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それで、まちは儲かるか?BOE分析をベースにした不動産投資としてのまちづくり|第2回ローカルディベロッパーキャンプ 実施レポート

工務店的発想に縛られない!
「まちづくり」事業の成長戦略ケーススタディを学ぶ3日間!

今年も、まちをつくる工務店会議「ローカルディベロッパーキャンプ」を無事に開催することができました!

この「ローカルディベロッパーキャンプ」は、住宅事業と連動して自社商圏のまちづくりや地域活性化事業を考える工務店のための合宿研修です。全国の事例を紐解きながら、採算性の高いまちづくり事業の展開方法を少人数・短期集中でみっちりと学びます。

昨年に引き続き、まちづくりの専門家であり“地方創生の狂犬”とも呼ばれる 木下斉さんをゲスト講師としてお招きし、工務店的な発想にとらわれずに、エリアの価値を最大化していくための手法と考え方を、参加者全員で研究しました。

ゲスト講師は木下斉さん!

今年も、主催している僕自身にとっても非常に学びの多い時間となりました。その一部をnoteでもご紹介します!


工務店の仕事は、二次産業から三次産業へと移行していく

僕たちが提唱する工務店のまちづくりは、新築事業のための集客村(=ヴィレッジ戦略)ではありません。

「ローカルディベロッパー」という名の通り、エリアを盛り上げることで周辺の地価を挙げて土地益を得たり、まち事業単体で収益化を目指したり……つまりは、不動産投資事業としてまちづくりを行う工務店を目指していきたい、という方々に集まっていただきました。

住宅業界は、これから深刻な市場縮小が待ち受けています。日本ではこれからの30年で3000万人の人口が減ると言われており、もちろんそれだけ住宅に対するニーズも消滅してしまいます。

住宅需要が落ち込むことが明らかになっている今、これまで通りの「ものづくり」事業だけでは、先細りは目に見えています。これからの時代は、工務店も二次産業ではなく、三次産業へと移行していくことが重要だと木下さんは語ります。

その答えの一つが、不動産投資事業としてのまちづくりです。

まちづくり事業を行う工務店は全国にたくさんありますが、「まちづくり=不動産投資事業」という視点は、工務店が手掛けるまちづくりに欠けているポイントです。

家づくりの専門家であるからこそ、どうしても「建物を建てる」というものづくり的な発想になってしまいがちです。

そこで今回の「ローカルディベロッパーキャンプ」では、テナントリーシングやコンテンツの選定、人材の育成などソフト面に対する考え方を特に強調してお伝えしました。

今回は、「まちづくり=不動産投資」というイメージを持ってもらいやすいように、皆さんに事前に課題図書としてこちらの本を読んできていただきました。

この書籍の中では「BOE分析」が紹介されています。BOE分析は、その物件が投資に値するかどうかを素早く判断するために考えられた計算式です。

画像引用:「ハーバード式不動産投資術」kindle 47ページ


事業計画に取り掛かる前に、まずはこのBOE分析による不動産投資の評価方法について解説とワークで学び、それから僕が作成した業態(賃貸・民泊・テナント賃貸)別の投資シミュレーションをご紹介しました。

その上で、期待利回りを上回るためにはどこに、どのように投資をしていけばいいのか?自分たちは何をやりたいのか?

ゲスト講師の木下さんと私から、具体的なアドバイスをしながら、参加企業それぞれのまちづくり事業の事業計画書を作成していきました。

山岳信仰✕まちづくり という新たな突破口

事業計画づくりの中でご紹介した事例の一つに、高野山にある宿坊「恵光院」があります。

恵光院は、今から1200年前に空海が五重塔を建立、毘沙門天、不動明王を安置したことに始まる、歴史ある寺院です。

恵光院では僧侶や檀家さん向けだった宿坊をリノベーションし、今は一般の観光客を積極的に受け入れる宿泊施設として運営しています。

寺院という非日常空間に加え、朝勤行や写経、精進料理などの宿坊ならではの体験、さらに一流ホテル顔負けのラグジュアリーな客室を備え、女性客や外国人観光客に大人気の施設となっています。

Googleの口コミも、627件で☆4.6と驚異的な評価です。
スイートルーム「月輪」(写真引用:「恵光院」公式サイト

料金は1泊2万円~、部屋によっては20万円を超えることも。外国人観光客に対応するために、英語を話せる住職の方も3名いらっしゃるそうです。

僕は個人的に、工務店が手掛けるまちづくりと、宿坊のような寺社・仏閣のコンテンツはとても相性が良いのではないかと考えています。

なぜなら、家づくりには「木」が欠かせず、工務店と「森」「山」「林」には深いつながりがあるからです。工務店や住宅会社の中には、林業や材木店のルーツを持つところも少なくなく、山岳信仰が他業種に比べても強い業界です。

