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学生だけじゃない。コーチの4割は恒常的に疲れている

5月は米国のメンタルヘルス月間でした。学生アスリートだけでなく、実は指導者であるコーチたちの多くも精神的疲労を感じていることが、今年1月に発表された全米大学体育協会(NCAA)のメンタルヘルス調査で分かりました。

調査概要
【調査内容】コーチのメンタル・ウェルビーイングに関するオンライン調査
【調査時期】2022年3月2日~4月17日
【対象】NCAAのDivision I, Division II, Diviison III のヘッドコーチ、アシスタントコーチ、アソシエイトなど約6,000人。
【内訳】ヘッドコーチ4,258人、アシスタントコーチ1,627人、その他228人

出典:『NCAA Coach Well-Being Study January 2023

3人に一人が精神的疲れ

報告書よると、ヘッドコーチの約4割が「恒常的に精神的な疲れを感じている」と回答。また4割弱が「やらなければいけないこと全てに負担を感じている」、「睡眠障害の経験がある」と答えています。

出典:NCAA Coach Well-Being Study January 2023

コーチが抱えるメンタルヘルスの要因として挙げられているのは、次のような事柄です。

  • パンデミック関連

  • 選手名簿(ロスター)の管理

  • 選手の採用(移籍問題)

  • 自分の仕事やチームの予算に関する懸念

  • 個人的な心配事(経済的なこと、育児の課題など)

重荷は選手の採用と名簿管理

中でも、特に精神的疲れの大きな要因になっているのが、選手の採用選手名簿の管理です。

ヘッドコーチの約3分の1が「選手移籍の可能性」を非常に懸念。またディビジョンⅠの25%、ディビジョンⅡの18%、ディビジョンⅢの12%のコーチが、選手を4年間自分のチームに引き留めておくことへの認識に関して、「相当なストレスを感じている」と回答しています。

日本と違い、大学生の3人に1人は他大学への転校(移籍)を経験すると言われている米国。自分がもっと活躍できると思えば、学生アスリートでも他大学のチームへと自由に移籍していきます。コーチにとって優秀なスポーツ選手の引き留めや高校生のスカウトなど、人材採用は重要な仕事だけに、ストレスレベルが高くなるのも当然かもしれません。

また、ディビジョンⅠのヘッドコーチが最も懸念していたのは選手名簿の管理の問題でした。これは、2020年に新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の影響を最も受けたアスリートに1年間の資格延長を付与した、NCAAのルール緩和に起因します。つまり、コロナ期間に活躍できなかった学生アスリートを救済するルール緩和は、大学のコーチには「今後数年間の選手名簿の規模、採用数、奨学金の額に影響を与え、予測不可能な状況に陥る」(NCSA)要因となったわけです。

若いコーチほど悩み多し

世代別では、40歳以上のジェネレーションXとベビーブーマーに比べ、40歳以下のミレニアル世代(1981~1996年生まれ)とZ世代(1997~2012年生まれ)にあたる若いコーチにおいて、メンタルヘルスに関する悩みを抱えている割合が高いことが判明しました。ミレニアル世代コーチの46%は「常に精神的に疲れている」と回答しており、ほぼ二人に一人の割合です。

出典:NCAA Coach Well-Being Study January 2023

学生への配慮も怠らず

一方、自分たちの精神的な疲れが増えているにもかかわらず、学生アスリートのメンタルヘルスとそのサポート方法について、コーチたちはこれまで以上に関心を寄せていることも明らかになりました。

8割以上のコーチが「パンデミック以前よりも、学生アスリートとメンタルヘルスについて話し合う時間を増やしている」と回答しています。ここからうかがえるのは、学生のメンタルヘルスを「チームが直面する重要課題」として捉えている、コーチの認識の高さです。

切実なコーチの声

学生のメンタルヘルスを心配するのと同時に、コーチたち自身もメンタルヘルスに対するサポートを求めています。

「コーチとして期待されるのは、24時間365日、生徒の危機に対応できることです。その一方で、私たちの精神的・肉体的な健康に対する一貫した配慮はありません。」- ディビジョンⅡ 女子 ラクロス ヘッドコーチ

勝利へのプレッシャー、雇用の安定、待遇、人種差別、予算、親や学校側からの期待、人材不足による業務負担の増加、家庭と仕事の両立(あるいは個人的な問題)など、コーチたちの悩みはつきないでしょう。

指導者であるコーチも生身の人間。家族の理解と協力はもちろんのこと、心身ともに健康で成功するために必要な学校のサポートシステムが求められています。

おわりに

プロ、アマ、選手、コーチ、スタッフにかかわらず、メンタルヘルスは「誰もがその影響を受ける」(NCAAの首席医療責任者のブライアン・ヘインライン氏)可能性がある身近な問題です。大切なのは私たちがメンタルヘルスの認識を高めること、そして、個人任せにせず、組織や社会がサポート体制を充実させ、寛容性を持つことです。

NCAAでは大学のアスリート、コーチ、陸上競技管理者、キャンパスのパートナーなどに、健康と安全のリソース(情報や教育活動)を提供しているほか、独立した医療ケアのサポートなどを提供するなど、啓発活動も積極的に行っています。日本の学校や教育機関でも参考になるのではないでしょうか。

なにより、啓発月間だけでなく、年間を通じて継続的にメンタルヘルスの重要性の認識を広めていくことが大切ですね。

文・久保田久美
編集・翻訳者/サポートスペシャリスト
Sunbears マーケティングチーム

【参考文献】
NCAA Coach Well-Being Study January 2023
アメリカの歴代大統領達も選んだ道「編入」とは?ー大学生3人に1人以上が挑戦
What Does the NCAA Extra Year of Eligibility Mean for Recruiting?


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