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家族が余命6ヶ月を言い渡された日(中編)

前回の振り返り

胃がん ステージ4に伴う腹膜播種が判明。

医師から抗がん剤を実施した場合で6か月、しない場合でも3か月の余命とされ、とどめとばかり「来年の桜は見ることができない」とダメ押しまでされた。

その時点での選択肢は3つ。

  1. 抗がん剤を受けない(余命3か月)

  2. 抗がん剤を受ける(余命6か月)

  3. 違う病院に転院する(未知数)

気を付けるべき事

後々、嫌というほど思い知らされるのだが、この手の事態が起きた時にかなり優先順位高く注意することがある。

それは患者(この場合は父親)を置き去りにして勝手に物事を進めない事である。

余命を宣告された本人はどれだけ冷静に見えても精神状態は正常ではない。周りが焦ってスピード感を重視するあまり本人を蚊帳の外に置いた状態にしてしまうと、後々揉める可能性が高い。

重要な決断はあくまで本人の口から話をさせる必要があり、周りはメリットとデメリットを明示し、選択肢をテーブルの上に出すことに徹した方が良い。

ちなみに更にやっかいなのは、余命宣告をされた本人以外(僕のケースでは母親と姉、僕)とのスピード感や温度感に乖離がある等の理由で方向性が決まらない場合である。

この件については後述する。

実際に行ったこと

  • 人手を確保する

  • 患者本人の意思を確認ざっくり確認し、それを踏まえて方針を決定する

  • 決定に基づいたデータ集めをする

  • セカンドオピニオン先を調べる

  • 再度、現状の方向性が本人の意思に沿っているかを確認する。

  • セカンドオピニオン先を決める

  • 入院と退院

繰り返しになるが、本人への確認は複数回行った方が良い。

一回方向性を確認したからとどんどん物事を進めてしまうと、意外と小さい溝が生まれており、些細なボタンの掛け違いが時間を追うごとに取り返しのつかない大きな亀裂を発生させる事になるからだ。

人手を確保する

注意すべきは、単に人数が多ければ良いというわけではないという点。

人数が多くなりすぎると余計な意見や感情論を持ち込まれる可能性があり、物事が先に進まなくなるからだ。

できれば物事を冷静に見ることができる人であればベストだが、最も重視すべきはあなたが最も信頼できて、何よりも「いい人ぶらない」人かどうかだと思う。

何故、能力よりも「いい人ぶらない」人を重視するかというと、今回のような余命3ヶ月~6ヶ月の様な、まさに一刻を争うケースではいわゆる「建前」を使っている時間的余裕はない。

良い人は耳障りの良い事ばかりならべ一向に本質に届かなかったり、責任を負いたくないばかりにふわふわした傍観者的な意見しか出ない可能性があるからだ。

幸運な事に僕の奥さんは非常に高度にこれらを満たしていた。(もちろんいい意味で)

その為、余命を宣告されたその日、すぐに僕の奥さんに相談をし、協力を仰いだ。(もちろん父親と母親の許可を得た後)

患者本人の意思を確認ざっくり確認し、それを踏まえて方針を決定する

僕の中ではセカンドオピニオンを受けて転院してもらう事がベストだと結論が出ていたが、父親はまだ現実を受け止めるのが精いっぱいな状態だったので、結論を急がせる様な事をしないように注意を払った。

父親は古いタイプの人間であるせいか、1つ目の病院の先生(余命3ヶ月~6ヶ月を宣告した先生)を妄信していた。

言い換えると、先生が言う事が間違っているはずがないと信じ込んでいた。

今回のケースでは先生の意見に従うなら最長でも6ヶ月の余命(抗がん剤使用時)である。

別の病院に転院しても6ヶ月以上生きられるという保証はどこにもなく、それならば自分が信じた先生の方針に沿おう、という考えだった。

これは心情的にはとても理解できるし、何が正解かは僕にもわからなかった。

ただ、セカンドオピニオンを受けるだけならまだどちらも選択できる事を根気よく伝え、可能性があるなら受けてみようという言葉をどうにか引き出すことができた。

先述した通り、この本人の意思を確認してから物事を進めるのは非常に重要である。

決定に基づいたデータを集めをする

僕の奥さんもフルタイムで働いており、しかも日常的な家事もこなしていた。

短期間で方針を決める必要があったので、それ以外の事はすべて優先順位を落とす事で時間的な問題をクリアした。

例えば奥さんが日常的に作っていた食事についてはすべて外食やコンビニにするなどして、調べもの以外の負担を徹底的に排除する。

使い古された言葉でいうと「選択と集中」である。

そうして奥さんの時間を作った後、奥さんには情報のインプット役をお願いした。

具体的には「腹膜播種」「セカンドオピニオン」という単語をキーワードとして、どの様な病気なのか、どこの病院での例が多いのかなどとにかく使えると思われる内容を調べ、それを僕にインプットするというもの。

