【テンプレ付き】ストーリーテリングというピッチ手法
1人ではできない意義あることにぶつかったとき、人は仲間を必要とする。その仲間を集めるためには、それがどれだけ意義のあることなのかを仲間候補に説明しなければいけない。それをいわゆるプレゼンやピッチと呼ぶ。
僕の身の回りだとそれは起業家として資金調達や採用の際に行われるが、選挙の立候補者が票を集めたり、NPOの代表が寄付を集めたりするときも同じである。
その際の説明の順番はほとんど同じである。例えばこんな感じだ。
・チーム紹介
・解決策の紹介(商品やサービス)
・顧客の課題、問題
・市場規模
・チームや商品の実績
・持続的な運営方法(企業ならビジネスモデル)
参考:【テンプレ付き】スタートアップが資金調達するときのピッチ資料の作り方
参考:スタートアップの 3 分ピッチテンプレート
他にも例えば売上予測や市場調査の数値、さらには聞いている人へのお願いなども入ってくるかもしれない。
ただこのやり方は意外と使えないのではないかと最近思っている。なぜなら以下のような問題がある。
1、課題の分析が甘い・表面的に見えてしまう
「顧客のペインがすべてを決める」でも書いたが、顧客の課題を特定するのはとても難しく、簡単に一言二言、1スライド、2スライド程度では伝わらない。
さらに「次の時代はブロックチェーンだから」とか「少子高齢化だから」とかマクロな分析も、聞いている側からすれば課題を特定しているようには聞こえないのである。
2、感動しない、想像しづらい
上記の説明の仕方はとても淡々としている。だからこそ短時間の説明には向いているのだが、致命的な問題がある。それは聞いている人が感動、共感、想像しづらいことだ。
ちょっとした数分、数十分の説明を受けただけで、人生の一部を犠牲にする仲間を集めるには淡々とした論理だけでは全く持って不十分なのである。
ではどうすればいいのだろうか?
これらの問題を解決するためのピッチ手法がストーリーテリング(Story Telling)である。読んで字のごとく、物語のように伝えることであり、物語と言えば時系列に感情を揺さぶられる何かが起こっていくことだ。
このストーリーテリングが有効であると示す研究も存在する。
2010年、プリンストン大学、ウリ・ハッソン教授がジャーナル・オブ・ニューロサイエンス誌にて発表。まずfMRIという方法で脳をスキャンし、実際にあったストーリーを語っているとき脳がどのように活動しているかを記録。次のこのストーリーを聞いた人の脳がどのように活動するのかを計測するとともに、同じ人がこのストーリーを聞かずに休んでいるときの脳もスキャンした。条件が実生活になるべく近くなるように、ストーリーは、友達を前にして話しているつもりで語ってもらった。また聞き手には、詳しい質問に答えてもらい、ストーリーの理解度も計測した。その結果、話し手と聞き手の神経連動が広い範囲で確認された。つまり、同じ領域が活性化されたのだ。しかも連動するのは聞き手になじみのある言語でストーリーが語られているときのみ。
また、口承伝承も一種もストーリーテリングである。神話や童話を使って教訓やルールを子どもに伝えていく(時には歌も使って)。子どもも大人になると同じ方法で伝える。アニメやマンガで大事なことを教わった人も少なくないだろう。
ではこのストーリーテリング、どうやって行うのだろうか?ストーリーテリングの第一人者であり、「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン」などの著者でもあるカーマイン・ガロ氏(Carmine Gallo)の考えをもとに紹介したい。大きく「順番や構成」、「表現方法」、「説明者の姿勢」に分類できる。
※カーマイン・ガロ氏の分析をもとに独自でピッチのテンプレを作ってみた。こちらからダウンロード可能。もし改善点があれば教えてほしい。
順番や構成について
上述にしたように、物語なので時系列で起こったこと/起こしたいことを伝えることが重要になる。これが圧倒的な分かりやすさにつながる。
ではどのように時系列で伝えればいいかというと、以下のように3段階に分けて伝えることをカーマイン・ガロはお勧めしている。
自社製品→ターゲット顧客→世間の関心
自分ごと→他人ごと→社会ごと
きっかけ→そこから変化後→全体の教訓
自分の内省→他者への共有→全員の習慣化
起きてる問題→解決された状態→引き続き解決された将来の理想
Personal Story→User Story→Industrial/Market Story
