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韓国ドラマ「怪物」で改めて韓国俳優陣の演技力に度肝を抜かれた話

気になっていたもののなんとなく手を出せていなかった「怪物」をようやく観ました。暗くて気味が悪くてしんどくて疲れるんですが、最っ高に面白いしあらゆるクオリティの高さに圧巻され、しびれる映像体験となりました。軽い気持ちで観始めたら止まらない止まらない、早く続きを観たいがために仕事の効率が上がっていたような気がします。面白いサスペンスドラマってたくさんありますが、ちょっと異色のぞわぞわ感や誰に感情移入していいかわからない不安感があって、とっても心を掴まれてしまいました。

ざっと紹介

少し前の21年に放送されたドラマで、色々な賞を獲得し評価されたサスペンス作品です。韓国の田舎の街で20年以上前から起きる女性猟奇殺人の犯人を追うというのが本筋。その遺族である主人公と、とある事情で街にやってきたエリート警官、街の派出所のチームメイト達、そこに絡んでくる街の住人達、さまざまな利権が絡みあう警察庁や政治家・実業家がストーリーを進めます。タイトル「怪物」は一体誰のことを指すのか、事件の犯人は誰で、その背景にあるどす黒い悪の正体は何か、緻密な脚本で毎話引き込まれる描き方が秀逸です。

皆さんの演技力が本当に凄まじい話(ネタバレします)

主演のシン・ハギュンさんが演技賞を取っていたし、この作品は俳優陣の演技力の凄さゆえに評価されているという声はたくさん聴く気がします。色々な韓国ドラマを観る中で、いつも韓国の俳優さんの演技力の高さには本当に驚かされます。が!この作品は中でも格別に感じました。

脚本の凄さでもあるのですが、この作品がめっちゃくちゃ面白いポイントって「登場する人物みんなが怪しい。誰に感情移入していいかわからない」という不安感が終始続くという点が大きいと思います。それを加速させているのが、俳優陣の演技。特にシン・ハギュンさんなんて、ずーーっと笑顔が気持ち悪いのです。そこで何故その笑い?主役でしょ?信じたいよ…という気持ちにさせてくる。

シン・ハギュンさんの気持ち悪い(誉め言葉)笑顔がこれ。お顔とてもタイプなのに、この笑顔は本当にぞっとする。すごい。血管まで演技すると言われているお方らしく、血走った目の演技がすごかった。

かと言って主役を信じられないというだけでなく、それに対立してくる相棒もなんかいけ好かない。チームメイトであるはずの派出所の人とか、信じたい街の仲間たちも、背を向けた瞬間にニヤリとしそうな、腹に何か抱えてる感がある。

登場人物全員が何か爆弾を抱えていそうな、友達になっていいのかな?この人信じていいのかな?と思わせるじっとりした表情をするんです。にこって笑ってきたと思ったら実はナイフ持ってたみたいな展開が起きそうで、ずっと身体が強張ってました。

主人公とパートナーを組みながらも、追い詰めようとしてくるもうひとりの主人公を演じるヨ・ジングさん。もともと歴史ものの子役で有名な役者さんらしく私は初見だったのですが、素晴らしかった。正義感あるお坊ちゃまでありながら、彼もまた人格ねじまがりそうな大変な背景を持っているという役柄を繊細に演じていると感じました。最初、シン・ハギュンさんに食われない?なんて勝手に心配していたら、後半での爆発が素晴らしく、彼の演技に涙を誘われてしまいました。

その他ぐっときた役者さんを数人。

ジンムク役のイ・ギュフェさん。奥さんを失い頑張って働きながら一人娘を育てる、吃音持ちでおとなしいかわいそうだがいい人。を演じる人。作品のスーパーキーマン。この方の素の姿にたどり着く7話・8話あたりが物語のピークだったようにも感じます。それを盛り上げてくれたのが、この方の純粋そうなかわいそうな人物風の描き方のすごさ。なんて恐ろしくて気持ち悪い演技をするんだろう(誉めている)。この役者さんの他の作品も観たいと思いました。

主人公の幼馴染であり同僚であるジョンジェ役を演じるチェ・デフンさん。この方ももちろん超キーマン。最初から怪しいし、ずっとふわふわしてるし、抱えてる感すごい。権力を持つ母に振り回され、でもその呪縛から逃げられず壊れかけてしまう、そのしんどさを表現する表情がすさまじかった。ちょっとおかしくなっている目の演技が本当にしびれました。私がまだ手を付けずに逃げ続けている愛の不時着に出ている方なのですね。ちょっと観たくなりました。

派出所の所長ナム・サンベを演じるチョン・ホジンさん。私は実はこの方の演技にすっごく惑わされてしまった気がします。主人公がずっと慕ってきた人で、人情味溢れる兄貴というか上司感あるのに、随所で怪しい。変なムーブしてるし、ときどき怖い笑い方とかしてくる。この役柄に本当にぴったりな方だと感じました。

焼き肉店のジェイ役の方も、ジュウォンのお父様役の方も、ジョンジェの毒母の方も、イカゲームからの再会で嬉しかった悪者顔すぎるホ・ソンテさんも皆さん素晴らしかったです。語り出すと止まらない。生まれ変わったら韓国の芸術学校で鍛えて、皆さんと共演できる役者になりたい。と本気で思いました。

その他、この作品のすごかったポイント

・田舎町の閉ざされた世界観の描き方。画面はだいたいずっと暗いし、雨が降ったり地面はぬかるんでいる。じっとりジメジメした雰囲気が不安にさせれくる。
・人物の心の動き、関係性や信頼度の変化が繊細に描かれている。対立していた関係も変わってくる。が、最後肩組んでがっつり仲間!よっしゃ!みたいな終わり方でない点もリアル。
・ドラマのいわゆるオープニングと別に、序盤でタイトル「怪物」が差し込まれるシーンがあり、これがお洒落。だいたい誰かの顔のアップに「怪物」がかぶさってくるのですが、これがまた不安をそそる。この話では誰が怪物なのかい?と刺激される。
・音楽。重いテーマや事件を扱う割に、流れるBGMが軽快でポップ。この違和感なのか絶妙なバランスなのか、がただ重苦しいだけでなく、作品や各人物に愛着を持ってしまうポイントなのかも。
・考えさせられるタイトル。結局、みんな怪物だったし私たちも怪物になりえる。そして怪物か善人か、という簡単な話ではなくてみんな誰かにとっては怪物だったりするんだろうなと。

結論、殺人事件を扱いながら人間ドラマをとっても繊細にいろんな角度から描いた作品なのかなと感じました。メインの事件の犯人捜しという点では、(もちろん超面白いけれど)意外と単純な着地にも感じます。それを描きながら、各キャラクターが今何かの目的のために何かを考えて生きる様を切り取ることで、人間がなりうる「怪物」を描く人間ドラマだったのかなと思います。

すっごく面白かったし、記憶を消してもう一度このドラマを観たい。消せなくてもまたいつか観ようと思います。演技力と脚本で人の心を動かす、ドラマという芸術の本質を見せて頂いたように感じました。とても良い作品でした。

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