「スペースコレクターみゅう」第一話(全十二話)
※「note創作大賞2022応募作品」
【第一話】「趣味」
都会のとあるマンションの一室に、セーラー服を着た一人の少女がいた。
少女の名前は、川崎みゅう。14才。中学二年生。
肩より少し長い明るいベージュ色の髪を、二つに分け、ゆるくゴムで結んだ、どこにでもいそうな、薄紫色の瞳をした女の子だった。
みゅうには、誰にも言えない秘密があった。
それは、空間をコピーして、縦横高さ10㎝の直方体の箱に、スノードームのように、コピーした空間を閉じ込める事。
収集した空間は、すでに百を超えていて、秘密の小部屋に、その箱を集め、並べていた。
箱は、大、中、小、百万分の一サイズ。
いつも、つけている縦横高さ1㎝のペンダントには、特別に、十億分の一のサイズの空間を1つ、閉じ込めていた。
「今日は、どんな空間を取り込んでやろうかな…?!」
みゅうは、人知れず、その趣味に没頭していた。
◆
みゅうが、いつも通りに学校へ行くと、その日は、休み時間に、クラスメイトの女子生徒たちが、昔の建造物の写真集を眺めていた。
それは、平成に撮られた写真が集められた本で、令和の今、それを見たそこにいた女子たちは、懐かしい気持ちになった。
「懐かしい…」
「平成の写真ね」
みゅうは、その本を両手で見開きにさせてもらって、その写真を眺める。
「私、写真を撮るなら、過去に行ってみたいわ」
そう、みゅうが言うと、友達の女子たちも、こう、続けた。
「わかる!ノスタルジックな気分になるよね」
「タイムマシンみたいなものが、あれば良いのにね(笑)」
「確かに」
と、みゅうが友達と話していると、2-Bの教室に、みゅうを呼ぶ、女子の声が。
「川崎さん!」
呼ばれた方を見てみると、そこには、他のクラスの同級生、小野ひかりがいた。
「ちょっと、いいかな?」
「?」
みゅうは、何故呼び出されたのかわからなかったが、とりあえず、ひかりに促(うなが)されるまま、学校の校舎の屋上へとやって来ていた。
「これ、何かわかる?」
ひかりが右手に出してきたのは、なんと、みゅうが普段使っている、縦横高さ10㎝の、空間をコピーして閉じ込めるための未使用の空(から)の箱だった。
「なななな、何の事かな?!」
みゅうは、思いっきり動揺(どうよう)する。
「誤魔化(ごまか)さなくても、良いのに…。これ、能力堂の亜空間特別許可未使用占有スペースだよね?川崎さんがいつもつけてるペンダントの…」
そう、図星を突かれて、みゅうは必死にそれを隠そうとする。
「ち、違うよ。これは、ただの…」
すると、その言葉をひかりに遮(さえぎ)られる。
「隠さなくてもいいわ!私、未来から来たの!」
「え?」
みゅうは、思ってもいなかった独白に、一瞬、我を忘れてしまう。
「これで、小野ひかりとしての人生は、六回目なの。私、タイムスリップが出来るのよ…」
ひかりの衝撃の告白に、みゅうは当然の疑問を抱(いだ)く。
「どうして、そんな話を私に…?」
すると、ひかりは、神妙な面持ちで、みゅうに答えた。
「これを使うって言う事は、川崎さんは、つまり、この時代には少ない、空間コピー能力がある能力者って事になるわ」
隠しようのない事実の突き付けに、みゅうは言葉が出ない。
「…………」
みゅうは、思わず、沈黙で肯定してしまった。
しかし、ひかりが次に発した言葉は、みゅうの予想外の展開になった。
「あなたに、頼みたい事があるの……」
◆
バラバラバラバラ。
けたたましいヘリコプターのプロベラが回る音に、大声を出さない訳にはいかない、みゅうとひかりは、それから、なんと、上空1万メートルの空の上に、パラシュートを装備した形で、そのヘリコプターに乗り込んでいた。
