当選するつもりがない候補者の立候補を認めるべきかについての是非


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東京都知事選挙に56名が立候補している。前回の選挙(2020年)には22名が立候補しており、当時過去最多であったが、これを大きく上回った。東京都では選挙掲示板の枠が48人分しか用意されていなかった。このため都の選挙管理委員会は、届出順49〜56番目の候補者にはクリアファイルと画鋲を十分な数支給し、枠の下部や左右に掲示するように促すといった対応をしている。
 世田谷区の保坂展人区長は「公平な選挙とは言えない。事前に枠が足りなくなるのは誰もが想定できた」と苦言を呈している。届出順56番目の「ネオ幕府アキノリ党」代表アキノリ将軍未満候補は、状況が合法なのか違法なのかを問いたいとして、1円の損害賠償を求めて国賠訴訟を起こす方針を記者会見で示した。届出順18番目の「ジョーカー議員と投票率を上げる会」代表の河合悠祐候補は、自身は掲示板の48人の枠内でポスターを掲示できたものの「今回の選挙はどんな結果が出ても不公平として、無効にすべき」とし、選挙後に集団訴訟を起こす姿勢を示している。
 しかし、今回の選挙においてアキノリ将軍未満候補は自ら運営するメディアを通じ「専ら宣伝の為に都知事選挙に出馬する」「絶対に受かりません」「くれぐれも当選を期待しないようご注意ください」などと発信している。河合悠祐候補も、ネット番組にて「もちろん当選することは現実的じゃないと思っている」「啓蒙活動をするためだけに出ていると言っても過言ではない」と話している。また、東京都知事選挙の定員は当然ながら1名だが、NHK党は24名を擁立している。都内の自治体の選管職員は「公選法にのっとっている以上は受け入れるしかない」と述べつつ、こうした大量擁立には「当選する意思が本当にあるのか」と疑問を呈している。

https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/006/28/
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/307981
https://www.youtube.com/watch?v=Bs-QL6GPWy0
https://www.youtube.com/watch?v=4gynzZY7KIU
https://www.tokyo-np.co.jp/article/334109

 そこで今回のCAでは「当選するつもりがない候補者の立候補を認めるべきか」をテーマとします。
 私は「認めるべきではない」という立場で立論します。
 みなさんは「認めるべきである」という立場で反論してください。

前提
今回は、自治体の首長選挙に議論の範囲を限ります。つまり、都道府県知事選挙および市区町村選挙が該当します。都道府県議会議員選挙、市区町村議会議員選挙、国会議員選挙などは含みません。
「当選するつもりがない」の範囲については、明確な線引きをあえて設けません。つまり、アキノリ将軍未満候補のように、自ら当選しないと公言している場合も含みますし、当人は「当選したい」と言っているものの傍目からして建前にすぎないと簡単にわかる、というふうな場合も含みます。それぞれを場合わけして論じるような流れに発展することを期待します。

  1. 今回の議論における「認めるべきではない」とは、具体的な政策というよりは、これからの制度設計の背景として考えるべき理念・思想の方向性です。つまり、今回私は「当選するつもりがない候補者の立候補を認めるべきではないという理念のもとで今後は制度設計をするべきである」と主張しますから、みなさんはこれに反論してください。

意見・論点

  1. 首長選挙とは、首長を決めるための選挙である。

→そもそも首長選挙とは首長を決めるための選挙であって、それ以外に目的は無い。あるいはそれ以外に目的や意義、効果があったとしても、それらは二の次である。わざわざ選挙の機会を利用しなければならない理由はない。

Q.これだけ立候補ができることは、民主主義が機能している。有権者の意思を法律で制限してしまうのは良くない。
A.有権者に評価を委ねすぎている。

リソースをいたずらに圧迫するべきではない。

→今回、候補者たちから「不公平」と指摘されている状況は、ひとえに、大量の候補者が立候補したことによる選管側のリソース不足が理由である。限られたリソースを圧迫されることによって問題をきたすくらいであれば、不要不急の立候補はあるべきではない。

Q.リソース不足を野放しにしている、東京都等の行政・立法府側に問題があるのでは?
A.選管側の準備不足を立候補者側に押し付けることはもちろんおかしいが、その反対もおかしいので、大量立候補した立候補者側も問題がある。

有権者に無用な負担を強いてはならない。

→当選しない候補者が立候補するということは、確認するだけ意味のない立候補者の意見について有権者が確認を強いられるということであって、無用な負担を強いていることになる。選挙とは、あくまで有権者のために行われるものである。有権者が無用な負担を強いられるべきではない。
Q.選挙公報を読むことが負担だけがデメリットであり、あまり国民にデメリットはないのでは?
A.選挙公報にあまりおかしなものが入っていたら、選挙への興味を失われる可能性がある。ある思想に固まっている人(選挙なんてくだらない等の主張)、有権者に資料を見せてしまうとデメリットが多い。
Q.劇場型の民主主義(小泉郵政選挙:ポピュリズム)だと投票率が上がる研究も上がるからこのようなことは意味があるのでは?
A.劇場型の民主主義が何を指すかどうかでは?小泉のは、当選する可能性のある人の集まりであり、今回は鼻から当選する気のない人の集まりだから、意味がない。

