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おばあちゃんに会いたい

おばあちゃんに会いたい。夜眠っているときにおばあちゃんの気配を感じることがある。おばあちゃんだ、と感じながら、頭のどこかでもう居ないことも分かっているそんな感じである。

おばあちゃんは、その都市ではよく知られている川の河口付近に住んでいた。2階建ての古いアパートだった。川から車1台通れるくらいの道路を挟んですぐ向かいだった。

まず大家さんの一軒家があって、その敷地内にアパートがあった。たんたんたんと音がする階段を登って、二階の一番入り口がおばあちゃんの家だった。

当時はよくあったのか、お風呂が別にあるタイプの部屋だった。アパートの廊下を挟んで、部屋(トイレ含む)とそれぞれの風呂場が分かれてある。そんな感じだったから、お風呂場は狭かった。川に近いからか、浴槽の排水栓からたまにサワガニが登場したりした。

少し大変なのは、お風呂を上がってホカホカの状態で、ある程度の服を着なくちゃならなかったこと。真っ裸で、一瞬ではあれ、公共の廊下を行き来するわけにもいかないから。

冬が近づくと、川にはユリカモメが飛来した。おばあちゃんはよく、川の堤防のコンクリートの囲いから、パンの耳を投げた。コンクリートの囲いはちょうどおばあちゃんの胸下くらいまでの高さだった。ユリカモメは首を傾げてこちらを見ては、ひらりと口でキャッチしたりした。ひらりひらり。

キャッチできずに、水面にパンが落ちたら、ユリカモメも水面に足から降りて、まるで翼が水に濡れたくない見たいに翼を上に広げて、嘴でパンを掴む。うまく空中でキャッチできたら、おばあちゃんは、ほら、とわたしを見た。

おばあちゃんはあまり表情を大きくは変えない。感情も出さない。でも嬉しそうだった。


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