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meet CTOs vol.7 - 宇宙産業スタートアップの壁

meet CTOsは第一線で活躍する先輩CTOを招き、さまざまなフェーズを経験してきたからこそ語れるリアルな「実体験」や「知見」をもとにセッションを行うイベントです。

登壇者がぶつかってきたテック目線での壁や直面する課題などを共有・追体験することで、同じ轍を踏まずに最短速度でグロースしていける、そんなコミュニティづくりを目指しています。

2022年3月15日には「meet CTOs vol.7 - 宇宙産業スタートアップの壁」をテーマに、株式会社Synspective 小畑氏、株式会社インフォステラ 倉原氏、株式会社SPACE WALKER 眞鍋氏を招いてのトークセッションが行われました。

各社が取り組む事業や宇宙産業の現状、そして宇宙ビジネスにおける未来像について語る場となりました。

登壇者
小畑 俊裕 ( 株式会社Synspective 取締役/衛星システム開発部門ゼネラルマネージャー )
倉原 直美 ( 株式会社インフォステラ 共同創業者/代表取締役CEO )
眞鍋 顕秀 ( 株式会社SPACE WALKER 共同創業者/代表取締役CEO )
金子 穂積 ( 株式会社Sun Asterisk CTO's )
モデレーター
世古 龍郎 ( Microsoft Corporation Azure Global Engineering Senior Program Manager / Azure Space Japan Lead )

宇宙産業スタートアップを代表する各社の自己紹介

Synspectiveの小畑さんは、国のための衛星開発に携わっていましたが、19年勤めた会社を2016年に辞め、現在はSynspectiveの衛生システム開発部門ゼネラルマネージャーを努めています。

同社は1年5ヶ月で109億円の資金調達を実施し、世界からも注目を集めるスタートアップです。

また、内閣府の革新的研究開発推進プログラム ( ImPACT ) を活用した先進的小型衛生技術で社会実証しており、国内外での活躍の場を広げています。

Synspectiveはものすごいスピードで大型資金調達を行ったスタートアップとして知られています。

その理由について小畑さんは「技術開発とビジネスをセットにして取り組んでいること、国家プロジェクトを端緒とするゆえの信頼感が評価され、結果として資金調達につながった」と説明し、合成開口レーダーについて「マニアックでありながら、わかる人には相当価値を感じていただけているのも、注目を集める要因になった」と語りました。

インフォステラの倉原さんは「小さい頃から宇宙飛行士になり、宇宙へ行きたい」と思っていたそうです。

その後、宇宙に関連する仕事に就くために高校、大学へ進学し、キャリアの最初は研究者に。

その後、民間企業で衛星管制システムエンジニアとして従事し、2016年にインフォステラを創業しました。

現在は、衛星を運用するための地上側の通信設備を貸し出す地上局ビジネスを展開しています。

SPACE WALKERの眞鍋さんは、もともと技術者でも宇宙関係者でもなく、コンサル会社のデロイト トーマツ グループにて公認会計士の仕事に従事していました。

2012年に独立し、IPOや経営コンサル、法人立ち上げ支援などを経て、2017年に共同創業者の米本教授とSPACE WALKERを設立。

東京理科大学発のベンチャー企業として、有翼ロケット「スペースプレーン」を開発しています。

最近は、ロケット開発技術の中で一つのキーコンポーネントと言える燃料タンクに着目し、世界でもトップレベルを誇る軽量化を実現した独自の燃料タンクの開発を進めているとのこと。

宇宙だけでなく、地上における水素市場への展開も視野に入れながら、日々取り組んでいるそうです。

そのほか、Sun*のCTOsの一員として活躍する金子もトークセッションに参戦。

プロジェクトマネジメント観点から、宇宙産業のリスクアセスメントの重要性について感じていて、今回参加を決めたそうです。

なぜ宇宙産業で起業したのか。その経緯に迫る

最初のトークセッションのテーマは「起業の経緯について」。各登壇者がどのような背景から起業に至ったのかを掘り下げていきました。

まず、小畑さんが今の会社に関わるきっかけについて話しました。

「もともと、国家プロジェクトとして、宇宙から地球を観るセンサーである合成開口レーダーの開発がスタートしたんですが、そこに私も参画し、いわば国のために小さな衛星を作ろうという建て付けで衛星開発に携わっていました。東日本大震災のような甚大な災害があった際に、すぐに被災地を観測できるようにしよう、というのを目的に、小さな衛星を作って打ち上げるのがプロジェクトの主なゴールでした。

