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「社長の夢」が招く地獄~このまちは、誰から愛される場所なのか

コンサルタントとして働いて16年になりますが、「社長の夢」を叶える依頼を受けることは少なくありません。そして同時に、お客様を置き去りにしてその夢を追いかけたことで、会社の首を絞めてしまった事例を数多く見てきました。

今私が力を入れている「まちづくり」の分野でも、関わる人のやりたいことや、要望、計画性のない企画が垂れ流されることがたくさんあります。

何億円もかけたプロジェクトで、盛り上がったのは最初だけ・・・

私の場合、地方工務店をはじめとした住宅会社が主なクライアントとなりますが、そこで特に多いのが

・自社のこだわりを詰め込んだショールームを作りたい
・自社オフィスやカフェを含む複数のテナントが入ったビルやビレッジを作りたい

という相談です。

工務店では、「大きなショールームを作る」というのが一つの目標、節目のように捉えられていることがあります。また、それを勧めるコンサルタントも実際にはいます。

高度経済成長期で放っておいても勝手に家が売れたような時代であればそれで良かったかもしれませんが、今は住宅に対する価値観も大きく変わっています。それなのに、「ショールームを作る」という慣例だけが残ってしまい、建設を焦る会社は少なくありません。

しかし、何億円もかけたショールームでも、盛り上がったのは最初だけ。その後は誰にも使われず、維持費と借金の返済だけがのしかかり、10年後には負債となってしまっているものが全国各地に山ほどあります。

また、工務店は原価で建設できることもあり、自社オフィスを構える場所にカフェやパン屋などのテナントを併せたビル・ビレッジ作りたいという要望も少なくありません。そういったハコモノを作ることは、いわば社長の夢。

ところがこれもショールームと同様です。「社長の夢」だけを形にしたプロジェクト。想いが先走り、時代の変化に気づいていない。

客入りが良かったのは最初だけ。あとはテナント希望もまばらで、10年間借金を返し続ける日々。そんな地獄があちらこちらに転がっています。

こうした「社長の夢が、会社の首を絞めている事例」をこれまでたくさん見てきました。自分たちの夢ややりたいことを追いかけるのも良いですが、私はコンサルタントとして、マーケティング視点で「自社がこの町でどう愛されるのか」を考えることを提案しています。

「新国立競技場」の資産価値やいかに

工務店の話からは少しずれますが、同じ構造で象徴的なニュースを目にしました。

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記事の中では、新国立競技場の運営権の買い手の目途がつかないことが指摘されています。

1569億円を投じて建設された競技場。維持管理費は年間24億円。

「競技場に特化させた設備のため、屋根がなく音響や空調の設備も十分ではないので、コンサートなどのイベントにも使いにくい。改修しようにも、大規模な追加投資が必要になる。短期的に採算をとるのが難しい施設です」

(記事本文より)

大小問わず、ハコモノは作って終わりではありません。借金の返済に加え、ただそこに在るだけでもかかる維持費。かけた金額が大きくなればなるほど減価償却の期間も長くなります。

長く使い続けられる、長く価値を生み出し続けられるものでなければ、その先に待っているのは、まさに地獄です。

大きな夢を描くところからではなく、小さなニーズ・ウォンツを探すところから

この新国立競技場の例はとても分かりやすい、よくある失敗パターンです。

これまでの行政主導の計画は、まず大きな絵を描いて、それに合わせて建物を建て、それをどのように活用していくかを考える流れが一般的でした。つまり実際にその場所がどう使われるかを検討するのは一番最後の段階です。

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そうした行政主導のあり方も、高度経済成長期においては有効でした。

しかし、物も家もビルも溢れている現代では、大きなハコモノを作ったところで、そこに利用者のニーズがなければ、ただただ持て余してしまうことになります。

(だからこそ、私が代表を務める会社、株式会社SUMUSでは従来のまちづくりとは真逆の矢印で、利用者のニーズやウォンツに基づいたまちづくりを提案しています)

冒頭に述べた「社長の夢」実現プロジェクトもこの都市計画の構図と同じです。夢(計画)ありきで、利用者のニーズが想定されていないケースが少なくないのです。

弱者の自覚を持ち、弱者としての戦い方をする

とはいえ、「社長の夢」といえど、新規のプロジェクトを立ち上げる際にマーケティングやブランディングを考えることは一般的になりつつあります。

ここで1つ気をつけたいのが「中小企業が大企業と同じことをやってもうまくいかない」という点です。

一般的な書籍で語られているのは、大半が大企業のブランディングです。

資金も豊富で、はじめからデータもそろっているような大企業に対して、地方の中小企業は、キャッシュの余裕もなく、これまでデータ収集などをしたことがない、という会社の方が圧倒的に多いのです。

そんな会社が、大企業のプロジェクトを真似てスタートしたものの、「投資を回収するまでの期間、どのように経営として耐えるか、という視点が抜け落ちていた」ために苦しむ姿を幾度となく目にしてきました。

私は、強者のブランディングと弱者のブランディングという表現を使っていますが、先ほどの従来のまちづくりとこれからのまちづくりの図のように、ブランディングも強者と弱者では順番が違ってきます。

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弊社のお客様企業の大半は、地方の中小工務店さんですので、まずは弱者としての自覚を持ち、弱者として経営効率が高い戦い方を模索していきましょうという話をいつもしています。

そこで大事になるのが、「社長がなにをやりたいか」ではなく「このまちの人に、どのように愛される会社になるのか」という視点です。

長く愛される会社、長く愛されるまちを作るために

「社長の夢」が会社の首を絞める-。少し強い表現を使いましたが、じつはこの話は私たちが行っている「まちづくり視察ツアー」でも非常に共感されるテーマの1つです。

単年で見るとうまくいっているようでも5年、10年という長いスパンで見ると、様々な意味で会社を苦しめている。そんな事例は後を絶ちません。 

ショールームを作る。ビルを建てる。もちろんそれが悪いことではありません。ただし、ハコモノ自体を目的にするのではなく、今一度「誰に愛される場所を作るのか」と自らに問い直してみてほしいと思います。

株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔

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