家づくりからまちづくりへ。人口減少待ったなしの今、工務店こそが地域再生の主役になる
「住宅産業は、縮小産業である」―
そんな言葉を耳にするたび、僕は(あぁ、分かってないな…)と思ってしまいます。
人が減り、地方の高齢化・過疎化が進む中、住宅需要は今後間違いなく減少していきます。しかし、そんな状況だからこそ、新たなチャンスが生まれています。
悲観している暇はありません。人口減少は「問題」ではなくただの「事実」。どう向き合うか次第で、ただ衰退していくのか、今後ますます伸びていくのか、その結果も変わります。
「工務店が主役となり、まちをつくっていくことで、地方に新たな風を吹かすことができるのではないか?」
「工務店と地域経営を連動させることができないか?」
「日本の工務店のあり方は、ここからグローバルに展開していけるのではないか?」
僕の頭の中の妄想でしかなかったイメージが、今、着実に進みだしています。
毎年、政令指定都市が1つずつ消滅する!?過去にない規模で人口は激減する
日本の人口減少は、住宅産業にとって大きなインパクトです。それは間違いありません。人が減れば、必要とされる住宅の数は減っていきます。
日本の人口の推移をグラフに表すと、ここ100年で一気に人口が急増していることが分かります。それまでは、増えているとはいえ、緩やかな上昇でした。
なぜならば、(飢饉や戦争は別として)人口量は耕作面積と比例していたから。食べるものがなければ、人は増えません。
ところが産業革命を機に、農業機械・化学肥料が開発され、効率的に大量の食糧が生産されるようになりました。また、造船技術が進化し、物流も盛んになりました。
食料が多くの人に行き届けられるようになったことで、人口が極端に増えたのです。
そうしてこの100年間で、3倍に増えた日本の人口は、今後100年かけて半減する予測となっています。
これから、30年で3000万人の人口が減ると言われています。これは、オーストラリア1国分(2500万人)の市場が消滅するということです。毎年、100万人都市(政令指定都市級)が一つずつ消滅し、20年後には九州と四国が消滅する勢いです。
その経済的ダメージの大きさは、想像に難くないはずです。
人口がこれだけ一気に、戦争や飢饉などによる一時的な現象ではなく、恒常的に減っていくというのは、世界のどの国でも未だ経験したことがないことです。日本は、世界ではじめての大規模人口減少と向き合うことになります。
世間では人口減少に歯止めをかけるため、なんとか”増やそう”とする議論が行われていますが、ここでは人口減少を「問題」としてではなく、「事実」として捉え、それに工務店各位がどう対処していけるかを考えていきます。
「世界で最も早く人口が減少する」をチャンスと捉える
先に説明した通り、日本はこれから「世界で最も早く人口が減少する国」になります。この事実は、悲観的に捉える必要は全くなく、むしろ世界で最初に取り組めるチャンスであると考えることができます。
もしここで【答え】を見つけることができれば、それは今後、日本に続いて必ず人口減少のトレンドに入っていく世界中の国に展開していくことができるからです。
ここで僕が描いているのが、住宅会社を主役とした地域再生のシナリオです。
今後二極化が進む中で、まちは「スマートな都心」と「それ以外」になります。行政に予算はなく、人が極端に少ない“ド田舎”と言われるような町や村はインフラ整備もおぼつかず、放置されていきます。
民間資本で地域を再生しようと考えたとき、その役割を担える人こそが、地場工務店であると私は考えています。
住宅会社であれば、基本的にその土地から出ていくことはありません。建物をつくれるという、最強の武器も持っています。地方であれば、そのまちで一番お金をもっているのもだいたい住宅会社です。地域の人たちとの繋がりも強く、住宅会社の社長こそがまちのキーマンであるケースも少なくありません。
そして、その多くが「このまちのために何かしたい」という思いを持っています。
避けられない人口減少を前に、「住宅産業は縮小産業だ」と揶揄されることもありますが、僕は住宅産業こそが、これからの日本全国の課題である【地域再生】の主役になると確信しています。
なぜ、工務店主導のまちづくりが、うまくいっていないのか?