予想される反論・再反論

  1. 落選したとしても、その候補者に集まった票数が、その意見がどの程度支持されているのかを表す指標として機能する。

→もし拮抗するほど有力な意見であれば、当選するつもりがある候補者でやればいい。また、少数派ではあるが無視するべきではない意見については、議会議員の存在によって補完される。そのために二元代表制がある。あるいは、アンケートをとるなり、有権者たち自身による表現に耳を傾けるなりすればよい。いずれにせよ、わざわざ当選するつもりのない立候補者が立候補してまで、選挙という場でとりあつかう必要はない。


被選挙権は日本国憲法第15条で認められている。被選挙権を平等に認めることは民主主義の大前提である。

→以下の2点から反論する。

日本国憲法第15条第1項の文言は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」である。当選するつもりのない候補者が立候補し、選挙戦をたたかうことは、「公務員を選定」する行為としては逸脱している。

Q.学説なのか?
A.立論者の考察
Q.制度設計上、立候補する必要がない文言を決める必要はなく、被選挙権が認められている文言が先に来るはずでは?外国人かどうかが問題となり議論の余地がなくなる。
A.判例にはあるかもしれないが、被選挙権が平等に認められているかは記載されていない。議論の余地はないことはない。立候補する人の意思より、有権者本位で選ぶことは正しい。
Q.立候補したい人を規制するのは憲法違反では?
A.憲法第15条公務員は罷免、全体の奉仕者等を定めているが、1項:国民固有の権利である・3項:成年者による普通選挙を保証するなので、あくまで公務員を選定する営みである。これは憲法第15条に含まれない解釈とする。

次善の策としてある程度の圧迫を科すことは、日本のこれまでの制度設計の考え方と矛盾しない。ルソーは『社会契約論』第3編第15章において、代議制そのものへの批判を展開している。本来は、人民と政府との間に中間権力があってはならないのである。究極的な民主主義の理念にてらせば、そもそも議会制民主主義体制をとっていることそのものが次善の策である。そんな次善の策がこれまで認められてきたのは、民主主義の原則をある程度歪めてもなお、民主主義的な政治体制を現実的に維持するために合理的な措置であると認められてきたからであって、今回の話はこれとさしたる違いはない。単に程度の問題に過ぎない。

Q.落選させることも権利だから、誰が出馬してもいいのでは?
A.選ばらない権利があると言われると、当選した場合でもリコールがある。

参考文献・URL

  1. NHK首都圏ナビ, 東京都知事選挙2024 候補者一覧 過去最多の56人が立候補 投票日は7月7日, https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/006/28/, 最終閲覧:2024年7月2日

  2. 東スポweb, 【都知事選】枠外ポスター問題が「選挙無効」訴訟に拡大か 将軍未満氏は損害賠償請求、河合悠祐氏は集団訴訟を予告, https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/307981, 最終閲覧:2024年7月2日

  3. ネオ幕府アキノリ党|公式(X), 記者の皆様へ, https://x.com/rinjibakufu/status/1807445520870494705/photo/1, 最終閲覧:2024年7月2日

  4. ネオ幕府アキノリ党(YouTube), 「ことし都知事選出ます」〇〇一, https://www.youtube.com/watch?v=Bs-QL6GPWy0, 最終閲覧:2024年7月2日

  5. ReHaQ-リハック-【公式】(YouTube), 【緊急生配信】東京都知事選2024!ネット討論会⑤【ReHacQ SP】, https://www.youtube.com/watch?v=4gynzZY7KIU, 最終閲覧:2024年7月2日

  6. 東京新聞web, NHK党のポスター枠「販売」いいの? 都知事選に大量擁立の立花孝志党首 法の抜け穴突く「荒稼ぎ作戦」, https://www.tokyo-np.co.jp/article/334109, 最終閲覧:2024年7月2日

  7. 小林淑憲(2013)「ルソーの代表制批判とジュネーヴ共和国」『季刊北海道学園大学経済論集』60

(url: http://hokuga.hgu.jp/dspace/handle/123456789/2250, 最終閲覧:年7月2日)

【先生からのコメント】

規制することは難しい。
何をもって当選する気がないかは決めることはできない。
独裁者は政治家だったから、最後倒すことができた。政治の外である宗教等は大変難しい。
民主主義は失敗を学んで直すことができる政治体制。

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