いつまで田中角栄の価値観を引きずる?「車で行けない場所なんて人が来るはずない」という大きな誤解
時代は変わった。昔の常識は、今の非常識。正解は一つじゃない。
まちづくりも、「常識」から脱却しよう。
今月1日、私が代表を務める株式会社SUMUSでは、入社式に地方活性化のプロフェッショナル、木下斉さんをお招きしてゲスト講演を行ってもらいました。
新たに仲間に加わった4名の若者に向けて、「一般論に惑わされない」「自分の目で見て、自分の頭で考える」、そんなテーマでお話をしていただきました。
これはまちづくりや地方創生にも深くつながるテーマでした。
木下さんが関わってきた各地域の事例を聞きながら、私にとっても、日々の生活や「まち」が、いかに昔からの価値観に引っ張られているかを深く考えさせられる時間でした。
note読者の皆さまにも一部をご紹介させていただきます。
不動産は「エリア価値」で決まる
各地域の事例を紹介する前に、一つ押さえておきたいのが、不動産の資産価値は「エリア」に左右されるという点です。
住宅ローンでマイホームを購入された方も多いと思いますが、そのローンを支払ったあとのご自宅の「資産価値」はどれくらいを見込んでいますか?5000万円で購入したが、500万円でしか売れない物件もあれば、1億円で購入して、20年後に8000万円で売れる物件もあります。
この、いわゆるリセールバリューに大きく影響するのが、個別の物件の設備云々ではなく、「どこにあるか」という点。皆さんご自身も家を買う/探すときには、「このあたりだったら住みたい」というエリアにまずは当たりをつけるのではないでしょうか。
皆が住みたいエリアと、誰も住みたくないエリアでは、同じ条件の不動産であっても価格が全く違います。都内でもエリア別の価格差は感じますが、田舎にいくとより一層その差が大きくなります。
田舎であっても、エリアの価値をあげるという観点で取り組むことで、周辺一帯の不動産価値が大きく変わる事例があります。
「公営住宅=どこでもいっしょ」という固定イメージを刷新
お金がかかっているのに素敵じゃない、残念な場所
市営住宅、公営住宅というと、どんな建物をイメージしますか?おそらく、鹿児島に住んでる人でも、千葉に住んでる人でも、青森に住んでる人でも、同じような建物をイメージするのではないかと思います。
今の時代に、デザインされていない無機質な箱。そのイメージの上で、「どうしても、公営住宅に住みたい!」と憧れを持っている人は、少ないでしょう。
実際、公営住宅が建ち並んでいることで、周囲に人が住みたがらず、地価の下落要素になることさえあり得るのです。
そもそも、地方の建築会社ではデザインまで含めて提案できる会社が少なく、役所は他の都道府県でやったような仕様とデザインで計画をまとめてしまう。建てるという「作業」だけを地元に発注するというスタンスが取られていった結果、日本全国どこに行っても同じような建物を、高い値段をかけて作っている、という背景があります。
民間からの借り上げ方式で公営住宅のイメージを一新
この、いわゆる公営住宅の「あるある」プロセスから脱却したのが、大阪・大東市のもりねき住宅。民間事業者が建設・保有する住宅を市が借り上げる「借上市営住宅」です。
上の写真を見ていただくと分かる通り、いわゆる一般的な「公営住宅」のイメージ」とは一線を画しています。
もともと古い公営住宅があった土地を民間が借り、その上物も民間で(もちろんデザイナーさんを入れて)建てる。そして出来上がった部屋を市が借りて、公営住宅として運営をする、という流れです。
さらに住宅だけではなく、公園エリアや商業施設のエリアも併設し、住む人にとっての快適性はもちろん、商業施設を併設した開かれたエリアにすることで外からも人が訪れる街に変化しました。
きれいな町に生まれ変わったことで、それまでは「誰も住みたくない」と言われていたエリアの周辺価値も上がったそうです。
段階的な開発で、更なる挑戦を
木下さんは、衰退地域の再生のポイントとして、一気に開発するのではなく、段階的に行っていく、という点を挙げていました。私も普段からこのnoteでもスローディベロップメントの重要性を書いていますがそのメリットは大きく3つ。
①少ない予算でもスタートできる。
②得た利益を、次に再投資する循環ができる。
③回を重ねるごとに、事業性が上がっていく。
もりねき住宅もエリア再生プロジェクトの入り口。この一歩目で成果が出ると、他にも「出店したい」「オフィスをおきたい」という声が上がるようになります。
「車で行けない場所なんて価値がない!」~田中角栄のまま止まってしまった立地観
