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【8】「ネット担任」とのコミュニケーションで対人恐怖症の中学生に生じた変化(不登校からのキャリアデザイン⑧)

※この記事は2019年8月18日に京都市で開催した、イベント「不登校からのキャリアデザイン〜「行かない」の先を、生きやすく。〜」における講演・パネルディスカッションの書き起こし原稿になります。登壇者・主催者のプロフィールはこちら


通信制の認められていない義務教育(小中学校)段階の選択肢の少なさ

中:平成 28 年度で出されている小中学生の不登校の数は 14 万 4000 人と言われて います。5 年間連続で増えています。子どもたちの数は減っているのに。

統計上の不登校児童の数というのは長期欠席者(年間 30 日以上休んだ子)の数です。つまり、29 日以下の子は入っていない。保健室登校の子も入っていない。

1 時間だけ遅刻してきた子は入っていない。そういう子も含めると、プラス 30 万人いると言われています。40 万人以上がまともに学校行けていないんです。

でもその子たちは、劣っているんじゃない。と僕たちは言い切らないといけない。でも、 通信制の小中学校って認められていないんですね。通信制の高校は認められています。なので、高校選択では公立高校に行こうが灘高校に行こうが、N高校に行こうが何も変わらない。ところが、小中学生には認められていないので、選択肢がとても少ないんです。

実は現行制度でも認められている小中学生の在宅学習

でも、知っていますか? 小中学生でも実は、学校休んでいても、自宅でしっかりと学ぶことができたら学校に出席したことが認められるんです。そういう制度があるんです。

通信制の小中学校は認めていないけれど、実は平成 17 年に文科省が通知を出してるんです。

「不登校児童生徒が自宅において、IT等を活用した学習活動を行った場合、指導要領上、校長権限で出席の取り扱いをしても良い」と打ち出しているんです。「義務教育制度を前提としつつ、一定の要件を満たした 上で自宅において民間事業者(学校の先生でなくてよい)が提供するITを活用した学習活動を行った場合、校長は学習指導要領上、出席扱いとすること及びその成績を評価に反映することができる」と文科省が 14 年前から通知しているんです。

なので、自宅にいてもしっかりと勉強して、学校にそれを提出して学校の校長がそれを認めたら。現行制度においても出席になるんです。平成 28 年に学校復帰を慌てなくてもいいという趣旨の、教育機会確保法ができたけれど。慌てなくてもいいだけでなく、自宅にいても学校と同じように学んでもいいよという制度が実は既にあったんです。通信制の小中学校は認められていなくても、それに準ずる制度です。

ただ、ご存じじゃない方がやっぱり多い。在宅のネット学習でも、出席扱いや成績評価を目指せるんです。これをわかってほしい。知るだけでも全然違いますよね。

では実際、自宅にいながら学校と連携して自宅での学習内容を提出して出席したことになっている子が何人いるか。

昨年の文科省データ。ITを活用して自宅で学び、出席 になった小学生は全国で 16 人です。

中学生は全国で 142 人です。14 万 4000 人いるうちの、たったこれだけです。

フリースクール等に行っていて出席になっている方が 1 万 9685 人。合わせても 2 万人に達しない、14 万人いるのに。制度があるにも関わらずです。

本当はもう少し、この制度が周知されていたら安心できたご家族、お子さんいたはず。慌てなくてもいいよと言ってあげることができます。

学校と連携するネットスクール。クラスジャパン小中学園。

中:そこで、クラスジャパンという団体を立ち上げたわけです。

こういう制度があったとしても、現場の学校の先生が、在宅の子どもたちに対する教育を遠隔で支援できるかというとなかなか難しいです。学校の先生、本当に今忙しいし大変です。

さらに働き方改革によって放課後とか、学外での活動に制限が起こっているんですね。熱心な先生であればあるほど、なかなか自宅訪問できなかったりします。

でも先ほどあったように、民間の教育機関が連携してもいいんです。だから、クラスジャパンは実は学校と連携します。学校の先生の代わりに、自宅にいる子どもたちに映像の授業を配信したり、ネットの担任が進捗管理やコーチングをしたりして、きちっと学習レポートをクラスジャパンの担任が作ってあげるんです。

