。ただし、統合失調症の陰性症状としてのautismとカナーが命名した診断名としてのautismを分けて理解するために前者を「自閉性」、後者を「自閉症」と呼び分けるようになっていったのです。

この「自ら」「閉じこもる」という漢字のイメージが現在の自閉症に関する誤解や偏見にも少なからず影響を与えている可能性は否めないでしょう。しかしながら、自閉性と自閉症(いずれもautism)、というこのネーミングが実はこの自閉症研究の歴史において今もなお非常に重要な意味を持っているのです。


本日の自閉症の歴史シリーズの授業はここまで。

名前ばかりが先行して広まっていますが、今一度「その名前が付けられた意味や意図、背景」について理解を深める事が、この症状を正しく理解する糸口になる事について、今回の授業からご理解いただければ幸いでございます。


もし中の人と相談してみたい、と思ってくださった方はこちらまでお気軽にご連絡ください。皆様からのご相談、お待ちしております☺️

SUNNY DAYS カウンセリングルーム


それでは、起立!礼!

お読みいただきありがとうございました!


参考文献✳︎1:本田秀夫「自閉」という言葉の概念の変遷 (信州医誌 Vol.66)




有資格者の心理カウンセラーが自身のうつ病経験のしくじり体験談やそこから復職にいたるまでのコツや、病気と付き合う為のノウハウを記事にしています。遠隔カウンセリングも行っておりますので、なかなか外に出るのが難しかったり直接人と会うのが苦手な方もお気軽にお問い合わせ下さい☺️