「交換条件の割りには、荷が重過ぎるんでなないの?!」
ひかりが提案した、謎の条件を飲んだみゅうは、ひかりに誘(さそ)われるがまま、何故か、まだ中学二年生なのに、スカイダイビングをする羽目(はめ)になっていた。
何がどうなって、こうなったのか、甚(はなは)だ、見当もつかない。
しかし、それを考える暇を与えないように、ひかりは、次の言葉で畳み掛けて来る。
「大丈夫!あなたの空間コピーしたキューブを見せてもらったけど、能力に問題は無かったわ!」
そういう問題じゃないと、みゅうは思ったが、もう、後に引ける状態じゃない。
覚悟を決めて、ひかりの出してきた条件にトライしようとするみゅうだったが、よく考えると、こんな上空で、しかも、飛んでいる飛行機をコピーするのは、初めてだった。
「私だって、飛んでる飛行機を生でコピーするの、初めてなんですけど……!!」
よく考えてみると、よく、こんな条件、飲んだものだ。
一体、どんな交換条件だったのか。
こんな話を受け入れてしまうみゅうが、なんとなく心配になる。
「しかも、スカイダイビングしながらって!!」
みゅうは、ヘリコプターから下を覗(のぞ)き、顔面蒼白である。
だから、言わんこっちゃない。お人好しか!!
「堪忍(かんにん)して。これがないと、帰れないの」
どうやら、ひかりが未来に帰るためには、今、目の前にある、飛んでる飛行機を、生で、スカイダイビングしながら、空間コピーしないといけないらしい。
しかも、到底、何度もチャンスがあるとは思えないシチュエーションだ。
チャンスは、一回。
の、行き当たりばったりなのかもしれない。
「空間コピーは、最低百メートルは近づかないと、コピーが取れないわ!!」
そんな話、聞いた事も無いみゅうは、更にパニックになる。
「ええええええ、マジで?!(汗)」
とにかく、何でも話をはしょるひかりと、詳しい話を聞いておかないみゅうは、ある意味、息のピッタリな凸凹コンビと言えるのかも知れない。
とにかく、飛ぶ瞬間がついにやって来た。
「つべこべ言ってないで、せーのでいきましょう!!(笑)」
ひかりが、みゅうの背中を一気に押す。
すると、みゅうとひかりは、お互い背中にインストラクターを抱えたまま、地上へと飛び降りた!
「せーの!!⭐️」
「ぎゃあああああああ」
みゅうの悲鳴が、青空の空中に響き渡る。
落ちている瞬間、みゅうはふと、走馬灯のように、過去の出来事を思い出していた。
それは、みゅうが交通事故で、両親を失った時の記憶だった。
「交通事故?」
必死に、落ちていく中、歯を食い縛る、スカイダイビング初体験のみゅう。
しかし、そんな中、みゅうの脳裏には、暗い過去が思い浮かんでいた。
時は、みゅうが小学校六年生にまで、遡(さかのぼ)る。
「はい。ご両親が、お亡くなりになられました……」
初めて会った医者に、突然、両親の死亡宣告を受けるみゅう。
みゅうは、なんと言っても、当時まだ12才。
受け入れられない。
「うそ…」
みゅうは、病院の待合室で硬直したまま、動けない。
しかし、両親のいない家に帰って、初めて、両親が死んだ事を実感する、幼い頃のみゅうだった。
みゅうは、もう、両親と暮らしていたその家に、今はいない。
一人で、マンションを借りて、そこに住んでいた。
懐かしい家の香り…。二度と、帰れない場所。
(あぁ、私はここのキューブが欲しかったんだ……)
みゅうは、高速で落下する上空数千メートルのスカイダイビングの最中、なんと、そんな流暢(りゅうちょう)な事を考えていた。
「あの頃のキューブが手に入れば、パパとママがいた頃の、あの家に、いつでも帰れるかもしれない……」
みゅうの中で、確固たる信念が、みゅうを覚醒させた!
