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「末端区間」とは失礼な!と思った話

 今回は本書の話から少し離れ、最近また注目を集めている木次線について書かせていただきます。
 「最近注目を集めている」というのは、5月23日、JR西日本が木次線の今後のありかたについて関係自治体と協議したいとの意向を突然表明したことが発端です。

 このニュースがテレビ、新聞等で報じられると、ネット上にも様々な解説記事がアップされました。
 その中で目に留まったのが、「命運は32年前に決まっていた!? 廃止になる公算が高い木次線末端区間(出雲横田~備後落合)」と題したこちらの記事です。

 いくらなんでも「末端」とは失礼な!というのが、地元出身の私が真っ先に感じたことです。思わずⅩで長文の投稿をしてしまいましたが、Ⅹでは読みにくくなってしまったので、ここに内容を再掲します。
 問題の記事にもある通り、出雲横田~備後落合の距離は29.6キロで木次線全体の約36%にもなります。これだけの割合を占める区間を「末端」と呼ぶのは、例えば東京でいえば、京王線の多摩川以西、聖蹟桜ヶ丘~京王八王子を「京王線末端区間」と呼ぶようなものでしょう。(八王子市や多摩市、日野市の皆さん、怒りますよ!)
 国鉄時代から「沿線道路が未整備である」ことを理由に木次線が廃止を免れてきたこと、また1992年の「奥出雲おろちループ」完成で「未整備」状態を一応脱却したことは事実です。
 しかしこの時点で木次線が「存在価値を失った」とは言えないでしょう。なぜなら、おろちループ、出雲坂根~三井野原間にある三段式スイッチバック、延命水(出雲坂根駅)など、この区間には地域にとって数少ない観光資源があるからです。「末端」どころか活性化の鍵となる重要な区間であり、地元としては木次線と国道を両立させつつ人を呼び込むことを期待しました。
 JR西日本も観光列車「奥出雲おろち号」を走らせることで、多少でも木次線の収支の改善を図りつつ、地域に寄り添おうという姿勢を当初は見せていました。「おろち号」は地域の観光の核として一定の成果をあげ、地元の商工業者、生産者にも恩恵をもたらしてきました。その意味で木次線は「32年も残ってきたのが奇跡」なのではなく、残すべき必然性があったのです。
 ただ一方で、JR西は民間企業として当然、経済合理性を追求せざるを得ず、徐々に列車の運行本数の削減を行い、保線や除雪にかかるコストをカットしてきました。その結果、列車の安全確保のための低速運行、冬季の長期運休の恒常化(国鉄時代はラッセル車で何がなんでも除雪し、運行を確保していました!)など利便性が著しく低下。地元の利用者をますます減らすという悪循環を自ら(半ば確信犯的に)作ってきたといえます。
 そして昨年、JR西は車両の老朽化を理由に「奥出雲おろち号」を廃止。「木次線(およびこの地域)から手を引く」方向に一気に舵を切ったことは間違いありません。4月から「おろち号」の代替として「あめつち」を運行させていますが、先日(5月12日)は雨で濡れた線路で車輪が空転し途中で運行を中止したという呆れたニュースが報じられました。そんなにヤワな車両を使っていたのでしょうか?JR側は「やっぱり木次線はムリ」という既成事実を作り、アピールしたかったのでないかと、つい穿った見方をしてしまいます。
 ちなみにJR西の中期経営計画には「魅力的なまちづくりと地域課題の解決による持続可能で活力ある未来」の実現をめざす、といった立派なことが書いてあります。もちろん、一民間企業に何もかも背負わせるわけにはいかないですが、目先の採算、経済合理性を優先させた結果、長い時間をかけて築き上げてきた鉄道ネットワークを自ら放棄することで、かえって企業価値を下げることにならないか、歴史に汚点を残すことにならないか、50年100年先も見据えて慎重に考えていただいた方がよいと思います。
 そもそも問題の根幹は、東京一極集中と少子化という、地方の衰退どころか日本の未来を危うくしている国家的課題に対して、国がなんら有効な手立てを打てないできたことに尽きます。各地方自治体が魅力的な地域づくりに取り組むことは大切ですが、もはや地域の自助努力ではどうにもできない局面に来ていることは明らかです。
 国の役割はもちろん重要ですが、大企業の姿勢も問われています。内部留保を溜め込み、己の持続可能性だけを追求する企業ばかりでは、やがて日本が沈むことになるでしょう。JR西日本は当期純利益987億円、総資産3兆7779億円になります。

JR西日本のHPより

 最初に戻りますが、出雲横田~備後落合を「末端区間」と表現することの問題点は、主に次の2つです。

①地元への敬意を欠く
②「末端」だから廃止しても大した問題ではない、という印象を与え、議論をミスリードする恐れがある

 鉄道ライターを名乗り、鉄道でメシを食っている方が書かれた記事ですが、無神経にこのような上から目線の言葉遣いをなさっていることが残念でなりません。

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