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ひとを想う心が力になる

■ありがとうの気持ち

唐突ですが、皆さん最近誰かに「ありがとう」の気持ちを伝えていますか?

中々照れくさくて言葉にしづらいものですね。

この誰かに感謝する気持ちが、実はご自身の心を回復させる鍵になる、というお話を今回はお伝え致します。宗教や道徳の観念上の事ではなく、実際に心理療法の中でも取り入れられている技法とも関連しております。

どうか最後までお付き合い頂けますと幸いでございます。

■アンビバレントをメタ認知する

うつ病や適応障害、その他精神疾患の方の多くに前頭葉と呼ばれる脳の部位の機能低下が見られます。この機能が低下することで、ワーキングメモリと呼ばれる「記憶をちょっと仮置きする」機能が弱まり、考えがうまくまとまらなくなったり、単純計算が難しくなるという症状が見られます。

さらにこの前頭葉は『メタ認知』と呼ばれる認知能力も司る部位となっています。メタ認知、とは一言で言うと「自分や周囲の人の心と体の動きを俯瞰してみる能力」です。

例えばあなたは今この記事に目を通してくださっています。この時、あなたの心の中には「感謝が心を回復?何を言ってるんだ?」と疑惑の目を向けながら怪訝な表情でこの文章を読んでくださっている、とします。この時、今この瞬間、あなたの心の中に起きている感情や考え、そして表情や体の状況を俯瞰的に把握すると「今、自分はこの記事に対して疑わしい思いを感じ、興味と嘲笑の気持ちを持ちながらもひとまず最後までは目を通してやろう。あるいはつまらなかったら途中で読むのをやめてもいいだろう。と自分が思っていることに気づいている」状態だと言えます。

流石にこんな極端にうがった見方をする方はいらっしゃらないかもしれないので

「この記事を書いている人はこんなこと言っているけれど嘲笑と言われるとそれはないなぁ、でもどんな事言うのか興味はあるなぁ、信憑性はあるのかなぁ、と思っている状態に気づいている。」のかもしれません。

さらに突っ込んでみてみると、「興味と嘲笑」にせよ「信憑性への懐疑」にせよ、相反する心の動きが伴っている状態と言えます。ひとの心って一筋縄ではいかなくて、嬉しくもあり悲しくもある、とか悔しくもあり賞賛の気持ちもある、という相反する気持ちが入り混ざった動きをすることが多々あります。

この相反する心の動きのことを、心理臨床の言葉で言うと「アンビバレント」な状態と表現します。ひとの心は複雑怪奇と言われるのはまさに人間がアンビバレントな心をどちらも同時に抱えることがあるからです。

ところが生きている中で人は自分の心のアンビバレントな状態に常に気づけるわけではないのです。アンビバレントな状態のうち、どちらか片方にしか気づかない、あるいはどちらにも気づかず全く矛盾した非合理的な行動言動をとってしまうことさえある。『本当は愛しているのに傷つけてしまう』みたいなことが往々にしてあるわけです。そして、このアンビバレントな状態に気づかないで日々を生きていると、実は自分自身の中で葛藤が強まり、より苦しくなってしまう。『傷つけたくないのに傷つけてしまって落ち込む、うまく愛したいのに愛せない』何やらメロドラマのような事例に偏ってしまっていますが、こうしたひとの心の矛盾が生み出す悲哀が共感を呼ぶからこそ、エンターテイメントが成り立っている部分もあるのでしょう。

さて、このような苦しさから脱却するためにはどうしたら良いか。

その答えが先ほど述べた『メタ認知』にあります。アンビバレントな状態を、まずはメタ認知する、気づくこと。ご自身の心の葛藤の状態に気づくこと。『愛しているから傷つけたくない、でも傷つける振る舞いをしてしまうことで落ち込んでしまう、でも思い通りに愛情表現してもらえないと不安になってまた傷つけてしまう。。。』そんな心の矛盾にまずは気づく事が鍵となります。

言うはやすし、成すは難し。冒頭で触れたように精神疾患の方の多くは前頭葉の機能が低下する傾向があり、メタ認知はその前頭葉に紐づく認知機能です。だから「心が弱っている時には自分の心の状態を冷静に俯瞰することが難しい」のです。だってそれをするための脳が弱ってるんだから。

うつ症状の方で、周りから受診を勧奨されるのにご本人は一向に受診される気配がない、というケースが多くあるのもまさにご本人が冷静にご自身の心と体の状況を俯瞰してみられていない為に起きている事だと言えるでしょう。

■メタ認知は鍛えられる?