そして、そのレポートを学校の担任の先生に渡す。先生はそれを見て、子どもの頑張りがわかって、出席と認めてくれる。その仕組みを作りました。本来はご家庭でもできるんです。 ご家族がお父さんお母さんが、子どもの学習計画をつくって、進捗を学校に提出して「出席と認めてください」という動きをすることで、できるんですけれど。実際には仕事も日常生活もある中で難しいじゃないですか。だからそこをサポートしましょうということを、昨年始めたんです。

そして、2019年 7 月、クラスジャパン小中学園という形でネットスクールという形でも始めました。学校と連携して、学校に来ていない時期でも出席扱いにしましょうねと。 だから、学校に在籍しながら、ネットスクールのクラスジャパンに入ってきている小中学生が全国に増えてきている状況です。文科省の制度をうまく使っていきましょうということです。

対人恐怖症の中学生。ネット担任とのやりとりの中で生じた変化

中:一人の中学生の事例を紹介させてください。人見知りで、ネットでのテキストでのやり取りすらも難しい子だったんです。 中学校でトラウマがあって、対人恐怖症だったんです。ネットでも人と関わるのが苦手。最初のやりとりは絵文字だけでした。

でも、絵文字は返ってきました。今日は元気?と聞くと、ニコちゃんマークだけ返ってくる。元気じゃなかったら涙マーク。でも少しずつ続けていたら、やっぱり文章で返ってくるようになってきたんです。

担任【こんにちは。承認ありがとう。クラスジャパン東京校で担任している宮下ありさです。これからこち らでお話させてもらったり、勉強の様子を聞いたりできればと思います。よろしくお願いします。何 かわからないことや気になることがあったら、聞いてね。】

と送ると、


生徒【こんにちは。こっちは、雪がすごく降ります。僕は 7 時頃起きます。「スタディサプリ」も「すらら」も合っていると思います。一番楽しいのは「スタディサプリ」の社会です。わからないところは今は ありません】

という風に自宅で、会わずにメールやチャットツールでやりとりするんです。

担任【勉強の進み具合はどう? 中学1年生順調に進んでいるので、自分で進められていることにとて も感心しています。普段、毎日どんな風に勉強しているか教えてもらえたら。質問たくさんになってごめんね。】

生徒【こんにちは。社会はそうです。英語も一般動詞です。毎日、学校の時間割に合わせて勉強しています。土日は休みにしています】

こんなやりとりをしているんです。

生徒【夏はお祭りや夏休みがあって、楽しいことがたくさんあるので好きです。来週学校の期末テスト があるので、家で受けようと思っています。定期テストについての先生からの提案OKです】

担任【そうだよね。お祭りもわくわくするし、夏休みは長いからたくさん好きなこともできるしうきうきする よね。来週からちょうどテストなんだね!聞けてよかった。提案もOKしてくれてありがとう。そしたら早速この土日は対策の勉強してみる?私も試験範囲と日程を確認したいなと思うんだけど、この前みたいな写メできるかな?】

というようなやりとりをどんどんやっています。

これをレポート出すときに、このままは 個人情報になるので出せないんですが、そういったやり取りをできるようになっていると伝えるんです。すると、先生はびっくりされるんですよ。自宅訪問したときに、子どもはなかなか先生に会ってくれない。 でも、オンラインツールを使ってここまで心を解放してやりとりしていることに、先生驚かれます。

そこで初めて、学校と連携しましょうかとなります。それまでは、「本当にネットを使ってこの子、学ぶんですか?」と言われます。教員側に、常識がやっぱりありますよね。会って話をするからこそコミュニケーションがとれるって言う。でも、決してそうじゃない。子どもにとっては、この方がコミュニケーション取れたりすることもあるんです。

※やり取りの内容については許諾を得た上で公開しています。

【連載:不登校からのキャリアデザイン】

https://note.com/sunaba_corpo/m/m2f2850979f50

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