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心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

凡河内躬恒

白菊の花をよめる

心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

(こころあてに おらばやおらん はつしもの おきまどわせる しらぎくのはな)

 やってみようか、できるだろうか。
分からない。
その辺り、折ってみようか適当に。
今朝は寒いから真っ白の霜が降りているようだ。薄暗くてよく見えないが、あれは霜なのか白菊なのか。

心あて…心に頼みとすること。当て推量。
折らばや折らむ…「折る」の未然形に接続助詞「ば」がついている時は、「もし〜ならば」と訳す。折るならば。「や折らむ」は、疑問の「や」が上に上がってきている。折ろうか?と訳せば良い。「折る?」が「?折る」と表記されてる感じ。
初霜…初めて降りた霜。晩秋のもの
霜の置く…霜が降りる
まどはせる…まどはす(紛らわしくさせる)に「り」(存続)がくっついている
白菊の花…「白菊の花(を)心あてに折らばや折らむ」と書くところを倒置で書いている

いくらなんでも、夜明け前の庭先に咲いた菊と霜の区別ができないというのはあり得ない話ですね。ただ、誇張表現だけども、霜と白菊を思い浮かべるととても美しい光景です。夜明け前の庭に菊の香りが漂い、晩秋の張り詰めた清冽な空気を吸い込む。
手折ってみようかどうしようか、というのも良いですね。結局手を伸ばすことなく静かな朝を堪能したのではないかと私は思います。

菊という花は、『万葉集』には出てこないそうです。ただ、同時代の漢詩集『懐風藻』にはあるということで、それを美しいと愛でる感性は中国から入ってきたようですね。時代が下り、『古今和歌集』にはこのように霜と菊が対になる漢詩文の影響を受けた歌が入集しました。

凡河内躬恒は、『古今和歌集』の撰者であり、三十六歌仙のひとり。紀貫之と名実ともに並ぶ有名な歌人です。

凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)

百人一首29番歌・古今和歌集

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