もう一つ、まちと車の関係について。
私もまちづくりに携わる中でよく感じることですが、「車で行ける場所、駐車場が近い建物でなければ、人に来てもらえない」と考えている人は非常に多いです。
特に地方に行くと、車が日常生活に欠かせない地域も多く、この『車で行けるところ前提』はより強固です。しかしその前提そのものが、実は時代遅れになっているのかもしれません。
ここでは、岩手県の紫波町の事例と、流山市の事例をご紹介します。
「ちょっとそこまで」に車を使う人たちが、あえて歩きたくなる-岩手県紫波町 オガールの事例
岩手県紫波町にある「オガール」は、公民連携でできた10.7ヘクタールのまち。人口3.4万人のまちに年間80万人が訪れる、人気エリアです。公民連携のまちづくりの象徴的な成功事例の一つです。
オガールについての詳細はまた別の記事で紹介させていただきたいので、今回は一部のみ取り上げます。
オガールでは、中央に芝生のグリーンベルトを走らせ、その両側に建物が並んでいる、という設計になっています。
駐車場は建物の裏側に設置してあります。搬入車両などを除いて、マイカーで訪れた人たちは裏の駐車場に車を停め、敷地内は歩いて移動するデザインになっています。
もともと車社会である紫波町では、このような「歩行者のための空間」に対して当初は懐疑的な意見も多かったそうです。
田中角栄氏がご活躍された当時は、そもそも自動車が通れる道に接続している土地がレアだった時代。しかし今では、そんな土地だらけです。
もはや供給過剰になっていて、逆に車が進入できない、安心して歩けるエリアに価値が傾いています。
駅前の価値を見直して、子育て世帯が喜ぶまちに-流山市 流山おおたかの森駅の事例
流山市にある、流山おおたかの森駅は、一般的な首都圏の駅前のイメージとは大きく異なります。都心から20分という立地でありながら、木が多く緑視率が高い風景と、駅前に自動車進入ができない区域をしっかりと設けてあることが特徴的です。
一般的に駅前と言えば、ロータリーがあり、客待ちのタクシーや迎えに来た車、バスが列を作っている風景を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかしその造りでは、訪れた人は電車を降りて駅を出るとすぐ、駅前の店舗に寄ることもなくそのまま車に乗ってどこかに行ってしまいます。さらに、車がひっきりなしに通るものですから、小さなお子さんを連れたご家族にとっては「怖い」場所になり得ます。
これでは、せっかくの「駅前」という立地を活かしきれていないのかもしれません。
流山おおたかの森駅では、駅の出口の一方向を、車両の進入ができないようなデザインにして、歩行者空間と商業店舗にしています。
もちろん、立地や住宅条件などの他の要素もありますが、この駅前のデザインも「母になるなら流山市」というキャッチコピーをかかげる流山が、子育て世代から圧倒的な人気を誇っている要因の一つだと言えるでしょう。
海外の都市ではさらにアグレッシブな自動車規制をしているまちもあり、それが不動産の価格にもプラスの影響を与えている実例もあります。
もちろん今でも、車の出し入れがしやすい便利な場所を求める人はゼロではありません。しかし、以前のような希少性はすでになく、価値が下がってきているという現実は、知っておいて損はありません。
定番に惑わされないまちづくりを
今回ご紹介した、公営住宅や駐車場のあり方の話に限らず、まちづくりや地方創生の「常識」だと思われていたことが、実はもはや全く常識ではなく、むしろ逆の影響さえ与えてしまいかねないようなものに変化していることはたくさんあるはずです。
まちに限らず、「定番」が通用しない時代。
私たちが作るまちは、誰に、どんな価値を提供していくのか。改めて考える機会となりました。
木下さん、ありがとうございました!
株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔
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まちづくりに関わらず、「みんなにとってそこそこいい」最大公約数的な正解は通用しづらくなってきています。その背景について、事例とともに解説しています。
今回の木下さんの講演記事と合わせて読んでいただくことで、理解が深まります。
木下さんの講演の中で、特にこれから社会人となる新入社員に向けて語られたパートは、自社ウェブサイトの中でご紹介しています。
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