僕が声を上げる前から、「まちづくり」に乗り出す工務店さんは全国にたくさんいました。人口減少エリアに拠点を置く彼らは、”住む人を増やす”、つまり未来のお客様をつくるために、まちを活性化しようと考えるのです。
ただし、はっきり言って成功事例は多くはありません。
工務店が手掛けるまちづくりは「ヴィレッジ戦略」と名前がつきます。集客村とも呼ばれ、その名の通りテナントで人を集め、住宅を売るのが目的です。
実際、ヴィレッジが出来た直後は人が集まり、一時的に認知度が上がるのですが、その人気は一時的なもの。時間の経過とともに客足は遠のき、何億円もかけたプロジェクトだったのに家賃回収すらできていない、負の遺産になってしまった地獄もいくつもみました。
「不動産は物件価値ではなく、エリア価値」であると言われます。
どれだけ素敵な家や建物があったとしても、その周辺地域が魅力的でなければその価値は半減しますし、ましてや「ここに移住してこよう」なんて気はおきません。
必要なのは、家を売るための【集客村】ではなく、「ここに住みたい」と思えるような魅力的なまち。どんな建物をつくるかだけではなく、どんな地域をつくっていくかを考えなければいけない時代に来ているのです。
これまで、家の中でどのような暮らしをデザインするかにこだわってきた工務店各位は、視野を広げて、この家に住んだお客様が、このエリアでどんな素敵な暮らし方をするのかまで想像し、デザインし、エリアの価値ごと上げていくことを考えるべきではないでしょうか。
工務店ならそれができるし、逆に言えば工務店にしかできないことだと思います。
これからの時代の工務店の姿とは?
「まちづくりブートキャンプ」を開催!
2022年秋、僕はまちづくりにコミットしている6社の地域工務店さんと一緒に「まちづくりブートキャンプ」と題した合宿を開催しました。
ゲストは、地方活性化のプロフェッショナルである木下斉さん。
そして雪捨て場だった土地を年間100万人が訪れるまちに生まれ変わらせた「オガールプロジェクト」の立役者である岡崎 正信さん(岡崎さんご自身も、地元の建設会社のご出身です)。
「ブートキャンプ」という名前の通り、これまでの常識や思い込みを壊し、本質的なまちづくり思考を叩きこむ2泊3日の研修です。2名のゲスト講師には時間の許す限り、各社の事業計画について忌憚のないフィードバックをいただきました。
現在進行中もしくは企画中のプロジェクトの事業計画を発表
⇓
講師陣から容赦のないダメ出し
⇓
計画を練り直し、再度発表
これを3日間、ひたすら繰り返します。
僕も含めて、長く住宅業界に身を置いていると「工務店的な思考」に偏ってしまいます。典型的なものが、ハコモノ思想。建物を建てられるという強みにとらわれ、「まず、ハコをつくる」という発想になりがちです。
自分たちの価値観が偏っていることに気づかされ、ビシバシビシバシと叩かれながら受けるアドバイスには、金言続出。
主催者の僕も目からウロコが何枚も落ちました。
実際にどのようなアドバイスがあったのか、その一部をご紹介します。
■土地は限られているが、やりたいことが多い!
― 鳥取県 アート建工様
鳥取県からご参加された株式会社アート建工様は、成長性・売上高伸率全国2位(2021年度)の工務店です。着実に成長を続ける中、地域への貢献に対しても積極的です。今回は出雲エリアにある400坪の開発計画についての事業計画を持って参加されました。
400坪と大きさが限られているものの、ホテルや民泊、シェアキッチンや保育施設などやりたいことが満載だと言います。
<講師からのフィードバック>
まちづくりは、低層で高密度が原理原則。
周囲がシーンとしていたり、密度が低くスカスカの空間ではなんだか居心地が悪くなってしまう。だからこそ、オガールでもあえて見通しを悪くしている。空間を空けすぎないよう、高密度で設計したほうがいい。
戸建の分譲ではレギュレーションを厳しくする。
住宅街はレギュレーション(規制)をきつくしたほうが、価値が上がり付加価値がつく。変な人が住めないようにすることが大事なポイント。レギュレーションを厳しくすることで、エリアの価値が上がり、地価も上がる。
■人口1000人以下のまちで、新しい村をつくりたい
― 鹿児島県 住まいず様
人口1000人以下の小さなまち、霧島市隼人町小浜に拠点を置く株式会社住まいず様は、「働く」と「遊ぶ」を融合した『obama village』を運営しています。新しい村をつくるというコンセプトの下、今後の更なる発展について相談されました。
<講師からのアドバイス>
値が上がる前に土地を買う。
まずは第1期のうちにしっかりと成功すること。そして、今であれば安く土地が買える。成功すると値段が上がっていくので、購入手続きを早く進めたほうがいい。
ハードを増やすのではなく、ソフトを増やしていく。