カッ!
と、両目を何かをとらえたように、見開くみゅう。
すると、そこで、パラシュートが絡(から)むアクシデントが発生。
二人のインストラクターが、パニックに陥(おちい)る。
「パラシュートが、絡んだ!!」
大声で、インストラクターが怒鳴る。
それぞれのパラシュートが、突風で絡み、萎んで、物凄い勢いで2組とも、落ちて行ったのだ。
「川崎さん!」
近くを落ちていく、ひかりとひかりのインストラクター。
みゅうの身とキューブ作成の失敗を案じたひかりは、心配して、そう、みゅうの名を叫んだ。
しかし、スイッチの入ったみゅうは、そんな話、耳にも入らない。
みゅうは、両手の親指と人差し指を突き立て、それを交互に四角い枠を作るように、囲み、その枠の中に、ゴーッとすごいエンジン音を立てながら、目の前で飛んでいくジェット飛行機を入れた。
ターゲット、ロックオン。
段々、小さくなっていくその飛行機の腹の部分を中心に狙い、飛行機の全体像をとらえたみゅうは、逆さまに落ちながら、心の中で、必ず成功させる事を誓う。
(必ず、手に入れてやる!!)
「空間転写!!!」
そう、みゅうが大声で叫ぶと、タイミングよく、目の前に現れた未使用のキューブが、ギュイイーンと、光を放ちながら、その瞬間の空間を中にコピーして、取り込む。
しかし、パラシュートが絡んだ事実は、どうしようもない。(みゅうが、そうこうしている間に、予備のパラシュートまで絡む大事件。絶体絶命の大ピンチ。)
どうする、みゅう、ひかり、インストラクターの二人の男たち!!
ボフッ。
すると、四人は、気がつくと、厚い雪原の中に、上から落ちてきて、埋まり込んでいた。
人の形に、空いた深い穴。
その四つの穴から、それぞれが顔を出す。
「ここは、一体、どこなんだ?」
どうやら、四人は無事のようである。
「ふぅ。」
一人ホッと肩を撫で下ろすみゅうの右手からは、キューブが1つ、落ちてこぼれた。
それは、日本の昔話に出てくるような、古い木と藁(わら)で出来た、民家のある、深い雪の町のキューブだった。
そのキューブの縁(フチ)には、注意書きの書かれたシールが貼られており、そこには、「空間入場は、底のボタンを三秒長押し」と、書かれていた。
そのキューブの隣には、さっき作成したばかりの、飛行機が中に入ったキューブが落ちていた。
◆
それから、ひかりは無事に、未来に帰れる事になった。
学校の屋上で、授業の合間、会うひかりとみゅう。
二人には、短い間だったが、お互いを信頼出来るような空気が流れていた。
「おかげで助かったわ、川崎さん。一時は、どうなる事かと思ったけど(笑)」
今だから、漏(も)らせる、ひかりの本音だった。
それに、笑顔で答える、余裕の川崎みゅう。
「まぁ、結果オーライって事で(笑)」
しかし、そんな感想を言い合ってる間もなく、二人は足早にどこかへ出掛けようとする。
それは、みゅうが行きたがっていた、過去の世界だった。
「約束の時間は、30分しかないから、気をつけて!」
ひかりが、謎の忠告をする。
「30分もあれば、十分⭐️」
みゅうが、そう、ウインクをして見せる。
すると、ひかりは笑いながら、みゅうを引率(いんそつ)して、どこかへ出掛けて行った。
「じゃあ、行きましょう」
◆
それから。
川崎みゅうの秘密のコレクションの中には、みゅうが昔住んでいた家のキューブがあった。
その、過去に行かなければ、もう、手に入らなかったキューブは、みゅうにとって、一番大切なキューブになった事は、言うまでもない……。
【第一話】おしまい。
第二話につづく。
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