パンドラの箱。暗い話要注意
遥。
私が18年間蓋をしてきたパンドラの箱の名前。
あの日,何が起きたのか。なぜそうなってしまったのか。
この18年間自問自答を繰り返し、夢の中でもすれ違い、捨てられ罵倒され私のメンタルを奈落へと引き摺り込もうとする存在。
今,これを開けることが,過去を曝け出すのが正しいのかどうかはわからない。でも今宵は眠気もなくなり雨が降り始め、鬱々とした中で、自分の感情を整理する機会なんじゃないかと感じた。これを整理しないと私は前へ進めない。ねぇ、遥。はるぼー。久々に口にするとなんて懐かしい響きなんだろう。私の視点でしか語れない苦々しい青春を曝け出すことで許してほしい。
出会ったのは、中学1年生の春。席がすぐ後ろで,私は、咄嗟に名字を読めなかったのを覚えている。目元まである前髪が黒くてショートカットで肌は抜けるように白かった。目は大きくて明るいベージュの瞳。薄い唇。その時は,まだそこまで彼女に惹かれてはいなかったと思う。夏休みを境に彼女と親友になった。中学2年生のとき、私はクラスが彼女と別れたことでほぼ保健室登校になったほど、もう友人はいらない。はるぼーで充分。と思うほどハマっていった。
中学3年のとき、制服が可愛い高校を目指していたが,お互い相談しないで、先生に一個偏差値下の高校を受けると、告げた。偶然の一致にやはり遥とわたしは結ばれてるんだ!なんて、舞い上がった。
高校時代は3年間ずっと同じクラスだった。親の言いつけでわたしは帰宅部に所属していた。放課後は家の手伝いをしていたのだ。遥も最初は帰宅部を選択したものの,友人がいる剣道部のマネージャーになった。そのあたりからだろうか。関係が歪んできたのは。
剣道部の友人3人と帰ると、私は話についていけなかった。その不満を手紙に書くと、過去に遥も同じような出来事があったけど我慢してたことを告げられた。
遥の友人関係は一気に広がりを見せた。私は本に没頭して見て見ぬ振りをした。内心は、羨ましかった。楽しそうに笑って、恋バナに花を咲かせている彼女たちに混ざりたかった。放課後、カラオケ行ってプリクラ撮って遊んで帰りたかった。
でも、わたしは興味ないフリをしていた。つまらないプライドが邪魔をしたのだ。私は教師のお気に入りで,クラスで一目置かれた存在だと思っていた。実際は仲間はずれになった女子高生だった。でも私はそれを認めなかった。より偉そうに接していたように思う。そんな私を遥は変わらず笑わせてくれていたように思う。
高校3年生になり、文化祭実行委員に遥となった。校内放送、前夜祭の準備,出し物の企画、生徒会室での時間。後輩ができて、一緒に先生方へ挨拶にいったりしていた。
我が家の門限は厳しかった。放課後は1時間しか居られなかった。その生徒会室に、実行委員でも生徒会でもないK君が、自身が小柄なのを活かして、マスコットキャラクターのようにそこにいるようになった。愛嬌があって、お手伝いをしてくれて、帰り道は遥と私と途中まで一緒だった。
後輩Aが、K君のこと,好きなんですと打ち明けてくれた。と,言うか,生徒会室に集まるメンバー全員がそれを知っていた。ほんのりわたしも、実はKくんの華奢で小動物のような顔立ちに好意を抱いていた。でもそれは押し隠して、応援するね。と肩を叩いて励ました。
何度も,遥と、KくんとAさん、どうなるかなぁと噂した。お節介にKくんの気持ちを探りに行ってみたりしていた。状況はやや曇り気味に悪いかもしれない。と感じていたが、告白する。と決意した後輩を応援している自分が清々しかった。
その頃遥は剣道部の先輩とお付き合いを始めていた。そして、どんなふうに付き合ってるのかとか、よく話をしてくれていて、私は鼻を鳴らしつつ羨ましく感じていた。学年があがって、少し髪を染めた彼女は薄く化粧をしてとても可愛かった。文化祭でナンパされたり、自転車ですれ違う男子が二度見するのを何度も見た。うちの学年で1番可愛いって評判なんだよ。と囁かれて、わたしはちょっと誇らしく、でも寂しく感じるようになっていた。嫉妬もあったと思う。
そして文化祭が近づいてきた頃、遥は他の友達とコソコソ話すようになっていた。尋ねても、夏樹は苦手な話だから.と話してくれない。よほど秘密なんだな。とぼんやり思っていた。
文化祭終わったら、告白するんだって。うまくいくといいよね!