建物を追加するのではなく、どんな事業を増やせるかという視点で考える。管理人の人件費を考えておくなど、本業以外の部分での収益意識を強化すべき。収益化をすれば、コンテンツもより強化されていく。
■点在している事業をつなぎ合わせたい
-大阪府 ディーズパレット株式会社様
大阪を中心に、関西、東海と比較的広い範囲で活動をする中商グループ様は、障がい者向けグループホームや宿泊施設、こども食堂など住宅事業以外にも積極的です。一方で、複数の事業を展開しているのものの、それぞれが「点」となって散らばっていることに課題を感じていらっしゃいました。
<講師からのアドバイス>
エリアを決めて、小さく始める。
繋ぐという点では、半径150mほどのエリアで小さく始めるのが大事。各コンテンツは綿密につくられているが、「まち」のイメージが感じられない。この場所でやるんだ、と決めてどこかの自治体にリソースを集中するという手もある。
人口減少の中では、空間をうまく使える。
人口流出エリアという話があったが、人口そのものが減っているので、人がいなくなること自体はある意味仕方のないこと。逆に、人が減ることで空間を活用したアウトドアなどを愉しむことができる。今はそうした取り組みができていないようなので、そんな場所を作れると良いのでは。
■才能あふれる人々が集うまちをつくりたい。
-山口県 ネストハウス様
「医・食・住・遊・創」を通して豊かな人生をプロデュースすることをビジョンとして掲げるネストハウス様では、山口県岩国市の由宇町にて「iroherb(イロハーブ)」という複合施設を運営しています。
イロハーブという“まち”を通じて、由宇町を人が集まる町へ育てていくための、次の一手を検討しているタイミングでした。
<講師からのアドバイス>
住宅以外で、しっかりと採算を取れることを目指す。
住宅会社あるあるの1つで、飲食店や小売店で利益が出ていなくても「家が1棟売れればいいや」的な感覚があるが、それは一度捨てないといけない。家が売れればいいやでは、まちのためにはならない。
住宅を売る時代ではなく、「暮らし」を売る時代
現状、この施設に住宅がないのはなぜか?24時間人がいないと、「まち」とは言わない。夜に人がいなくなるのは「都心」。小学校から徒歩何分とかいう話ではなく、ここで暮らすとどんな体験ができるのか、どんな過ごし方をできるのか、を具体的に知りたい。
■駅前を再開発し、いつまでも住み続けられる街をつくりたい
-福岡県 大英産業様
福岡県北九州市に拠点を置く大英産業様は、戸建、マンション、街づくりなど幅広く住宅・不動産事業を展開しています。まちづくりにおいては、自治体と民間企業が連携する「PPP」方式や「PFI」方式での取り組みにも携わっています。
今回のブートキャンプでは、山口県防府市の、2000坪の公有地活用事業の事業計画を発表し、再生計画へのアドバイスを求めました。
<講師からのアドバイス>
建物でまちの価値は上がらない。
エリア開発では、ランドスケープ(目)、サウンドスケープ(耳)、スメルスケープ(鼻)など五感で感じる風景づくりが非常に重要。計画の段階で、周りの絵をしっかりと描いておく。建物だけでなく、周辺までを含めた二次三次設計がカギを握る。
「コーヒーを飲んでパンを買う」ということをイメージできるか。
まずはここに住む人がどんな暮らしができるのかをデザインしたほうがいい。住宅会社の方々は、「家を売る」という観点でデータを見がちだが、「コーヒーを飲んでパンを買う」という行動がどれだけ具体的にイメージできるかが大事。
住宅業界の未来をアップデートし、誰もが憧れる産業にする
他にもご紹介したいエピソードが多数あるのですが…今回はここまでにしたいと思います。
この「まちづくりブートキャンプ」は僕にとってもはじめての試みでしたが、自分とは全く違う視点を持つひとからのフィードバックを受ける機会は宝だと改めて実感しました。
今回は6社の工務店さんにご参加していただきましたが、今後は工務店はもちろん、他業種でまちづくりに取り組んでいらっしゃる事業者さんや、各自治体など様々な方々とコラボをして知見を融合させていきたいと考えています。
私は、地場工務店に特化したコンサルティング会社の社長ですので、つい身内びいきな目線になってしまうかもしれませんが、本気でこの産業のこの先の可能性を信じています。
そして、今回ご紹介したこの『「まちづくり」ブートキャンプ』の第2期の開催が決定しました!
自社商圏のまちづくりや活性化事業をはじめたいとお考えの工務店経営者の皆さまのご参加をお待ちしております。
\住宅工務店が実践する「まちづくり」ブートキャンプ2023【8社限定】/
住宅業界は、これからまだまだアップデートしていきます。
子どもたちから「あの会社で働きたい!」と言われるような産業を皆さんと一緒に作っていけるように、これからも精進してまいります。
株式会社SUMUS 代表取締役
小林 大輔
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