あと、何機? (1分小説)
西暦2100年。
新人類には、テレビゲームのように、あらかじめ『1人につき、3機分の命』が備えられている。
【国道】
倉田智也は、17歳の時と35歳の時に、それぞれ、ケンカによる強打とアルコール中毒で死亡したが、そのつど1機づつ使い、復活してきた。
ラスト1機を使う今になって、自分の行動を深く考えるようになる。
「道路が補正されていないし、視界もすごく悪いから、運転に気をつけてね」
助手席に座る10歳の娘も、心配そう。
今まで、飲酒運転もスピード違反もしてきた。命に替えがあると思うと、人間は行動が大胆になる。でも、もう後がない。
「ああ、気を付けるよ」
その時だった。
キキキーッ!!
対向車線を走るトラックが、中央分離帯を越え、倉田のセダンに突進してきた。
【病院 503号室】
トラックの運転手は、震える指で、看護師の腕をつかんだ。
「オレの居眠りのせいで、事故を起こしてしまった。セダンの人たちは、、、?」
看護師は、余裕のある手つきで、点滴をセットしている。
「男性は無傷でしたが、娘さんが残念なことに。でも、まあ、娘さんには、残り2機分の命がありましたから」
よかった。オレの刑罰もきっと軽いだろう。
トラック運転手は、罪悪より、安堵の気持ちでいっぱいになった。
【同じ病院 206号室】
倉田の娘は、顔の包帯を取り、手鏡を見て喜んだ。
「傷がない!」
倉田も、ホッと胸をなでおろす。
「パパの時も、何の跡形もなく生き返ったんだよ」
恐ろしい話だが。
娘が苦しみ、そして死んでも、まだ2機あると分かっていたから、倉田は泣けなかった。
トラック運転手への怒りも、あまり沸いてこない。
「ねえ、パパ。これなら、重傷を負って生きるより、さっさとあきらめて、2機目を生きた方がいいよね。命が複数あって、本当によかった」
となりのベッドのばあさんが、会話にわりこんできた。
「私たち旧人類は、最初から『1人につき、1機分の命』しかない。だから、自分や他人をもっと大切にしたもんじゃよ」
倉田には、おばあさんの言う意味がよくわかった。
バルバルバルバルルル
地響きがして、病室の窓に目をやると、戦闘機が低空飛行していた。街中が、戦火と煙に包まれている。
見慣れた光景。もう、何年も青い空を見ていない。
「ほら、命が3機もあるから、なかなか戦争も終わらないだろ。
ひとつしかない方が、よほど幸せで、世の中は平和なんじゃよ」
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