見出し画像

遍歴


不倫とか。浮気とか。


悪いことといわれつつも。いろんな場面で沸騰して取り上げるくらいには。じつはみんな好きなんじゃないか。そう感じるほどに熱くなってる人々がいる。


裏切られたとか。酷いことされたとか。サレ側にはいろんな感情が沸き起こるものなのだな。


だいたいにおいて。そんな他人事のような思いで。SNSで炎上する不倫のニュースや話題を見つめている自分がいる。



その子と付き合い始めたのは。わたしがまだ成人とされたばかりのころだった。


歳下だったその子は周りの人たちにとっては周知の事実であるほどにはわたしのことが好きでたまらなかったようで。


そんなその子の気持ちに気づいていなかったわたしは彼女の猛烈なアタックに戸惑いながらも。両親の公認すら取り付けて告白してきたその子の想いが強すぎて眩しくて。まんざら悪い気もしなかったのでその申し出を受け入れた。


そこから数年の付き合いが続いて。その間いろんなことがあったけれども。その子の家族ともどもいろんな経験をさせてもらった。


アウトドアやウィンタースポーツを始めたのはその子とその家族との関わりがあったからだ。ドライブしたり公園デートしたり。お金はなかったので華やかなことはできなかったけれども。


とても楽しかったことを覚えている。


その子は大学在学中に親元を離れ。一人暮らしをはじめた。


少しずつ距離が生まれはじめたのはその頃から。携帯電話での通話はおろかメールですら。回数も、時間も徐々に少なくなり。



「ごめん」


久しぶりの電話。よそよそしい雰囲気の中で言われた謝罪の言葉に戸惑いながら。


就職して知り合った人と意気投合した彼女は。しばらくして身体の関係になったらしく。そこからしばらく逢瀬を重ねたものの。


自分との付き合いを解消しないまま関係を続けていることに心がもたなかったようで。そのことを打ち明けてきた。


泣きながら謝る彼女に。なんて言葉をかけたらいいのか分からず。ここで怒ったほうがいいのかなとか。そんなことを考えながら。


寂しさを感じたものの。実際のところは怒りとかそんな感情はまったく沸かず。普通の人なら激怒してもおかしくないのであろうこの状況の中で。まったく怒りを感じない自分に戸惑っていた。


きっとたくさん寂しい思いさせちゃったんだよね。むしろ自分こそ至らなくてごめんね。気持ちを分かってなかったよね。そんな思いや。


たとえ誰とどんな関係であったとしても。恋したり好きになったりという気持ちが起こるのは自然なものなのだから。少しでも満たされたなら。楽しい時間を少しでも過ごせたなら。それはそれで良かったのではないか。そんな考えや。


そもそも不倫や浮気とされることのなにが悪なのだろう?怒りをもたない自分は彼女のことがほんとうに好きなのだろうか?そんな感情を持つ自分に寂しさを感じたのではなかろうか?そんな疑問や。


自分にとっては彼女が誰と遊ぼうが誰と寝ようが。その子の人生なのだ。楽しめばいいじゃないか。彼女がどうあれども。自分を見捨てず近くにいてくれて大切な存在であってくれれば良かったのだ。そういう思いが何よりも強かった。


彼女は自由であったしその自由をわたしのために使ってくれたなら本望だけれども。それを別の人に使ったところでなにを咎められるのだろうか。


関係性に慣れきって連絡もろくにしなくなっていたわたしがなにかを偉そうに言えるものでもなく。




彼女の親にも浮気のことが伝わってしまい。居た堪れなくなった彼女は。別れるという選択肢を選んだ。


今から思えばきっとその時に。彼女に対して持つわたしの想いや感情を伝えたほうが良かったのかもしれない。いや。そうすれば良かった。


ただその当時は。そこまで追い込まれた彼女の決めたことを尊重するのが。彼女への愛情表現だと考えていた。


はるかに大人になった今、それがいかに残酷なことだったのかが分かる。後悔しているとすればそのことに尽きる。


しかし今でも。不倫とか浮気とか。そういうことで相手を責めようなんて気持ちはまったく起こらなくて。


さすがに。わたしとデート中に他の異性と楽しそうに通話してたなら、自分とのデートに集中してほしいと思うくらいには嫉妬するけれど。


他人の不倫に激怒する人々を見かけるたびに。こんなにも冷めてる自分が異常なんだろうか。でも不倫のなにが悪いことなのか。分からなくて。



最近。「窓辺にて」という映画を観た。そこには。妻である紗衣さんが不倫をしているにも関わらず。ショックを感じない自分に苦悶する主人公の姿が描かれていて。


「浮気されたら普通頭にくるよね、ショック受けるよね。それが全くなかったんだ。別に、紗衣が好きじゃないってわけじゃないんだ。でも、一切ショックを受けなくて今それがショックで」


そんなふうに悩み苦しむ主人公を見て。ああ、自分だけが特別で異常なわけじゃないんだ。同じようなことを悩んでいた人がいるんだと思えたら。気持ちがものすごく楽になった。


映画で描かれるくらいにはそれなりな人数がいるであろう同じような感性の人たちに。勝手な仲間意識というか親近感を持ちながら。


心が整えられた気がして。


記憶の奥底にある昔の彼女のことを思い出しながら。このnoteを綴っている。


だて。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?