わたしは呑気にそう遥に話していた。すると、突然、遥は喋りだした。
「夏樹が先に帰るとね、Kくんが自転車で送ってくれるんだ。そのときに、後輩のAのこと、告白するって言ってたことも話したの。そしたら、Kくんね、断るって言ってた」
さっきまで、教室でAを応援していた遥はそこにはいなかった。面白そうに唇は弧を描いていた。ね.愉快でしょう?そんな風にわたしには見えた。
それって,それって,裏切りじゃないの?とわたしは茫然としていた。応援してたじゃない。一緒に、応援してたじゃない。あれは,嘘だったんだ。裏でそうやって、楽しんでたんだ。わたしの頭はぐるぐるとまわりはじめた。あの時,あの笑顔、ぜんぶ、ぜんぶ、にせものだったの?
それとね。
遥は真顔になっていた。なんだろうとわたしは身構えた。
夏樹は、こういうの、好きじゃないから話さなかったけど,私,Kくんから告白されたの。返事はまだしてないけど、家まで送ってくれて,うちの家族は、今彼より、Kくんがいいって言うんだよね。
わたしは、怒った。それって、それって二股じゃないか。後輩の恋を弄びながら二股までしてたのか。
目の前が真っ暗になってくらくらした。わたしがほんのり好意を抱いていた男の子を彼氏がいるにも関わらずキープし、後輩を裏切り、彼氏を裏切り,そして私はいいように騙されていた。
絶望的だった。まだ高校3年生の世界では、それはあまりにひどすぎた。私は,なんて言ったのだろう。
気がついたら,教室を飛び出して顔を洗っていた。
私は、一変して遥を徹底的に避けるようになった。教室で何かを渡さなければいけない時は,他人のように接した。絶対許さなかった。高3のちっぽけな世界では,それが精一杯の怒り方だった。
とうとう遥は不登校になった。クラスの先生に呼び出された。「夏樹、お前は遥にどうしてほしいんだ?」それに私は鼻息荒く答えた。「クラスにいるのは構いません。しかし彼女とはもう元には戻れません。価値観が違いすぎます。」
夏休みが過ぎた頃、遥が久しぶりにぐったりと投稿してきた。やせて、頬はこけて、黄疸ができていた。
剣道部の友人たちは仲を取り持とうとしてくれたが私は拒絶した。もう、どうにもしょうがなかった。どうにかするにはわたしは若過ぎた。一度言ったことは元に戻せなかった。徐々に回復していく様を遠くから眺めていた。
卒業式。
みんな部活の後輩たちに会いに行って,誰も私に話しかける人はいなかった。それでいい。と、私は思った。
半年後から、夢で遥に会うようになっていた。ある時は遥と私を比べて私は卑屈になっていた。ある時は私は遥に謝ろうとして声が出なかった。ある時は無視し続けていた。それから2年くらい経った頃だろうか。夢の中で、普通に遥と話していた。ただの夢なのに、私はなぜか安堵していた。
一度,駅の改札口で彼女を見かけた。綺麗に染めたサラサラの髪で、駅の端に寄りかかってスマホを弄っていた。元気そうだった。
これが,私のパンドラの箱。私の中に巣食う隠の塊。
どうでしたか。胸糞悪くならせたらごめんなさい。
あの時、どうするのが最善だったのだろうか,といまだに自問自答する日々です。感情を抑えず、問い詰めればよかったのだろうか。なにもなかったかのように、親くしつづけていればよかったのだろうか。
未だに答えはでていない。私はもう34になった。20年前の出来事にいつまでも縛られていてどうするんだ。と、心で誰かが囁く。遥の話をまず聞いてみたら、違う展開になっていたかもしれない。叱ってみたら違ったかもしれない。諭してみたら違ったかもしれない。
どうしたらよかったか、誰か教えてください。
パンドラの箱は、まだ、パンドラの箱のままだ。
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