【連載第2回】RPE活用におけるコーチとの連携(前編)
連載第2回は、チームにRPE(Rate of Perceived Exertion=主観的運動強度)を導入する際のポイントや、RPE導入後に実際にどのように監督やコーチと連携したらよいかについて、前編と後編に分けて臼井S&Cコーチに解説していただきます。
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1.RPEを使う理由
ーー 最初に、なぜチームにRPEが必要かについて改めて教えて下さい。
臼井コーチ:まずどのチームも、自分たちの練習量と負荷を把握することがとても重要です。RPEはそのために有効な手段ですが、大きく二つの目的があります。
これらを踏まえ、練習負荷を適切に調整する必要がありますが、そのためには、まず負荷の量を知る必要があります。
負荷を知るデバイスには、選手が装着して心拍数を計測するものや、GPSを使用した屋外スポーツ向けデバイス、屋内運動量をモニタリングするものなど多数あります。ただそれらは高価なことから、大学生や高校生レベルのチームスポーツでは導入が難しいことが多いです。そこで、最も低コストかつ手軽な方法として推奨されるのがRPEです。高価なデバイスを使えないからといって諦めず、まずはRPEを活用すべきです。
練習負荷からRPEの変化をデータで把握すると、それに対する反応としてのコンディションも知りたくなるはずです。RPEとコンディションは常にセットと前回もお話ししましたが、RPEとともに選手の主観的なコンディションデータも収集しモニタリングするとよいでしょう。
2.コーチとの連携
ーー 実際にチームがRPEを導入する際には、コーチとどのように連携すればよいか教えてください。
■「柔らかアプローチ」と「段階的アプローチ」
臼井コーチ:RPEを初めて導入する際は、選手の感覚を数値化して確認するという手法をコーチに丁寧に説明します。重要なのは、「RPEデータは参考として使用するものであり、チームの練習を数値管理するものではない」ということを明確にすることです。数字に基づいて練習が管理されていると感じる可能性もあるため、柔らかく進めることが重要です。
初期段階では、コーチが実施した練習を選手がどう感じているかを理解してもらうため、数字による単純な報告にとどめます。この段階では、コーチに数字だけに基づいた管理をしないよう促します。時間が経ち、データが蓄積されてくると、具体的な練習負荷の例を共有しながら話を進めます。
ーー データの蓄積に関する目安はありますか?
臼井コーチ:興味を持つコーチなら1週間で会話が始まることもありますが、数字に馴染みのないコーチの場合は、最初の1か月は報告に留め、踏み込んだ話はしないようにします。コーチのタイプに応じた進め方が現場での課題ではないでしょうか。
■コーチの反応
ーー RPEへの理解が深まると、コーチの反応はどう変わりますか?
臼井コーチ:多くのコーチは、コンディションの著しい悪化を避けるためにRPEを活用します。いわゆる予防線を張るための活用法です。さらに前向きに、計画段階で負荷を調整したいと考えるコーチもいます。
敏感なコーチは、日々のRPEを確認し、計画との違いを細かくチェックします。例えば、RPEを高める練習をしたい場合、チームの平均RPEが10段階の8程度と予測していたのに実際は6だった。その場合「次の練習では何を変えなければいけないのか?」と考えます。逆に負荷を落としたのにRPEが予想外に高い結果になった場合は、「練習時間が長すぎたのか?」「スピードを上げ過ぎたのか?」など、そうなった原因を考えて次の練習での改善策を模索してくれます。
■スピード感と日頃の準備
ーー コーチの反応が変化していくのを見るのは嬉しいですね。コーチとの連携で他に気をつける点はありますか?
臼井コーチ:コーチとの連携においては、コーチのタイプや反応する数字を理解し、異常値があれば迅速に報告することが重要です。適切なタイミングとスピード感を持った対応が求められます。
そのうえで、コンディションの変化に応じて、即時対応するか様子を見るか、に振り分けていく判断も必要になってきます。
ーー タイミングの見極めも大切ですね。
臼井コーチ:はい。程度や時期、選手のタイプなど、コーチと密に話し合ってRPEを活用していくことが大切です。試合が近い時期なのか、試合はまだ先で負荷を強くかけるべき時期なのか。選手がケガをしているのか元気なのか。社会人だと、ベテランなのか若手選手なのかといったことによっても対応は異なります。
すべては総合的に判断するための材料の一つでしかないということを、コーチはきちんと理解した上でRPEを使う、というのがポイントだと思います。
もう一つ大事なのは、(コーチが)計画中の練習がどれくらいの負荷を選手にかけるかを予測し、その影響をコーチに事前に伝えるということです。RPEを用いてこうした準備をしておけば、選手のコンディションが大きく下がるリスクを予測し、それが数値に現れた段階ですぐに対応できます。
ただし、勝つためにはチャレンジしなければならない時期も出てきます。そういった中でもケガ人を出さないためには、実際どれくらいコンディションが下がるかを数字で確認し、必要に応じて調整を行います。予想よりもコンディションがものすごく落ちてきたというときには、すぐにコーチに言うようにしますし、思ったより落ちなければ、そのまま続けましょうということを話し合っていくといった進め方をします。
■コーチ側の注意点
ーー コーチとのコミュニケーションがとても大事だということが分かりました。では、監督やコーチの立場でRPEを活用するときの注意点は?
臼井コーチ:コーチには選手個人の数字はあまり見ないようにしてもらっています。例えば「この選手だけ(練習が)きつくないと思ってるんだな」とコーチが思ったとします。それは選手に対してバイアスがかかってしまっていることになりますので、避ける必要があります。
また、特定の選手のデータに基づく会話も慎重にしてもらいます。選手が徐々にその数字を操作するようになりかねないという懸念もあるからです。
ただし、ケガをしたり、ケガから回復した選手に関する個別の数字を見ていくということは当然します。その数字をコーチと共有することも多少ありますが、こちらからは個人の細かい数字までコーチにフィードバックしないよう気をつけています。
■RPE導入で失敗するケース
ーー RPEの活用における失敗例はありますか?
臼井コーチ:失敗例の一つは、選手がデータ入力をしなくなる場合です。そこはコーチスタッフとの信頼関係の問題にも関わると思います。まじめに入力していてもデータが反映されず、コーチスタッフが見ている様子が全くないとなると、選手のモチベーションが下がるでしょう。入力する選手が半分になってしまったら、もうその時点でRPEの数値はチームの半分の傾向しか見えなくなってしまいます。
コーチとトレーナー間のコミュニケーション不足や、タイムリーにスピード感を持ってできていなかったり、管理感が強くなり過ぎることも、連携の失敗につながります。
ーー コーチとの連携では、媒介の一つとしてRPEが重要な役目を果たすということですね。
臼井コーチ:RPEとコンディションの数値化は、コーチの経験則だけに頼るのではなく、具体的なデータに基づいた判断を可能にしてくれます。
やはり我々も含めて皆人間なので、なかなか単なる理論だけでは成り立たないことがありますが、異なるタイプのコーチと効果的に連携するためにも、このような数値を活用することは非常に有効です。
>『RPE活用におけるコーチとの連携(後編)』につづく
文・久保田久美
編集・翻訳者/サポートスペシャリスト
Sunbears マーケティングチーム
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