見出し画像

天使達のシーンはどこの街の物語を奏でるのか。


小沢健二の2024年3月現在でサブスクリプションにのせてない名盤が、ファーストアルバム、”犬は吠えるがキャラバンは進む”である。

1993年のソロデビュー後間もなくしてリリースしたこのアルバムはフリッパーズギターとは異なるアプローチーソウル、ブルースを下敷きにした楽曲と内省的な歌詞で、2ndアルバム、”LIFE”が出たあとは犬派と人生派で抗争が起こるほどだったり、1997年ーアナウンスされていたニューアルバムがお蔵入りになった頃だーに”dogs”としてデザインを変えて発売されたり、2021年12月にはリマスタリングされて再発と、フィジカルとしてはけっこう何度もリリースされていたりする。
アルバムとして、なんとなくサブスクにあってないことやなにやかにやは本人が語ってたような。※


※2022年1月2日の小沢健二のXで、dogsが生産中止になった理由とデザイン、映画への楽曲提供のエピソードが乗っていたり。

天使達のシーンについて

で、2021年12月、唯一デジタルでシングル・カット、というのだろうか、ハイレゾで配信されたのが”天使達のシーン”だ。

約51分の収録のうち13分36秒をしめるこの曲は、アルバム通しで聴くと1曲目”昨日と今日”から夜の街で鬱々とした男(※別に女でもいいけど昨日と今日、では男とあるので)が地上の夜をさまよい、サタデーナイトにフィーバーした(アルバムではカーボーイ疾走)のちにたどり着く場所である。色んなとこでさんざんブンセキされてるので歌詞の精読はしないけど、小沢健二が言う通り、世界中で一番忙しい人間がいたとしても、13分30秒だけはこの曲に耳を傾けてほしいと、思うし本人は言ってないけど、多くの人が”救われた/救われたかったんだ”と思うに足る名曲だ。

もちろん、ライブでも重要な位置を占めていて、音源として残っているだけでもファーストワルツ(日比谷野外大音楽堂でのフリーコンサートを収めたビデオ)を始めどれも必聴のアレンジ。
21年12月の再発にはボーナスディスクとして18分を超えるスカパラギムラ氏に捧げられたバージョンがリマスタリングされて収められているけど、このまさに神がかった演奏は聴いてみてほしいと思う。

ここからがエントリタイトルの話である。


まずここまで読んでくれた方は、何らかの方法で一度は天使達のシーンを聴いているか、そもそも聴いたことがある方とおもうけど、そうじゃない人はまず聴いてほしい。
そして、13分31秒後に続きを読んでくれればと。


天使達のシーンの歌詞は、日常のシーンを淡々と重ね、それらをすべてを肯定していくところが、この曲が名曲たる所以だと思っている。

その中でこんなフレーズがある。
”真夜中流れる/ラジオからの/スティーリー・ダン/遠い街の/物語話してる”

抜き出してみても、こんな歌詞が紛れ込んでいる歌ってそうそうない。曲の中に日常が、そして遠い街、という非日常がラジオを通じてつながっていて、それは何度も繰り返される”君や僕をつないでるゆるやかな法則”が1つのシーンとして浮かんでくる。

個人的にも中学生で初めて聴いたとき、”スティーリー・ダン”がどんなバンドか知りたくてレンタルして聴いたり、そもそも印象的なリズムパターンがなんなのかを求めてカーティス・メイフィールドの”TrippingOut”からソウル・ミュージックに触れたりとこの曲だけでもどれだけ世界を広げてくれたことが思い出されたりする。

ところで、です。

最近の小沢健二のコンサート、ライブツアーでは”魔法的”以前の90年代の楽曲を演奏する際に歌詞cf−の一部をアレンジしておくうたうことが何度かあった。

例えば、”ラブリー”。
”完璧な絵に似た”に英語で”Can't you see the way,it's a”と歌っていた歌詞が変わっている。

”愛し合いされて生きるのさ”の10年前の僕らが胸を痛めて聞いた曲も変わっていたし、この”天使達のシーン”もアレンジの中で件の歌詞がこう変わっていたのだ。

”真夜中流れる/ラジオからの/いちょう並木/この街の/物語話してる”

いちょう並木、そう”いちょう並木のセレナーデ”だし、この街、は東京だろう。

東京の街を奏でる、なんてタイトルのコンサートがあったり、特にLIFEやその後のシングル群は東京を想起させる歌詞も多くあることから、ある意味とてもしっくりくるような気がしないでもない。絶妙な改変だとは思う。

だけどどうなんだろう。ちょっと、愛すべき生まれて育っていく世界の円環が小さくなった感があるなあ、と感じてみたり。

その分、縦ー東京という街に積み重なる音楽がつながる感もあるような気がしたり?

あなたのラジオは、どちらの周波数ですか?


楽曲がドロップされて30年近くたち、それこそサブスク全盛でスティーリー・ダンなんてユニット、誰も覚えて、ってSpotifyでは月間617万人も聴いてた。(オザケン19.6万人だった)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?