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ローカル✕スモールビジネスの引き出しが、最強の武器になる|視察レポート「obama village」

鹿児島県霧島市にある小浜。この人口わずか600人強の過疎地域に生まれようとしている新しい村「obama village(小浜ヴィレッジ)」を視察してきました。

2023年11月に第2回「ローカルディベロッパーキャンプ」の会場として全国でまちづくりに取り組む工務店の方々と一緒に訪問し、仕掛け人である「株式会社住まいず」の有村社長からこれまでの取り組みの一部始終をお聞きすることができました。

現在進行形で工務店が手掛けるまちづくり。様々な壁にぶつかりながらも、着実に進み、さらに完成前でありながら、すでにまちにも大きな変化が生まれはじめています。


そもそも、「obama village」とは?

「obama village(小浜ヴィレッジ)」とは鹿児島県霧島市の小浜で、株式会社住まいずさんが手掛けている新しい村です。

小浜ヴィレッジのコンセプトは、【FUTURE VILLAGE=新しい村】。都市部への一極集中や成長前提の資本主義経済の限界が見え隠れする今、昔から育まれてきた「村の営み」に目をつけ、自分たちの暮らしは自分たちのサイズでつくろうと、日々の営みをつむぎながら、本当の意味での豊かさを手に入れることを目指したプロジェクトです。

仕掛け人の株式会社住まいずさんは本社を小浜に移し、本気でこの場所のまちづくり、ならぬ村づくりに取り組んでいらっしゃいます。

「obama village」の概要やコンセプトの詳細は以前に僕のnoteでもご紹介したので、詳しくはこちらをご覧ください。

ワークショップ形式でみんなでまちづくり&コストカット

小浜ヴィレッジを訪問するのは今回で3回目。少しずつ工事が進み、伺うたびに新しい発見や気づきがあります。

例えばこの写真。建物の外壁は杉板を焼いた「焼杉」を使っています。目の前が海なので、対候性と防腐性に優れた焼杉を活用することによって潮風から建物を守り、風合いを長く保つことができます。

実はこの焼杉板、みんなで作ったものなんです。前回の視察の際に、僕も焼杉づくりに参加させていただきました。バーナーではなく、伝統的な三角焼きで行いました。

小浜ヴィレッジでは焼杉以外にも、建物づくりや景観づくりのいたるところを手作りしています。それも、ただセルフでやるのではなく周囲の人やテナントの方などを思いっきり巻き込みます。

こうした取り組み方は、コストカットができるのはもちろん、みんなで取り組むことで、参加した人に「自分がまちづくりに関わっている」という当事者意識を芽生えさせることもできるので、すごくメリットが大きいです。

僕も自分が焼いた杉が外壁に貼られているのを見て、なんとも言えない達成感や誇らしさを感じました。

地材地建で、地元の木材をふんだんにつかったまちづくり

鹿児島県は、地域で生産された木材を使って、地域の大工や工務店が建設する「地材地建」という運動に取り組んでいます。住まいずさんも、その活動グループの一社。

先ほど紹介した焼杉の外壁も、もちろん地元の杉を使用しています。さらに外壁だけでなく、フローリングや建具、テーブルやいすにいたるまで、全て地元の木材を使ってつくられています。

写っている木材は、全て地元・鹿児島の木です。

さらに住まいずさんでは、「自分の山の木で家を建てる」という取り組みも行っているのだそうです。鹿児島は自分の山を持っている人がとても多いとのことで、お施主さんのご両親や祖父母が所有している山から木を切り出して、それを使って家を建てます。

林業からはじまり、時代の流れに合わせて製材業、建設業へと事業転換をしてきた歴史を持っており、自社で木を切り出し、製材し、使うところまで一気通貫できるノウハウを持っているからこその取り組み方です。

写真提供:住まいず

今は、市場に安い輸入材が溢れており、国産材は手間暇かけて育てても使われる機会さえないままになっていることも珍しくありません。それが自分の孫やひ孫の家を建てるために使われるなんて…と、涙を流して喜ばれる方もいらっしゃるそうです。