しかし、次第に成果を実感し始めたときに「国よりも民間のビジネスとして成り立つのでは」と思うようになった。そこで、当時のプロジェクトマネージャーが現社長を見つけてきたというのがSynspectiveを立ち上げるきっかけになっています」

このとき面白かったのは、「宇宙関係の人ではなく、ビジネスを出身にする人を社長に据えたこと」だと小畑さんは続けます。

「社長がビジネスの視点を持って、会社を創っているのが大きな特徴になっています。もちろん、私のような衛星開発をしていた人もいますが、Synspectiveは衛星から地球を撮ってその画像データを販売する、もしくはその画像をマシンラーニング技術で処理した状態のデータを提供し、顧客のビジネスにおける意思決定の判断材料にしてもらう。このようなソリューション事業を展開しているのが、面白いと思える部分なんです。国のプロジェクトはビジネスとして成立させるのに、長い時間を要してしまう。そう考えていたんですが、ビジネス出身の社長がリードする会社であれば、よしんば世界を取れるかもしれないと疑心暗鬼ながら感じていましたね」

権利関係の問題や、国と民間とでビジネスの仕方が異なるなどの障壁があるなか、それらを乗り越えてビジネスを作ってきたSynspective。

また、ビジネス出身の人が社長に就いたことで、「全然違う視点を持った人と関われるのはすごいと思った。人脈や事業の考え方など自分では想定もできないようなことがたくさん起きている」と小畑さんは所感を述べます。

これに対して、倉原さんは「スタートアップ企業の代表が宇宙業界ではないのは非常に重要。ずっと宇宙関連の仕事をやっていた人って、どうしても視野が狭くなりがちで、世の中全体の技術やお金の流れなどを見て、そこから衛星のビジネスを考えられる人がいるのはすごく大事だと思う」と感想を寄せました。

また、眞鍋さんは「自分自身、ビジネスをやっていて感じるのが、別に宇宙関係者や技術者でなければならないわけではなく、意外とそういう方向ではない視点からアプローチした方がビジネス的に好転しやすいこと。私も宇宙関係者でないことからも、この点に関してはプラスに考えている」とコメントしました。

次いで、倉原さんが起業した経緯について説明を行いました。

「起業前は、衛星を運用するためのソフトウェアをシステムとして納める民間企業に、エンジニアとして携わっていました。そこでの経験も起業に関係しているんですが、それよりも前に東大の中須賀教授が行う研究プロジェクトに研究員として関わっていたことが、会社を立ち上げる大きなきっかけになったと思っています。2010年に始まった4年間のプロジェクトだったんですが、今思うとかなり画期的だったなと。小型衛星を開発して打ち上げるだけでなく、それを使った利用の裾野を広げるのが最終的な目標で、衛星を使った事業を作るという大きな視座を持ったプロジェクトだったんです。

初年度にやったのは衛星開発に着手せずに、衛星をどのように利用できるかというミッションを最初に考えました。活用方法の立案やデータ収集、ニーズ把握のためのヒアリングなどを行っていたんですが、行き着いたのは衛星の母数が必要になること。そして、地上側にはたくさんの地上局を置かなければならないことでした。そうすると、現状の衛星開発においては莫大なコストがかかったり産業としてやるためのツールがなかったりと、かなり苦労を強いられることになったんです」

アプリ開発であれば、エンジニアが使えるキットやコンポーネント、さらにはApp Storeのような販売する場所もあるわけです。

しかし、こと宇宙産業に関しては「ビジネスに必要なツールが全くないことに気づかされた」と倉原さんは話します。

「これでは衛星ビジネスにならないと思ったのもあり、民間の企業へ移りました。ただやはり、衛星産業を盛り上げるには、ビジネス環境を整えていく必要性があるなと感じ、地上局関係の知見があったこともあり、2016年にインフォステラを創業しました」

事業的な関わりを持つ小畑さんは「衛星を飛ばしても、通信できなければ意味がない。倉原さんが通信サービスをやっていることは非常に助かっていて、地上局の必要性をつくづく感じている」と述べました。