この3段階を図で伝えると以下のようになる。話の内容がだんだん大きくなったり抽象的になったりするのだ。
特に彼が重要視しているのは「個人の話を語ること」である。よく言われる原体験と同じ意味だ。重いものだと病気や事故、いじめ、すさまじい家庭環境などだが、別に重くなくても「なぜその事業をやりたいのか?」を説明することが大事だ。それが聞く側からは「なぜあたながやるのか?」に繋がる。
それから個人の話の中でも特に「奮闘努力=今までどのように何のために頑張ってきたか」という話も重要になる。努力した経験がこれから行いたいことの信憑性を高めたり、同じように努力している/してきた人が聞く側にいると大きな共感を得ることができる。
話す側と聞く側が共感するということは、自分と他人との間に共通した目標が生まれるということである。これは言い換えればミッション・ビジョン・バリューと同じである(これも3段階)。
将来の大きな影響を与えた状態=ミッション(社会の理想像に対する使命)を、
どんな状態の会社が達成するのか=ビジョン(視覚的にわかるワンシーンで切り取った会社像)、
その会社を作るのは創業者や社員のどんな日々の行動や考え方なのか=バリュー
また、カーマイン・ガロはTEDの分析の中で、ピッチの構成は「ストーリーが全体の7割で、データは少なめ」だと言う。典型的なピッチの失敗はデータをたくさん盛り込んでしまうことであり、データはあくまで補足資料でいいだろう。
表現方法について
順番や構成が整理されたら、それぞれのパーツを彩っていく。
まず「修辞法(Rhetoric)」(リンク先はWikipedia)だ。カーマイン・ガロは本の中で、反復表現や比喩、アナロジー、具体的な描写(例えば奮闘努力をより詳しく伝える)、ユーモア(笑いが起きるピッチにする)を紹介している。
それからグラフィック・デザインだ。文字だけの資料よりも写真付きの資料のほうが「何となく」説得力が増すという研究があるぐらい、ビジュアル表現の影響は大きい。
特に重要なのは、色、レイアウト、フォントだ。それぞれに伝わる印象が全く異なってしまう。例えば赤は生理的にアドレナリンを分泌させることが分かっているし、明朝体とゴシック体では印象が全く違うだろう。もちろん対100人のピッチと、営業のような対1-3人の資料でも異なってくる。
伝える人の姿勢や気持ちについて
ここまで手法の話をしてきたが、これらの手法を成り立たせるには話す側に様々な姿勢や気持ちが必要である。
・過去を受け入れる
自分の話をすることは「所詮主観だ」とか「恥ずかしい」とか思うかもしれない。特に暗い過去があったり、劣等感の強い人は簡単にオープンになることはできない。
ただそう思っているのが逆にチャンスなのである。勇気をもってちゃんとした方法で伝えることで聞く側が感動する可能性が高い。カーマイン・ガロは「自分が感動していること」がストーリーテリングにおいて重要だと言う。
それに自分自身がオープンにならずして、聞く側がオープンになって仲間になることは難しいだろう。
・多くの準備が必要
自分が思い入れのある原体験なしに手法だけが上手い人も世の中にはいる。そういった人々を見て「口達者」と揶揄したくなるかもしれない。
しかしカーマイン・ガロの本の中で紹介される原体験のある偉人(ウォーレン・バフェット、ロナルド・レーガン、ウィンストン・チャーチルなど)は最初からうまかったわけではない。人前で話すことが苦手だった人もいるぐらいである。彼らは圧倒的に努力しているのだ。
現代なら準備は結構簡単にできる。例えば、まず原稿を用意し、ビデオに録画し、色んな友人に見てもらって感想をもらう(SNSでできる)。それからTEDですぐれらピッチを見ることもいいだろう。
・その他
他にも、「情熱を持つ」「笑顔でいる」などがあるが、カーマイン・ガロの本を読むことをお勧めする。
最後に
もし組織を分業で効率的に管理するなら、リーダーも何かの専門的な業務に集中したほうがいい。起業して最初に色んな人に教えてもらった社長の仕事は「採用と資金調達」だったが、顧客との対話やPRも重要だという人もいる。
そこから「起業の科学」著者である田所さんから「採用はCEOの仕事をはがしていくこと」「ゴレンジャー理論」を教えてもらったことで、「そうか、リーダーの仕事は仲間集めか」と思ったのである。
そのためには「ストーリーテリング」が必要なのであり、だから最近はリーダーの仕事は何かと聞かれれば「ストーリーテリング」だと答えている。
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