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0.3%を掴み取れ!ベンチャー企業の成功法

よくベンチャー企業が成功する確率は、1000分の3だと言われる。せっかく起業をしたところで、生き残れるのは0.3%なのだ。これほどまでに生き残りが難しい理由の一つに、大企業との競争、という避けては通れない戦いがある。資金も人材も大企業より乏しいベンチャー企業が、正面から戦っても苦戦を強いられることは明らかだ。では、大企業に勝ち、その0.3%の成功率をあげるには、どうすればいいのだろうか?

戦略その1:大企業と正面から戦わない

起業する際に、ニーズがある市場を見つけることは非常に重要だ。しかし大体、儲かる市場には既に大企業が進出していることが多い。もし大企業が進出していない分野や市場があれば、それは小さすぎる市場か、大企業が進出しない理由が何かあるのだろう。

アメリカでYコンビネーターというシードアクセラレータ(ベンチャー育成プログラム)を設立運営しているポール・グレアムという投資家がいる。彼がベンチャーの成長について書いた面白いエッセイがあるので紹介したい。

彼は、ベンチャーが勝つには技術変化・環境変化・ユーザーの行動(心理)変化に適応することが重要だ、と主張している。これらの要因に誘発されて、ビジネスの環境が変わり急に新しい市場が生まれるケースがある。この、突如生まれた新しい市場にこそ、ベンチャーは進出するべきなのだ。

紹介されていたのが、アップルの例。技術開発によって、コンピューターは安く小さく作ることができるようになった。そこで、スティーブ・ウォズニアックは、自分の為に個人用コンピューターを作り出し、スティーブジョブズに話をした。それが、アップルの始まりと言われている。多くの人が「コンピューターが大きな市場である」と気づいた時には、アップルはその分野でビジネスモデルを確立していた。

同様の例に、グーグルがある。インターネットは既にあり、ウェブサイトも数多く作られるようになった。すると、インターネット利用者から、良いホームページを早く見つけたいという欲求がでてきた。検索エンジンはあったものの、使い勝手が良くない。ここに改善点があると、創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは気がついた。そしてアップル同様、多くの人が検索エンジンの重要性を認識しはじめた時には、Googleはトップ企業になっていたのだ。

つまり、ベンチャーには、何かしらの技術変化、環境変化、社会変化等の原因により、突如出現した市場を見つける観察力と、そこに進出するスピード感が不可欠だということだ。今であれば、モバイルの普及は環境変化だし、AIは技術変化、シェアリングエコノミーなどはFacebook普及などを背景にした社会変化だと言えるだろう。起業家は、常に新しいアイディアや世の中の動きに目を向けていないと、あっという間にビジネスチャンスを逃してしまう。

戦略その2:大企業にはスピードで勝負しよう

「イノベーションのジレンマ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

大企業は、優れた既存の自社商品を持つ故に、その開発・改良ばかりに意識が向きやすい。そして、新興企業が同じ分野に進出してきても、その事業規模の小ささ、品質の低さによって軽視してしまう。そのうち、顧客のニーズを掴み、新しい特色(低価格など)を備えた新興企業の製品に、いつの間にか既存の顧客を奪われてしまう。これが「イノベーションのジレンマ」だ。

イノベーションのジレンマ (出典:Wikipedia)

僕がかつて大企業にいた頃、競合他社との厳しい製品・価格競争を経験したことがあったので、このイノベーションのジレンマには本当に納得できた。では、なぜ大企業ではこのような「イノベーションのジレンマ」が起きやすいのだろうか。

その原因は、大企業という組織の大きさにある。大企業は今儲かっている事業に資金と人材を注ぎ込む。既存商品の技術改良や開発に、それらの資源の大部分が当てられる。一方で、新商品の開発などには、あまり人や予算をかけない傾向があるのだ。

また、情報を掴んで、実行に移すまでのスピードが大企業はかなり遅い。本来ならば、新興企業が進出しても、大企業は資金や人材が豊富なので、顧客が奪われるようなことはないはずだ。しかし、このスピード感の欠如によって、新興企業の進出への対策なども、素早く実行に移すことが出来ない。大企業の弱点はここだ。

戦略その3:アイディアを高速で具体化しよう


僕自身も、自分の経験などから、これらの大企業の弱点は、なんとなく分かっていた。

では、具体的に自分たちは何をすればいいのだろうか?と考えていた時に、リーンスタートアップの顧客開発モデルがヒントになった。

簡単に説明すると、まず、お客さんの満たされていないニーズを見つける。その後、ユーザーに「本当にそのようなニーズがあるのか?」とインタビューするのだ。その後、プロトタイプを作り改良などを経て、本格的な販売に移るというプロセスだ。

この顧客開発モデルの革新的な点は、製品を売り出す前に仮説検証とプロトタイプの作成を行う点だ。僕も、最初にこの顧客開発モデルを知った時はかなり衝撃的だった。それまでは「会社が今までこういうものを作ってきたから、これも売れるだろう」という発想で、製品を開発するのが当たり前だったからだ。会社が考えた製品を、販売する。そしてその後、実際に販売してみて、売れないことに悩む。

しかし、この顧客開発モデルでは、最初に買ってくれるお客さんを見つけに行く。販売したら、お客さんが買ってくれるか、確信を得てから作り始める。そして仮説検証とプロトタイプの作成を繰り返しながら、投資家などから資金を調達し、また作って売って・・・を繰り返し、企業は成長していくことができる。

スタートアップの定義と「顧客開発モデル」の4ステップ

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このモデルの背景になっているのが「イノベーター理論」だ。これは、世の中にモノが普及する時の動きを理論的に分析したデータである。

(画像引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Diffusion_of_innovations)


この理論によると、世の中にモノやビジネスが普及していくには波がある。最初にイノベーターと呼ばれる、課題に対して困っていて、それを解決したいというニーズを強く持っている人たちがいる。まずこのイノベーター層に向けて、製品開発をする。その後、それを使ってもらったり、改良を繰り返すうちに、だんだんと世の中に普及していく、という理論だ。

今までは、カーブの頂点あたりに属している、単純に人数の多い層(Early Majority, Late Majority)を狙ってマーケティングをするのが一般的だった。しかし最初からこの層を狙うと、失敗に終わることも多い。この理論では、数は少ないけれど、今ニーズがある層にいかに使いこなしてもらうか、という事に焦点を当てている。

僕はこの顧客開発モデルと、イノベーター理論を学んだことによって、ベンチャーを立ち上げて、どうやって製品を作って組織を大きくしていけばいいのか、という全体像を理解することができた。そして実際に、これらを参考にして、ビジネスや商品開発を行うと、上手くいくケースが多かった。アメリカの投資家や起業家が優れている理由は、このようにベンチャーを作って大きくする過程を理論的に分析して、なぜこれが正しいのかという背景を理解しているからだろう。

■ベンチャーが大企業に勝てる、3つの強み

今回の記事で紹介した、顧客開発モデルや理論は、自分で起業した時だけでなく、今でも参考にしている。そして、これから起業を目指すのであれば、非常に役立つだろう。ベンチャー特有のスピード感と、情報感度の高さ、そして仮説検証を高速で回せる行動力。この強みを活かせば、ベンチャー企業の成功率0.3%はまだまだ上げられる、と私は信じている。

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