眞鍋さんは、起業した経緯についてこのように話しました。

「起業したのはJAXAがやっていた和製スペースシャトル「HOPE X(無人有翼ロケット)」のプロジェクトに端を発しています。もう少し前で言えば、JAXAの前身である宇宙科学研究所(ISAS)が1980年代頃から開発していたHEIMS(単段式宇宙輸送機)が今のSPACE WALKERの技術の原点になっています。弊社CTOの米本は当時、川崎重工の立場でこのプロジェクトに参画していて、プロジェクト凍結後も2005年から大学に籍を移し、有翼ロケットの研究をずっと続けていました。そういう意味では、米本が大学の中でJAXAとの共同実験で2015年、小型有翼ロケットの実験機を飛ばし、地上での回収に成功したのが会社設立の背景になっています」

この実験後、法人化に向けて米本さんが各所へ相談へ回っていたなかで、2016年に眞鍋さんと出会い、SPACE WALKERを共同創業することになったそうです。

「当時は宇宙関係者ではなかったんですが、イーロンマスクが手がけるスペースXの打ち上げた衛星ロケットが洋上回収に成功したニュースを見ていたこともあり、何となく宇宙の将来性について思うところがあった。「宇宙関連の会社を立ち上げたい」という教授がいることを知らされて、面白そうだなと感じて米本と会ってみたんです。最初は有翼ロケットの実態があまり掴めなかったですが、よくよく調べてみると、先のイーロンマスクやジェフ・ベゾスのブルー・オリジンのような再使用のロケットを作ろうとしていたことにビジネスマンとして興味を持ちました。というのも、なぜ既存のプレイヤーはミサイル技術の延長をもとにした使い捨て型ロケットを作っているのに、スペースXやブルー・オリジンは再利用型のものを開発しているのか、というところにビジネスの可能性を感じたからです」

イーロンマスクやジェフ・ベゾスが手がける宇宙ビジネスの発想のすごさとは?

今までのロケット開発は、いわば国家プロジェクトとしての側面が強く、各国を代表する重厚メーカーに委託して作るのが一般的だったとのこと。

ただ、メーカーは物を売っていくビジネスモデルなので、打ち上げ頻度の少ないロケットを再使用してしまうと、1回作れば終わってしまうわけです。

しかるに、ビジネスモデルとして成り立たせるために、使い捨て型ロケットが開発されるという経緯があったそうです。

「それが、イーロンマスクやジェフ・ベゾスはサービス業からロケット開発へ乗り出しました。ただ、ロケットそのものを販売するのではなく、その先にある通信衛星のサービスで商売していくことが、既存のプレイヤーと全く違う発想だったことに気づいたんです。民間のマーケットが宇宙にできるとすれば、ロケットはモビリティになるべきで、一般の人が使うような高頻度なものになるまではメーカーのような存在はあまり出番がない。むしろ、サービス提供者側の方がビジネス視点的にも優れていると、先進企業の取り組みを見て感じました。IT産業の発展の末に、今度は宇宙産業の通信インフラが求められるという時代背景を考えると、米本が手がける有翼ロケットの事業はまだまだ勝ち目があるなと。そう思い、会計事務所をたたんで共同創業した流れになっています」

小畑さんは「技術はあくまで手段で、収益をどのように上げていくか考えるのは非常に重要なこと。私はベンチャーに入る前はただの技術者だったが、ベンチャーに入ってビジネスに寄り添って開発していくのは全然考え方が違う。ただ、技術者ゆえに面白いことをやってみたいという気持ちも持っているので、ある種ビジネスとして回すこととのせめぎ合いだとも思っている」と技術者出身としての感想を語りました。

倉原さんは「イーロンマスクがスペースXを立ち上げた当初は、本当にロケットを作りたかっただけかもしれないが、『やりたいことをビジネスに変えていく』ということはすごいことだなと思う。起業家として避けて通れないのは、技術だけやりたいなら研究者としてやるべきだということ。起業した以上は、どう利益を上げていくか考える責任が生まれてくる。そういう意味ではイーロンマスクやジェフ・ベゾスのすごさに驚いている」と起業家としての心情に触れながらコメントしました。

こうした各登壇者の起業への馴れ初めについて語ったのを聞いていた金子は「お金さえあれば、簡単にロケットを飛ばしていいものか、素人ながら疑問に思う」とし、質問を投げかけました。

「特に法律があるわけではない」

そう話す眞鍋さんは、次のように説明します。

「国家プロジェクトと民間でロケットを打ち上げる場合とでは、ルールメイキングの仕方が異なってくるというのが、世界的なトレンドとしても見られます。また、どこで打ち上げるかも焦点になっていて、例えば日本の場合だと漁業権問題や航空の飛行路など、他の産業に干渉してくる部分があるのでロケットの打ち上げを実現するのは難しいかもしれません」