脳が弱っているならどうしたってメタ認知を働かせられないじゃないか、というお声もあるかもしれません。でも、ご安心ください。弱った脳機能はトレーニングで鍛え、食事と睡眠で修復する事が可能です。※不可逆的な外傷を覆った場合や脳血管障害等の脳疾患ではなくあくまで精神疾患についてお話をしています。

・脳トレアプリ

巷にはスマホでできる脳トレアプリが豊富に出ています。例えば骨折した時にリハビリをするように、精神疾患で弱った脳もリハビリが有効です。認知症の予防の為にも運動と脳トレに取り組む介護サービスが増えているように、休ませることよりも適度に負荷をかける事が機能維持回復には有効なのです。

(発症初期の方、急性期の方の場合療養が重要視されますので、主治医ともよくご相談下さい)

■感謝の気持ちを振り返る内観法

脳トレ以外でもメタ認知の訓練として取り組んでいただくのにお薦めなのが「内観法」です。

「内観」とは,文字どおり「自分の心の内側を観 察する」ということで,いわゆる「反省」や「内省」と同じような意味で使われている。
その内容と方法はシンプルで,過去から現在までの自分自身に関する「事実」を母親, 父親を始めとして,家族や身近な人々を対象に一定の期間に区切って年代順にていねいに 回想する(調べる)というものである。(齊藤,2015)

内観法の実践方法については詳しくはこちらをご参照ください。概略だけ触れておくと、内観法では自分の身近な人に対して

・してもらったこと

・して返したこと

・迷惑をかけたこと

この3点について、日記に書いたりして振り返ってみることを繰り返し行うことでご自身の心の在り様について理解を深めていく作業となります。

この振り返りは詰まるところ、自分と他者との関係性に目をむけ続ける行為に他なりません。その中でもしかすると、「ずっと恨み続けていた親に対して、実は何かしてもらっていた」と気づくこともあるかもしれません。恨みの根幹に触れる、ずっと思い続けていた気持ちの根幹が時に揺らぐこともあるかもしれない。内観が深まれば深まる程、時に辛い作業になるかもしれません。

ただ、こうした内観を経ることで人は自分の根底にある心の動きに気づくことができるようになる。結果として、ご自身の生きづらさを手放すことにつながっていくのです。


そういえば、まもなく母の日ですね。日頃の感謝を花束に、などと購買を促す謳い文句が耳障りに感じられる方もいらっしゃる事でしょう。かくいう私自身も実の母とは確執が拭いきれません。それでも、してもらった、して返した、迷惑をかけた、ことが全くなかったわけではありません。

メタ認知を深め、アンビバレントな気持ちに気づき、直接伝えることは難しくとも心の内でお世話になった人に感謝する。その心が、あなたの生きづらさを少しでも解消してくれることを願っています。

ここまで目を通してくださってありがとうございます。

SUNNY DAYSカウンセリングルームはオンラインカウンセリングを実施しています。もしご自身のお悩みや症状に関するご相談がございましたらお気軽にお問い合わせください。

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引用文献

日本学校教育相談会編 24 内観法 齊藤 優 , 2015



有資格者の心理カウンセラーが自身のうつ病経験のしくじり体験談やそこから復職にいたるまでのコツや、病気と付き合う為のノウハウを記事にしています。遠隔カウンセリングも行っておりますので、なかなか外に出るのが難しかったり直接人と会うのが苦手な方もお気軽にお問い合わせ下さい☺️