少し生々しい話になってしまいますが、工務店がコンセプトデザインを設計し、訪れた方に宿泊以外のビジネスの導線をつくることができれば、宿坊をリノベーションして貸し出すというビジネスは非常に収益化が見込めるのではないかと考えています。

特に地域の方々から強く崇拝されている山や、有名な神様を祭っている山の木で建てた宿坊は、パワースポットとしての注目度も高くなり、高付加価値・高単価のサービス展開が可能だと考えられます。

宿泊以外の収益をを生む方法の例の1つとして、先の恵光院では、宿泊者向けに「高野山奥之院ナイトツアー」を企画し、人気のアクティビティとなっています。

日が沈み暗くなった高野山金剛峯寺奥之院を、修行僧や寺院に居住経験のある案内人が、真言密教の世界や不思議な伝説などを交えながらガイドしてくれるツアーで、人気に合わせて価格も上がってきているそうです。

現在は、公式サイトからの予約で、大人3,150円(※じゃらんからの場合、3,710円)。
画像引用:「高野山奥之院ナイトツアー」公式サイト

まちづくりの事例として海や川など水辺の再生は増えてきている一方で、山の再生事例はまだまだ少ないのが実情です。

この山岳信仰✕まちづくりという掛け合わせは、一つの突破口になるのではないでしょうか。

賑わいをつくりたいまちに、「癒し」を混ぜない

事業計画づくりの場面では、テナント収益を最大化させるための具体的なアドバイスもたくさん飛び出しました。

その中でも、非常に面白かった観点が「サロン系入れがち」問題です。

まちづくり事業は不動産投資事業だとここでも繰り返し伝えていますが、工務店の皆さんはどうしても「内装工事費」で儲けようとする発想をしてしまいがちです。

内装工事費で儲けようと考えると、実はエステやサロンなどは羽振りも良く、嬉しいお客様です。

しかし、今議論しているのは、どうすれば不人気のまちを再生できるかという話。そのときに必要なのは「賑わい」です。賑わいをつくりたいまちに、「癒し/静か」なテナントを入れてしまうと全体のコンセプトがズレてしまうのです。

これは工務店が手掛けるまちづくりのテナントリーシングで、非常によくある失敗事例だなと思いました。

今回の参加者にも、
・サロン系のテナントは賑わい系のテナントに変えたほうがいい
・雑貨屋を子供英会話教室に変えたほうがいい
など具体的なアドバイスがなされました。

地域投資家として、「ローカルスモールビジネス」を発掘して投資する

第二回目となる今回の「ローカルディベロッパーキャンプ」では、事前の課題図書も読んできていただいたことで、共通言語がある状態からスタートでき、前回以上に参加者の方々には「まちづくり事業=不動産投資事業」というイメージを持っていただけたのではないかなと思います。

工務店が手掛けるまちづくりにおいて、テナントリーシングや人材育成などソフト面に対する意識が低いということはかねてより感じていたことですが、今回はもう1つ大きな発見がありました。

それがその地域を盛り上げるために欠かせない「ローカルスモールビジネス」を、まだまだまちの工務店の方々が知らないという点です。

田舎の再生には、そこにしかない特徴的なテナント(人)を発掘することが欠かせません。しかし、面白いローカルなスモールビジネスがあるのかを見つけるのは難しく、再現性もないのでコンサル会社は参入しない分野です(コンサル会社にとっては儲からないので)。

ローカルディベロッパーとして、工務店さんがそれぞれのエリアを開発するだけでなく、地域投資家となりこのローカルスモールビジネスの発掘と投資を担っていくための手法を開発することが今後の大きな課題だと気づくことができました。

また、来年度に向けて新たなイメージが描けた、とても学びの多い時間でした。

※「ローカルスモールビジネス」に関しては、先日公開したこちらのnoteに詳しく書いています。今回のキャンプ1日目に視察させていただいた「obama village」を運営する株式会社スマイズの有村社長は、ローカルスモールにものすごく詳しいです。

地場工務店からローカルディベロッパーへ。
そんな次世代の工務店を目指す方々のお力になれるよう、今後もnoteでの発信や学びの場などをたくさんご提供していきます!

株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔


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