法の未整備、資金調達の難しさ、人材不足......。宇宙産業の抱える課題

2つ目のセッションテーマは「宇宙産業ならではのぶつかってきた壁、現在抱えている課題」。壮大なスケールとも言える宇宙産業のビジネスにはどのような壁や課題を感じながら、日々取り組まれているのでしょうか。

倉原さんは「法律などのレギュレーションと資金調達の2つが越えるべき課題だと思っている。特にスタートアップへの投資に関しては長く時間のかかる産業であることを、理解いただくことが重要だと思う」と簡潔にまとめました。

眞鍋さんも倉原さんの意見に同調し、宇宙産業スタートアップならではの悩みを吐露します。

「いくら地上でやって見せても、果たして宇宙空間で本当にできるかが証明しづらい。現時点で、宇宙へ物理的には簡単にアクセスできないからこその難しさがあると思います。ロケットに至っては地上で作ることに一番お金がかかり、実際に飛ばして見せないといけない。衛星は技術的に確立されているので、お金は集まりやすい一方、ロケットはまだまだ未発達の部分も多く、ロケットならではの課題感を抱いています」

小畑さんは「我々は衛星を作って、打ち上げに成功していることもあり、事業に対しての自信につながっている」と述べます。

「今後もさらに衛星を打ち上げる予定で、順調にやっていきたいなと考えている反面、やはりいざ打ち上げる瞬間は毎回ドキドキするというか。本当に問題なく動くのか、という心配を抱きながら臨んでいるような感じです。一か八かになってしまうのは仕方ない気もするんです。私自身も長年にわたって宇宙産業に関わっていますが、宇宙には行ったこともないので、正直何が起こるかわからない。そんな空間に物を送り込むこと自体、すごいチャレンジングなことだなと。そう感じています。

加えて、圧倒的な人材不足に悩まされていますね。どう考えても日本人だけではやっていけない状況で、世界の場で戦おうというスケール感を目指す上ではグローバルに採用していく必要があると思っています。ですが、欧米に比べると日本の現地に来てもらうことはハードルが高く、人材採用が難航してしまうので、どうしたらグローバル人材に興味を持ってもらえるか、いろいろと仕向けていければと考えています。ものづくりは現場の職人がどれだけいるかが勝負になってくる。例えば、ネジ締めをきっちりとできる人を採用しようにも、なかなか見つけづらいのも悩みどころのひとつだと捉えています」

宇宙産業で活躍する人材の採用について、眞鍋さんと倉原さんはそれぞれ意見を寄せました。

「Synspectiveさんのように、大きな資金調達ができていないので、そこまで人件費をかけれないゆえ、プロボノで参画してもらったり大企業から出向してもらったりしています。ただ、今のところほとんどは紹介で人材を集めているような状況です。たとえ採用に至らなかった人にも、周りにマッチしそうな人材がいないかなどを聞くなど、地道な働きかけが大事になってくるのではと思います。特に外国人はLinkedInでコンタクトを取ると、リアクションを得られることが多いですね」(眞鍋さん)

「ピンポイントでこの技術を持っている人を採用するときは、LinkedInを使うことが多い。「カンファレンスで名刺交換していた人が、転職するタイミングでお声がけしたりするのもいいのではと思います」(倉原さん)

宇宙ビジネスにおけるリスクマネジメントの重要性

3つ目のテーマは「プロジェクトのマネジメントにおいて、リスクマネジメントはどれくらいの割合を占めているのか?」。

宇宙というスケールの大きい産業でプロジェクトを進めるにあたり、各社はどのようなリスクマネジメントを心がけているのでしょうか。

眞鍋さんは「リスクマネジメントと言えるほどのマネジメントはできていないかもしれない」というのを前提に、このように説明しました。

「我々の場合、実証機としては小型のロケットを1回飛ばし、2024年に向けて次なる実証機を開発している段階ですので、リスクマネジメントをするフェーズにはまだ来ていないと思っています。ただ、ロケット飛行の際に大事にすべきなのは、地上の安全や搭乗している人の安全を確保しなければならないことです。他方、法律が整備されていないので、どういう考え方が安全なのかも決まっていない。我々の場合だと、飛行機と同じように、エンジンが2つ壊れても中に乗っている人を安全に海に着水できるような安全基準をベースにロケットを開発しています。それ以外のことは国と相談しながら進めていますね」

