「君たちはどう生きるのか」を観るかどうか迷っている人への個人的な思い
「君はどう生きるのか」のレビューや感想をいくつかのサイトでみています。わからないという感想が思った以上に多くあった印象だし、また宮崎、ジブリ信者みたいなコメントもあったなという印象。
自分もそうでしたが賛否あって、「難しい」「わからない」という意見もあると躊躇することもあると思うので個人的にそういうところが何なのか?を意識しつつ、なるたけネタバレしないようにどうみるといいかを説明できればと思います。
これが宮崎監督という肩書がなければもっと気楽に観れたのかもしれないし、宮崎監督、ジブリ作品というのを必要以上に期待してしまうとそれに応えられない、応えようとしていない作品かなと思います。そういう点から期待外れと思う人が出てもしょうがないかなとも思います。宮崎監督作品という感じで構えてみるのではなく、なるべくフラットな状態で見る方が楽しめるのではないか?と感じました。
内容とすればテンポはいいです。だからこそ、テーマを深堀りしようとせずに観た方がいいように思います。個人的な感覚では小説を読んでいるような感覚で見るといいのかな、と思います。小説も一言一句、完全に理解しようとしていると硬すぎてしまい、テンポも悪くなってしまうし、頭も疲れて、楽しめません。最初の1回目の鑑賞ならあまり深く考えずに観た方がいいようにも思います。
■小説のような作品
ただ小説などをあまり読んでいない人だとそれだけだと本当にサッと時間が過ぎて、何だったの?ってことにはなるようにも感じます。行間というよりも想像力なのかな、作品との共感にも関わってきますがいろいろ想像できると内容が入ってくるようにも感じます。(変に肩ひじ張っていろいろ探るのは想像も狭くなりがちなのである程度自由に見るといい)
この作品は小説のような作品という印象も持っています。小説は読み手の想像力も必要になる場合もあるし、想像力がなければ面白味がないものもある。だからこそ作家はちょっとした言葉でもその言葉がどう受け取られるかを慎重に考え、悩んだりするんじゃないかなと思う。そしてそのように意識した文章では行間というのがあり、セリフ以外の余白といえばいいのか、言葉になっていない世界も存在しているように思っています。普通のアニメであればそのような部分は描けなく、逆に言えばクリエイターの考えている世界が全て描けることも可能かもしれない。余白がないことがいいアニメ、漫画なのかもしれない。高畑監督の「かぐや姫の物語」も個人的には小説的でアニメでここまで余白、行間がある作品はないと思っていて、とても好きな作品だ。奇しくも盟友の高畑さんと同じようにアニメに余白や行間を求めたのかもしれない。
自分も若い時はアニメや漫画が好きだと思っていたが年齢を重ねていくうちにそういったものから離れて、逆に小説などを読むことが増えた。またいずれ小説と漫画・アニメなどの説明などをブログで説明するかもしれないがこれらはジャンルであって、どちらが上でどちらが下というわけではなく、ジャンルの違うもの。ただアニメや漫画は少し説明したが多くのものが描けることで逆にあまり想像しなくても共感というのは簡単にできやすい。小説の場合、共感というのがしにくいが共感ができると想像というのは無限であるのでより深く意識できることもある。
小説などを読んでいたり、子供でも物事の本質を意識できる人だったりすればなんとなく共感をして、楽しく見れるのではないか?と思います。
これが自分が思う「君たちはどう生きるのか」を楽しむための一つの大きな要素かな。
■もう一つの要素(少しネタバレ)
それともう一つは価値観。これがどれだけ必要とされるか?自分はもう40半ばのおっさんで若い人の価値観と大きく違っているようにも思う。
これは宮崎監督だけでなく、自分たちの上の世代は持っていた価値観だと思うけど、「罪と罰」の価値観というのが自分たちの世代くらいまでのクリエイターにはあるように思います。自分たち世代なんかは直接、「罪と罰」を読んでいないとしても「罪と罰」に影響されて作られた作品を見て、そこから影響されている、そんな印象があります。それでは「罪と罰」の何が影響しているのか?ですが「混沌」と表現しますがそのような難しい答だと思います。「罪と罰」の内容自体も混沌になりますが作品を説明するのも長くなるのでヒロインのソーニャを例に挙げて説明します。このヒロインは聖女のような心を持った人物として登場しますが貧しい家庭の中で生きるために娼婦、売春をして生計を立てています。ある面からみればとても清らかであるものがある面からみると汚れた存在のようにもみえる。ピカソのキュビズムのような感じとも見えますが、20世紀、このような価値観は多くのクリエイターに影響を与えていたように思いますし、玉石混交ではないですが清濁が合わせて存在する、重なりあってこそ本当の世界だ、という価値観は強かったように思います。
こういったものは価値観なのでいい悪いではないとは思います。ただ「罪と罰」も初出から150年以上が経ち、このような価値観も薄れているようにも感じるし、その中で資本主義的な価値観というものも多くなったように思います。また資本主義的な価値観の中では白黒をはっきりつけるという場合も多くあるようにも感じます。ただ宮崎監督含め自分たち世代くらいまでは「罪と罰」の価値観は持っていて、そのような価値観、感覚がないと最後の部分、メッセージというのは価値観として受け取りにくいのではないかな?と思います。
以上、個人的に感じた大きく2つの要素を意識しておくと、もしかしたら、「君たちはどう生きるのか」を楽しめるかもしれません。
個人的にこの作品をどう評価するかは難しい作品だなと思います。単純に共感できれば面白いし、絵など描写も凄い。ただ新鮮さなどは個人的には感じなかった。まぁ宮崎監督もいい年で失礼なこと言えば、ポニョや風立ちぬなど見ていて、終わった印象も持っていた。今作品がナウシカやラピュタと同等の衝撃を受けたかというとそんなことはないけれど、宮崎監督作品、ジブリ作品として満足できるものになっているように思う。それなりの配慮はあるが監督の価値観で作って、見る人の想像力を必要とされる作品かなと思うし、アニメでそれをやるのはどうか?という見方もあって、駄作だという意見が出てもしょうがないかなとも思う。ただクリエイターとして、自分の価値観を全面に押し出して制作できるというのはかなり能力がないとできない、安易に売れる要素、共感を得やすいものを作るほうが楽だと思う。そういう面ではかなり挑戦していたと思うし、ある程度の人は楽しめるまでの娯楽性もつくれているとも思う。駄作か良作かは個人的には分かれると思うが名作ではあると思う。