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歯医者の言葉が頭に入ってこない理由 #13

歯科治療に関わる話しで、
最近は、何も説明されずに歯を削られたとか抜かれた、というケースは少なくなった・・・と思う。
しかし、「先生から説明を聞いて、逆に混乱してしまった」という話をよく聞く。
「伝え方」に関する歯科セミナーの案内をも目にする事が増えた。
歯科医や衛生士さんが説明しても、上手く伝わっていないという現状を表している。
そこで、当院に来院された方々の傾向から感じる事をまとめてみよう。


1:歯科医院での患者指導の実態

とかく先生と呼ばれる人種は、人の話を聞かない。
そして、
自分の言いたい事だけのマシンガントークを展開する。
山盛りの内容を矢継ぎ早に話す。
患者さん相手にマウント合戦だ。

保険診療には
「ちゃんと説明したでしょ!」
の証拠を残す為に、
「紙出し」といって指導内容、説明事項を記した紙を手渡すルールが存在する。
(今でも存在していると思う、知らんけど!)
処置後や指導に際して、注意事柄を列記した紙だ。
が、そこに患者さんの意思は存在しない。
結果も問われない。
紙を手渡せば、実態は患者さんに伝わらなくても
OKという謎のルールだ。
コピペで済ませてもルール違反には問われない。
まあ、何も言わずに歯を削るよりはマシだけど・・・。


2:言葉のオーバードース

接客やカウンセリングを仕事にしている人にとっては常識だが、
10の内容を話しても、
聞き手が理解できるのは
せいぜい1か2、
3も届けば大成功
と言ったところだ。

1週間もすれば元の木阿弥。

なので、
私たちの歯科医院では
必ず体験、実技を伴う説明、生活指導を行う様にしている。
その日その人にとって、最も必要なことを1つ・2つに絞り、
時間をかけて確実にインストールしていく。
急がば回れだ。

身近なところでは、化粧品の実演販売が近い感じ。

ところが、
歯医者は10の内容を短時間で話そうとする。
「2倍の内容を1/2の時間で指導出来る」のが
スーパードクターの証と誤認しているふしがある。

本や論文など、文章を書く時には
必要事項を網羅しておくことも必要だ。

我が師:片山恒夫の書く文章は
「一つでも抜け落ちていたら不親切」
との想いから
とにかく長く、回りくどく、読み難い。

ところが、会話になると一変する。
相手の心情を読み解き、ピンポイントで
「刺さる言葉」を投げかけてくる。
言葉だけでなく、五感に訴えるやり方で。


3:コミュニケーション不足

私たちの歯科医院に来院する患者さんの訴えを聞いていて感じるのは
「コミュニケーション不足」

スーパードクターのマシンガントーク&紙出し
の被害者と言っても良い。

「私の痛みが伝わらなかった」
「一番聞いて欲しいことが話せなかった」
「沢山説明されたが、何を言っているのか分からなかった」
中には分厚いA4ファイルの資料を持って
「私はインプラントの専門家になりたいわけじゃない」
と言って来られる方も・・・。

兎に角患者さんが
「一番困っていること、して欲しいこと、なんとかして欲しいこと」
が伝わっていない。

こんなことを言うと
同業者の反論山盛りだろう。

「必要な事は全て説明しているし、ペーパーも渡している」
「親切丁寧にお話ししている」
「コミュニケーション不足なんてあり得ない」
ん〜〜〜理系アルアルだ。

言うだけ言って、聞いていない。


4:ドキュメンテーション

一を聞いて十を知る
なんて、我が師:片山恒夫でも不可能だ。
(・・・と思う)
だから片山は
患者さんの現状と過去を一つ一つ丁寧に、
歯の一本一本について、その歴史を話してもらう。
あらゆる可能性を考え、想像を巡らせながら
言葉を選んで、患者さんが話し易い状況を作り出す。
歯や歯肉の問題から、その時々の患者さんやご家族の生活状況、
仕事上のトラブル等々を
患者さん自身の言葉で話してもらう。
誘導尋問ではない。
質問者の意図・筋書きを徹底的に排除した上で
患者さん自身が頭の中を整理してもらう。

ドキュメンテーションだ。

歯科医は、患者さんが話を纏める事の手助けに終始する事で
患者さん自身も考えが整理されて来る。
自分で考え、自分の言葉で、時に文章にまとめる事で
本当の主訴が医患ともに共有できる様になる。
そこから始めないと、治療に進む事など出来ない。
「削られた、抜かれた」
になってしまう。


5:聞く力・聞く姿勢

世のスーパードクター達のコミュニケーション能力から察するに、
私の様なコミュ障歯医者は、能力の低いダメ歯医者なのだろう。
上手く伝えられない事を自認しているので、
伝え方の勉強会、読書、セミナー受講もして来た。
が、
伝える事以前に、
どこまで聞けているのか?
どこまで話してもらっているのか?
が重要であるという事に気付いてしまった。
「聞く事=患者さんに吐き出してもらう事」だ。
「何を欲しているのか?」
「何とかしてくれ〜〜」
を表現してもらえば、
こちらは、その答えを投げ掛ければ良いだけだ。

今の歯科界では、
話す事、説明する事、説得する事を重視する
しかし

「話す前に聞け!」
伝えるのはそれからだ。


6:コミュニケーションの壁

私の様なコミュ障歯医者が、
どうやってコミュニケーションの壁に立ち向かって来たか?
なんて偉そうに言える事は何も無い。

勉強熱心で、向上心に溢れる若い先生達は
自分の能力を高めて、
壁を乗り越えようとする。

素晴らしい事だ。
が、私には真似のできない事。

そもそも、治療中の患者さんは口を開けているので喋らなくても良い
のだから、手先は器用だが口下手の私でも出来そうだ
っていう浅はかな考えで歯科医になった私は
自己を高めて壁を乗り越えることを早々に諦めた。

著名なマーケッターの神田昌典氏の講演で
「壁は乗り越えようとするから疲れるんだ。
穴掘ってくぐり抜ければ良いんじゃネ!」
と教えられた。

これだ!
と目の前が明るく拓けたのを鮮明に覚えている。

片山恒夫から言われた
「何の実績も無いお前達が偉そうに、
さも自分の成果の様に話すから伝わらんのじゃ!」

から得たコミュ障克服術について、
「権威者の実績に頼れ!」
として項を改めて経験談を纏めてみよう。

題して「壁のくぐり抜け方」なんてネ。

そんじゃあまた。

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