他方、「小型衛星を作っているゆえ、全てがリスクマネジメントだと思っている」と語るのは小畑さん。

ビジネスと、それを支える技術の視点からも、リスクマネジメントは極めて重要だと強調します。

「面白い話があって、大きな衛星だとミッションを実現するためにAssurance(アシュアランス:保証) を持つというのが考え方としてあるんですが、あるカンファレンスでロッキード・マーティンが、ミッションを達成するにはConfidence(コンフィデンス:自信)が大事だと語っていたんですね。要は小型衛星を打ち上げる際、どれだけ自信を持てるかが肝要になるということ。自信があるということは、リスクアセスメントの観点でこのリスクは許容すると判断できるわけです。そこにビジネスが絡むから面白くなってくる。

クリスマス商戦に間に合わない商品は意味がないように、打ち上げまでに用意できない衛星なんて必要ないし、お客様が欲しい数だけ作れないと事業として成り立たない。そういう考えを持っているため、リスクを背負うところや、あえて削っていい部分はどこかなどを判断していくんです。的確な判断や解析ができるのも“技術力”があってのこと。つまり、リスクマネジメントの観点で高い技術力は非常に大切になってきます」

倉原さんは「プロジェクトマネジメントにおける一番のリスクは、計画していた衛星の打ち上げに間に合わないこと」だと話します。

「プロジェクトの納期までに作業を完了させることがマストになってくるわけです。そのためには、時間のマージンをどれだけ確保できるかが大切になってくるんですが、スケジュール管理は非常に難しいと感じています」

金子は各登壇者のディスカッションを聞いて、思いの丈を次のように話します。

「どこまでいったら自信を持てるかが、リスクマネジメントの勘所だと感じました。技術で試したいこと、プロジェクトに間に合わせることなど、さまざまなせめぎ合いを通して前に進めていき、トライアンドエラーを繰り返しながらだと思うので、すごい大変なんだろうと。自分にとって未知の世界だからこそ、そう感じていますね。もし次転職するなら、個人的には宇宙産業に関わりたいなと思ってしまいました(笑)」

テック目線で見た宇宙産業のビジネス課題と壁の乗り越え方

4つ目のテーマは「宇宙産業におけるテック目線でのビジネス課題は?」。

小畑さんは「コロナ禍による半導体不足の影響に加え、新しい技術へのキャッチアップ」がビジネス上の課題だと捉えているそうです

「国のプロジェクトは5年10年スパンで考えることが多い一方、民間の小型衛星開発における技術革新はものすごいスピードで起こっているので、それにしっかりとアジャストしていかないといけない。半年や1年などの短期的な期間で衛星を打ち上げようとすると、やはりどうしてもリスクも伴う。そして、衛星の数を増やしていくことになれば、品質の担保はもちろん、どうやって新しい技術を取り入れるかなども考えていく必要もあるでしょう。こうしたジレンマを抱えつつも、どのように壁を乗り越えていけるかが面白く感じるところであり、ビジネスの課題だと思うところでもあります。

新しい技術のキャッチアップは、「とにかくリサーチにコストをかけている」と言います。

「情報が入ってこないと、そもそも取り入れるべき技術かどうかの判断ができないんです。まずは、いろんな情報を仕入れること。そして、自分たちの衛星開発にいかに取り込みやすくするかも考えています。新しい技術が降って湧いたときに、柔軟に取り入れることができる土壌を作っておくことが求められると思います」

「どうやったら宇宙産業が広がっていくのか」

そのような視点を持つ眞鍋さんは、「過去の産業がどう発展してきているかを参考にしている」と言います。

「ビジネス課題で参考になるのは、ITバブルの時代にどのようにしてインターネットが普及していったかだと思います。いきなり現代のような高速通信網があったわけではなく、電話回線から始まり、その後は光回線を経てWi-FIが登場している。つまり、今の宇宙産業に置き換えて考えても、容易にアクセスできないからこそ、広がっていないと捉えることができるわけです。ロケットの打ち上げはともすると、電話回線以下の頻度の回数しかなく、法外な値段になってしまっている。これこそがビジネス課題であり、将来的には毎日打ち上げられるような安いロケットを作らないと、なかなか産業は広がらないのではと思います」

さまざまな宇宙開発の会社があるなか、SPACE WALKERは有翼式小型ロケットの開発にこだわる理由について、眞鍋さんは「タクシーのような気軽に使える移動手段をイメージしているから」と説きます。