ローカルスモールビジネスの引き出しを増やす

僕は、全国各地で工務店が手掛けるまちづくりを見に行ったり、携わったりしています。その中で工務店が手掛けるまちづくりの一番の課題は「テナントを埋めること」だと感じています。

まちづくりは建設業ではなく、不動産投資業です。良い建物を建てるだけでなく、人がわざわざ来たくなるようなエリアをつくっていかなくてはいけません。

魅力的なテナントの選定と、入居してもらうためのトップセールス。
これが非常に重要なポイントです。

特に田舎において強いのは、面白い人がやっているローカルスモールビジネスです。フランチャイズ化された店舗などはどこに行ってもあるので、わざわざ人が来る理由にはなりません。

ところが、この「面白い人がやっているローカルスモールビジネス」がどこにあるのかを、ほとんどの人は知らないのです。その結果、深く検討せずにFC化されている有名店や、知人の紹介などでテナントを決めてしまい失敗することが多々あります。

一方で、住まいずさんはこのポイントが異様に強い。とにかく、ローカルのスモールビジネスに詳しい。詳しいだけでなく、お店の人との関係性もがっちり築いています。

この強みは、日ごろからまちに出て、飲んで食べて、人と触れ合い、地域のお店を大事にしてきた、その積み重ねから生まれています。

株式会社住まいずは、一卵性の双子のご兄弟で経営をするという珍しいスタイルの会社です。11代目(現社長)が兄の有村健弘さん。そして弟の康弘さん(常務)が、“11.5代目”を名乗り二人三脚で活動されています。

公式HPの「双子社長ブログ」は地元の人に大人気のコンテンツで、なんと食べ物ネタだけで、1600記事以上が公開されています。これだけの記事数がありながら「美味しい店しか載せていない」というこだわりっぷりです。

「家づくりについて」や「お仕事について」のカテゴリよりも圧倒的に記事数が多い!

弟の康弘さんがランチを、兄の健弘さんがディナーのお店を中心に攻め、2人でローカルスモールな飲食店をどんどん開拓しています。もはや、鹿児島で行ったことのないお店はないのだそうです。

またYoutubeチャンネル「てんごチャンネル」でも地元のお店だけを紹介する動画を配信しています。もともと食べるのが好きではじめたことだそうですが、今ではテレビのグルメリポートなどもされており、鹿児島の有名人です。

霧島グルメを紹介する「てんごチャンネル」。CV率が高く、このチャンネルで紹介されたお店はお客さんが増えるのだそう。

これだけローカルスモールビジネスに強いと、例えば「テナントにラーメン屋さんを入れたい」と考えたとき、このエリア、この客層であれば、どの店か、というところまで踏み込んで検討することができます。

さらに日ごろから店主との人間関係を築いているため、出店交渉もスムーズです。

実際に、住まいずさんが主催するグルメイベントでは、普段他のマルシェではまず見かけないような地元の名店がずらりと並びます。

工務店の方々とまちづくりの視察にいくと、つい専門分野である建物(ハード)の設計がどうなっているか、という点にばかり目が向きがちです。もちろんそれも大切ではあるのですが、テナント候補者の発掘や関係づくり、エリアにどうお金を落としてもらうかなどソフト面の強化も考えていかなくてはいけません。

テナント・地域のお店との強いつながり

住まいずさんの場合、テナントの発掘力が強いだけでなく、テナントや地域のお店との関係づくりも強力です。

テナントは、ただお金を払ってくれる存在ではなく、まちづくりの大切なパートナー。お互いに、助け合う、応援しあう関係を拡げていきたい。

有村社長の言葉より

例えば、同一ジャンルの店舗は1つしか入れないようにして、コーヒーならこの店、パンを買うならこの店と限定する。お歳暮用のケーキはテナントに入ってくれているお店から買う、仕事を発注する。このようにして積極的に相手の利になるような関わり方を徹底しています。

