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IoTの次には何が来る?アメリカのベンチャーキャピタルが注目するトレンド

僕が注目している、アメリカのベンチャーキャピタリスト(VC)が、以前面白い記事を紹介していた。ベネズエラの経済学者、Carlota Perezが提唱している理論を紹介している記事で、過去240年間で起きた技術的なイノベーションの共通点を取り上げている。本文はかなり長い為、その中で僕が面白いと思ったポイントを要約し、紹介したいと思う。

■産業革命から現在まで続く、イノベーションのサイクルとは?

彼によると、技術のイノベーションには一定のサイクルがあり、それはおおよそ70年毎に繰り返されている。また、一つ一つのサイクルは波のようになっていて、急激に技術の発展が盛り上がった後、ゆっくりとした普及期間がやってくる。下の図は、産業革命から今日まで起きた主な技術革新で、それぞれのサイクルで同じ現象が起きている。

(参考画像:http://reactionwheel.net/2015/10/the-deployment-age.html)

またそれぞれのサイクルには、テクノロジーシステムが存在する。ある一つの技術革新には、部品の改良などだけでなく、社会や経済システムの変化など複合的な要因が影響している。

(参考画像:http://reactionwheel.net/2015/10/the-deployment-age.html)

例えば、鉄道における技術革新を見てみよう。鉄道の普及という一つの事象に、エンジン技術や機械部品の改良などの技術的な要因があることは簡単に想像出来る。しかし、そのような技術的な側面だけでなく、鉄道建設への大量の資金投資を可能にした経済的システムも鉄道技術の発展に大きく貢献したのだ。

もともと、鉄道技術は石炭を炭鉱から、出荷する港まで運ぶために開発されたものだった。しかし、「より安く、早くものを運びたい」という人々が持っていた基本的な欲求を満たすツールであった為、石炭だけでなく、モノや郵便物を運ぶようになった。そして移動手段として使われるようになり、自分が生まれた場所から離れて生活することが可能になった。これによって、鉄道産業だけでなく、他の産業も大いに栄えた。一つの技術的な革新が、結果的には社会や経済、組織全体を変えることになったのだ。(以上、本文より抜粋)

■新しいイノベーションはどう普及していくのか?

では、この70年サイクルの中では具体的には何が起きるのだろうか?著者によると、サイクルは大きく「Installation(導入)期」と「Deployment(定着)期」に分けられ、それぞれ異なった特徴を持っている。

新しい技術が出た当初は、多くの人にとっては価値が分からないことが多い。よって市場による“押し”が必要で、その技術を使った製品を売ることが必要だ。しかし定着期を迎えると、人々は新しい技術を求めるようになり、技術が“引っ張られる”ようになる。

更に、この一つ一つのサイクルの中で起きる、技術の普及方法にも共通点がある。それはS字カーブになっているということだ。

(参考画像:http://reactionwheel.net/2015/10/the-deployment-age.html)

彼はこのS字カーブ現象について、このように説明している。

まず、新しい技術が、ビジネスチャンスを得ると「Irruption(突入)」期に入る。

このフェーズでは、起業家たちや新しい技術やものを早く取り入れる人たち(early adopters )が新しい技術を、既存のビジネスより効率的かつ儲かるものだと気づく。しかし、その動きは比較的緩やかだ。そのうちこの流れに目を付けた投資家たちが投資をし始め、一気に競争が激しくなる。これが「Frenzy(熱狂)」期のフェーズだ。ここのフェーズでは多くの資金がこの技術に注ぎ込まれ、バブルのような状態になる。

そして、ここで、Installation(導入)期からDeployment(定着)期へのターニングポイントがやってくる。急激にその技術への投資が盛り上がりバブル状態になるが、バブルは必ず弾けてしまう。すると、生産資本主導の普及期を迎えるのだ。ここでは、新しい技術がどのくらいの利益をもたらすかということよりも、いかに生産性をあげてくれるかということを重視するようになる。革新的なイノベーションを求めなくなり、技術改善の規模も、企業にもたらすROI(費用対効果)も小さくなる。するとこの技術は「Maturnity(成熟)期」を迎え、投資家たちはまた新しい技術を他で探すようになる。こうしてこの技術イノベーションのサイクルは続いていくのだ。

■これからの10年で、技術はどう変わるのか

では今私たちは、このサイクルのどこにいるのだろうか?

彼の主張では、今は1970年代から始まった、ICT革命(the Information and Communications Technology Revolution)というサイクルの、ちょうど半分の地点に位置しているという。そして、過去の歴史的な技術イノベーションのサイクルを分析することによって、これから何が起きるのかを予測することもできる。

ICTは今、完全に普及フェーズにある。その中で彼が今後10年で起きるだろう、といくつか予想していることがある。

(参考画像:http://reactionwheel.net/2015/10/the-deployment-age.html)

・ICTは、もはや新しい製品の特徴ではなくなる

・しかし、使いやすいことが大前提になる

・UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスピリエンス)が最も重要

・生産コストの低下によって、どこでも使えるようになる

今までは、モノにITの機能がついてると、それは大きな特徴になった。しかしこれからは、IoTと呼ばれる現象があるように、ありとあらゆるものにITが染み渡っていくようになるだろう。ITは特徴ではなく、必要最低限の条件になる。更に、使いやすさや快適な体験も、引き続き欠かせない要素。既にいくつかのスタートアップの製品がそうであるように、取扱説明書などを読まなくてもすぐに使いこなせるような製品が求められている。そして、企業は価格競争に晒されるので、コストも下がっていくと予想される。

とはいえ、ITは普及期に達しているので、これからは大規模かつ衝撃的な改善は、起きにくい。上記に挙げた点も、初期の段階に比べると小さな規模での改善に過ぎない。そして、次の新しい技術の波は、もうやって来ているのだ。僕が注目しているVCや投資家達の目は既に、AIやバイオテックに向いている。

■海外のVCや投資家達が共通して持っている、仮説の立て方とは?

僕が思うに、彼の様な海外のVCには共通した議論の組み立て方がある。まずは、教養に基づいた先行研究。例えば、今のITからAIなど次の技術への過渡期は、1880年代の雰囲気に似ていると言われている。この結論に達するには、まず1880年代がどういう時代だったのか、新しいイノベーションが社会的・経済的にどのような影響を与えたのか、などを徹底して研究する。さらに、そこに+αで分析を加え、今起きていることの真実に近づいていくのだ。こうして、次に起きるであろう変化をいち早く予想し、仮説を立てることができるのだ。

果たして、これと同じレベルのことを日本の投資家、起業家、大企業はできているのだろうか。僕も起業家の一人として、焦りや危機感を感じている。一方で、この時代変わり目というのは、大きなチャンスでもあるのだ。今まで築いてきた秩序が崩れ、もう一度、新しい基準や秩序が創られる。特に若い人にとっては、この新しい時代でどう暴れるかによって、自分で大きなビジネスチャンスを作り出すこともできる。

本文は英語で長さもあるが、挑戦する価値のある内容だ。間もなく迎える新しい時代を勝ち抜くためにも、是非読んで欲しい。



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