「毎日運行できるような有人飛行サービスを目指していくためにも、それを成立させるには有翼型でないと無理だと思っています。そもそも再使用でないと価格破壊ができないわけですが、イーロンマスクがやっているような逆噴射型のものではなく、我々はグライダー式で地球に帰還するロケットを開発しています。どうしても逆噴射型の場合、帰還用の燃料を積む必要があり、機体高度が大きくなる。一方で我々の場合は羽で帰って来られるので、小回りを利かせられ、機体構造自体も小さくできるんです」

さらにビジネス視点で考えても、アメリカのヴァージン・ギャラクティック社とはマイルストーンの置き方にも違いがあるそうです。

「ヴァージン・ギャラクティック社は、有人飛行をビジネスのマイルストーンに据えていますが、我々の場合はオートパイロットで行って帰って来れるシステムを開発しています。そのシステム開発をやっているからこそ、有人にいきなりいく必要がなく、無人のなかで実績を積むことができるからです。そんななかで、ビジネスにおけるマイルストーンを達成するには、オートパイロットのシステムやエンジン、液体酸素に適合する複合材タンクを完成させることが、テック目線での課題になっています」

宇宙産業も、地球上と同じような歴史を辿りながら発展する

最後は各社が描く「宇宙ビジネスの未来像」を語り、熱いトークセッションを締めくくりました。

まず、倉原さんは「個人的な意見として、クラウドサービスなど宇宙産業以外の事業との境目がなくなってくるのではと感じている」と話します。

「例えばGPSはもともと宇宙産業のシステムだったのが、今やスマホには欠かせない機能になっている。現在ではクラウドのサービス事業者が、もはやネットワーク事業者とも呼べるようになってきていて、自社で海底ケーブルを保有し、各国の拠点間を結ぶネットワークを構築しています。要はクラウドサービスのための通信サービスの一環として提供しているわけです。他の事業との境目がなくなっていくことで、宇宙産業の発展に繋がってくるのではないでしょうか」

小畑さんは「宇宙ビジネスの未来像は、すなわち宇宙が意識されなくなること」と見解を示します。

「我々がやっている衛星による地球観測の事業は地球の人々のための何かなので、宇宙のための何かではない。そうなってくると、地球の人々のための何かが発展すればするほど、宇宙は意識されなくなるんです。今はあえて、“宇宙”だと言わないと興味を持ってもらえない。だからそう言っているのであって、宇宙ベンチャーと標榜してお金が集まるのもそんな理由からですが、本質的には地球の人々のために何をやるか。それができていれば、宇宙って意識しなくていいと思うんです。

そういう意味で宇宙ビジネスを考えると、消えてなくなるのかもしれません。今でも、すでにできている例を挙げるなら、天気予報になります。朝起きて特に意識せずに気温や天気を把握し、服装を選ぶように、気象衛星から来ている情報を自然に受け入れ、行動に活かしている。この時、衛星情報を管理している状況なんて誰も意識していないわけです。こうした世界観を目指していけたらと考えています。ただ、本当の未来像は月に行って住んだり宇宙旅行にお金を払ったりすることだと個人的に願っていますね」

眞鍋さんは、宇宙ビジネスの未来像を短期、中期、長期の3つのスパンで考えているそうです。

「かつての大航海時代からイギリスの産業革命、その先にあるゴールドラッシュのような未来を想像しています。大航海時代に手漕ぎボートで世界へ出た後、蒸気機関の発達で自動でいろんなところにモノを運べるようになり、未開の地でゴールドという利益が採掘されたことで、そこに人が移住していったように、宇宙でも地球上と同じような歴史を辿ると考えています。また、中期的な視点だと、月や火星にどうやって人間の居住を作っていくかという産業が生まれると予想しています。

そして、ここ50年くらいの短期スパンで考えると、観測衛星や通信衛星が大量に配備され、地球上のサービスがよりよくなっていく。倉原さんが言われた宇宙との境界線がなくなるということについては、国境がないところで共通のサービスを使うこと自体が法律面でもサービス面でも曖昧になりがちだと感じています。ゆえに、IT以上に世界各国の法整備が難しくなるかもしれません。ただ、国境がなくなって今までの産業構造が様変わりしてくれば、いろいろなサービスが垂直統合されてくる可能性もあるでしょう。宇宙ビジネスの未来を考えた上で、次の100年はもしかしたら既存の産業構造を変える大変革が起こり得る。そう私は考えています」

今後もmeet CTOsでは、さまざまなCTOをお招きしたセッションを行っていく予定です。乞うご期待ください。

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