小浜ヴィレッジでウエディングをしたいという問い合わせがあった際にも、テナントの商品やサービスを活用してもらえるなら、という条件をつけているそうです。

ただ、魅力的なお店を集めるだけではなく、それぞれを繋いでいくことでエリア全体としての価値を最大化しています。

また先述の通り、建物をつくったり、景観をつくったりする工程にもテナントのメンバーを積極的に巻き込んでいます。ただオーナーとテナントという関係ではなく、一緒にまちをつくっていくパートナーとして関わっているのです。

さらに住まいずさんは小浜ヴィレッジのテナントだけでなく、地域のお店の方々とも強く繋がっています。

例えばモデルハウス(※現在は売却済み)にしつらえとして飾られている小物や洋服などは、すべて近隣の店舗から無償で借りているもの。お店としては、モデルハウスがショールーム代わり。そこに商品を並べることで宣伝になるので、季節ごとに商品の入れ替えまでしてくれていたそうです。

写真提供:住まいず

こうしたwin-winの関係が築けているのも、全て日ごろの積み重ね。「どうせ嫌われるなら自分からダイブする」と、有村兄弟はとにかく自分からまちの人々に関わっていきます。

地元の消防団に参加したり、田んぼをつくってお米を作ったり(田舎の人は朝に活動するので、朝働いている姿が見えると信頼されやすいのだそう)、地元の祭りには積極的に寄付をしたり……

こうした地道な草の根活動が、住まいずさんのまちづくりにおいて大きな武器になっています。

良い家を建てることも大事だけど、良い家を建てたくなる街をつくることも同じくらい大事。

小浜ヴィレッジを手掛ける株式会社住まいずは、もともとは林業からはじまった会社です。それから戦後の住宅バブルに合わせて製材業をはじめ、その後安い輸入材が主流になってしまったために、良い木を使った家を自分で建てようと建設業へと事業転換をしました。

常に時代に合わせて変化してきた会社です。そこから今度はさらに、「まちづくり」へと新たな方針転換をしようとしています。

住宅業界は、今業界全体で需要が大きく落ち込んでいます。これから新築需要は2割減ると言われていますが、その中でも鹿児島は2010年〜2030年の間に住宅着工棟数が-81%にもなると予想されています。

良い家を建てることも大事だけど、
良い家を建てたくなる街をつくることも同じくらい大事。

そうして、住宅会社から、ローカルディベロッパーになる道を選び、家だけでなくエリアにコミットするべく動きだしています。

実は住まいずさんは、2022年に開催した第1回目のローカルディベロッパーキャンプに受講生として参加いただいています。

そこで生まれたアイデアや講師からのアドバイスをもとに、第1期の工事が完成していない今のうちに第2期計画の土地の取得に動いたり、利用できるサービスに合わせて価格が変わる「村民制度」を設けたりと、様々な工夫を凝らしながらプロジェクトを前に進めています。

▶第1回目のローカルディベロッパーキャンプの様子はこちら

住宅会社のポートフォリオが変わる!

小浜ヴィレッジは、一部計画の見直しをしながら、2024年3月に第1期計画が完成予定です。まだ完成前ですが、すでに住まいずさんを取りまく環境は大きく変化しはじめているそうです。

その1つが、非住宅の引き合いが増えたこと。

これまで住まいずさんでは、一般的な戸建の注文住宅が主流でしたが、小浜ヴィレッジを通して大型の木造施設建築ができるという発信につながり、店舗やグループホームといった施設建築の案件が増えたそうです。

さらに地元小学校の生徒が増えて複式クラスだったものが単式クラスになったり、空き家の相談が増えたりと、まち全体にも良い影響が明らかに広がっています。

住宅需要は減っていくことは確実視されている中ではありますが、家だけではなくエリアにコミットするローカルディベロッパーとなることで、まちづくり事業と従来の建設事業が相乗効果を発揮して、更なる発展につながる予感がしてなりません。

さて、小浜ヴィレッジもいよいよ完成間近!その後は第2期、第3期へと更なる開発の予定も組まれています。

次の視察を楽しみにしています。

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今後も、僕のnoteでは、住宅工務店が手掛けるまちづくり、エリア再生事例をご紹介して参ります!

既存の新築・リフォーム事業の枠内に留まらない発想で、これからの工務店のあり方を一緒に考えていきましょう!

株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔

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