今回医師から提示された選択肢には納得できなかったので、他の医師にも意見を求めてみよう、という方針を決め、セカンドオピニオンという全く別の医者にも意見を求める制度を利用するに至った。

折角奥さんが調べてくれても知識を集約できなければ意味がないので、調べた内容を集約する場所も作った。

と言ってもiPhoneの標準アプリであるメモ帳を使い、共有をONにした上で気づいたこと、URLなどをどんどん記載していくだけ。

共有をONにすると、僕と奥さんのiPhoneから同じメモ帳に情報を入力できるので、僕も並行して腹膜播種について得た情報をメモ帳に記載していく。

僕も奥さんも学生時代は実験業務をしており(奥さんは現役)、用語に対する理解や考え方などがとても似ていた。

その為、方針を決める際などに衝突や認識の違いなどが全くなかった。

セカンドオピニオン先を調べる

腹膜播種をキーワードに調べていくと、いくつかの病院がヒットした。

いくつかの病院をピックアップしながら、下記についても並行して調べていく。実際にセカンドオピニオンを受ける際には、もともと掛かっていた先生から紹介状や検査データをもらう必要がある点に注意。

本人から承諾を得た後になるが、実際のセカンドオピニオンの流れは以下の通り。

  • セカンドオピニオンの価格について確認をする

  • もともと掛かっていた先生にセカンドオピニオンを受ける旨を伝える

  • 紹介状、検査データを準備してもらう

  • セカンドオピニオンを受けるための申し込みを行う

  • セカンドオピニオンで聞く内容を整理して資料にまとめる

セカンドオピニオン先を決める

本人の了承を得た後、実際のセカンドオピニオン先をいくつかピックアップし、父親に提示をするステップへと進んだ。

父親は企業で管理職をしていたからか、自分よりも周り(僕から見たら母親や姉)をとても気にしていた。

極限状態になると人間は利己的になり周りの事が見えなくなると勝手に思っていたので、この反応は少し意外だった。

その為、父親に対するメリットデメリットだけではなく、周りの負担という観点からもセカンドオピニオン先を提示したところ、父親も理性的な決断をしてくれた様に思う。

僕も父親も会社勤めをしている(母親と姉は自営業)ので、プレゼン形式でプランを提示する形をとったところ、とてもうまくいった。

入院と退院

セカンドオピニオン先が決まり、後述するガン支援センターのスタッフさんからのアドバイスもあって、セカンドオピニオン、転院、入院までの手続きは恐るべき速さで進んだ。

12月にセカンドオピニオンを実施し、年末には入院というスピード感には本当に驚いた。これは新しい主治医の先生だけでなく、ガン支援センターのスタッフさんが本当に意欲的、且つ、献身的にに動いてくれた為である。感謝の言葉もない。

上記の要因がベースにあったことを踏まえた上でだが、今回の様に奇跡的に物事がうまく流れた一番の要因は父親の意思決定スピードであったと個人的に思う。

父親は自分の生命を左右する様な大きな決断を数日のうちに下していたからだ。これはマネできる気がしない。

ちなみに、入院といっても、体内に薬を入れるためのポート(注入口)を設置するだけなので、2日後には退院もできた。

現状はまた少し違っているが、当初長くても6ヶ月と言われていた余命を大幅に更新する日々が続いている。

その他

当初、腹膜播種をいう病名を聞いた時、かなり落ち込んだ。

手塚治虫のブラックジャックで「治療は不可能」的なセリフを見たことがあったからだ。

腹膜播種について調べた時もほぼ有益な情報を見つけることができず、本当に藁にもすがる気持ちでセカンドオピニオンを受けた記憶がよみがえる。

ただ、絶対に民間療法には手を出さないし家族の誰かが提案してきても受け入れないと強く心に決めていた。

民間療法を信じる人を否定するつもりはない。

でも、少なくても僕の周りの人(といっても家族くらいにしかこんな話はしない)をそんなものに関わらせる時間もお金もない。

繰り返すが、民間療法をやりたい人はやればいいし、否定はしない。
僕はやらないけど。

ガン支援センターについて

少し脱線するが、セカンドオピニオン先の下調べと並行して各病院にある「ガン支援センター」に相談する事をお勧めする。

これは無料で相談できるセンターで、僕が電話したセンターの人がとても親身になってくれるだけでなく飛び切り有能だった。

セカンドオピニオンの窓口になっている事もあるので、早めにコネクションを確立しておくとその後のやり取りがスムーズになる可能性もある。

後半につづく。


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