ＩＴ🎈 Chapter1、Chapter2考察メモ～リッチー・トージア編

この記事では、ITの登場人物のうちリッチー・トージアについての考察を執筆します。最初の記事、および分岐はこちらのページをご参照ください。

🎈リッチー・トージアとは

リッチー・トージアは、分厚いレンズの黒縁メガネが特徴的な、お喋りの少年です。下ネタや汚い言葉を絶妙な間で言うことから、印象に残りやすいキャラクターだと思います。Chapter2では、そのままトークショーのコメディアンとして活躍していました。

🎈恐怖の対象

リッチーの場合は、恐怖の対象から説明していきます。

リッチーはなぜルーザーズにいるのか、一見わかりにくいですよね。まぁもうさんざん言われていることではありますが、リッチーはクローゼットの（＝カミングアウトしていない）同性愛者、ゲイです。
その根拠は大きく、Chapter2終盤のR+Eと、Chapter2冒頭のエイドリアン・メロンというキャラクターに込められていると思います。

まずR+Eですが、これはChapter２のスタンのバルミツバの回想中に、リッチーがキスの橋になにかを掘っている姿が映ります。

キスの橋というのは、Chapter1にてベンがヘンリーにお腹を切られる場面で、ヘンリーから説明があるのですが、いわゆる恋愛スポットです。そこにリッチーがR+E（Chapter2の終盤、大人のリッチーが見に行くことで判明します）と書いていた、つまり、エディに好意を抱いていたのです。

好意の対象がエディであることは、映画内の細かな行動からも読み取ることができます。彼はエディが怪我をするなど危ない目に合ったり、気の落ち込みに敏感に反応します。
Chapter2のではかなり露骨にエディを特別に心配する描写があります。中華料理屋でフォーチュンクッキーに襲われているときや、ネイボルトハウスで蟹みたいなスタンに襲われているとき、そしてその後、エディが落ち込んでいる場面などです。
Chapter1の時点では、意図的にあまり描かれていない（もしくは同性愛者設定と決まっていなかった？）ようなので、描写は無いですが、最もわかりやすいのは、血の誓いでリッチーとエディが手をつなぐとき、エディのLOVERギプス側のほうにリッチーがいることでしょうか。他には、リッチーがピエロ部屋に入る時などは、ペニーワイズはエディに化けてリッチーを誘っています。

またエディがChapter1での骨折、Chapter2での頬をナイフで刺されるといった怪我をするのは、リッチーがいないときです。

しかしそれだけでは根拠が薄いかもしれません。それよりも強い根拠となるのが、Chapter2の冒頭、遊園地で遊んでいたゲイのカップルの、エイドリアン・メロンです。
エイドリアン・メロンはリッチーとエディを足したような存在になっています。たとえば、
●不良の髪の毛をイジる　（不良＝ヘンリーだとして、Chapter1ロックファイト時のリッチー、Chapter2頬にナイフを刺されたときのエディ）
●喘息（エディ）
●お喋り（リッチー）であることです。

エイドリアン・メロンこそが、R+Eの魔合体なのです。このシーンが冒頭にあるということは、Chapter2の主人公がリッチーであるということでもあるかもしれません。
また、大人リッチーが公園？でペニーワイズにお前の秘密知ってるぞの歌を聞かされるシーンの手前で、「追悼リッチー・トージア」の紙を渡すのがエイドリアン・メロンのゾンビになっています。
ついでですが、エイドリアン・メロンを演じているのはグザヴィエ・ドランで、自らもゲイを公言しながら、監督・主演する形でたくさんのLGBT映画を制作している方です。代表作は「私はロレンス」「トム・アット・ザ・ファーム」など。
何が言いたいかというと、メロンの出番はかなり少ないながらも、設定などかなり練られているのです。

以上のような根拠があって、リッチーはエディに好意を抱いていた同性愛者だということが考えられますが、それがリッチーの恐怖とどのように関係するのでしょう。

リッチーはChapter1で、恐怖の対象はピエロだと告白し、ネイボルトハウスにてピエロ部屋に入れられます（余談ですがピエロが怖いと告白するとき、うしろのステージ上にいるのはジョン・ゲイシーというピエロの衣装です。ピエロ姿で子どもを襲った実在の人物で、同性愛者でもあります）。

ピエロ部屋での怖がり方を見るにピエロ恐怖症でもあるのかもしれないですが、それ以上に、不安を隠し生意気に冗談を言う自分、大人の場合コメディアンである自分自身でしょう。つまり恐怖の対象は自分自身ということで、親友に好意を抱いてしまっている自分ともとれます。ピエロ部屋の棺桶で見つけるのも、自分の人形です。同性愛をカミングアウトして絆が壊れ、友達ですらいられなくなることが恐ろしいのだと思います。　

ピエロ部屋の他には、Chapter2の子ども時代にポール・バニヤン像に襲われます。ピエロ関係ないじゃないかとなるんですが、考えられるのは、最初にピエロが怖いと告白したのをペニーワイズがそのまま受け取り、ピエロ部屋を用意して脅かした。しかしその後ゲームセンターでヘンリーに怒鳴られたこともあり、ペニーワイズに同性愛ネタで脅かされたという時系列的な流れです。リッチーも、1989年の夏休みをの中でゆっくりと、自身のセクシュアリティに気づいていったのかもしれません。
ここでヘンリーに怒鳴られたことがその後ずっと引きずるトラウマになっているようですが、その前にロックファイトでリッチーはヘンリーに中指立てちゃってるので、まあそりゃ恨まれるよね、と思ってしまいます。

大人時代のリッチーを苦しめるのは「真実か、挑戦か」ゲームです。アメリカ映画によく出てくるポピュラーなゲームなんですが、リッチーにとっては恐怖です。なぜなら、真実も挑戦も「カミングアウト」という行為だからです。それは愛する人たちの信頼を損なう危険性があり、自分が傷つく可能性も十分にあります。大人の場合、地位や名声すら危うくなってしまう行為です。

クローゼットである点は、怖い？怖くない？ドアに表れていると思います。開く者の意思を試すドアで、意思を隠すリッチーへの挑戦状かなと考察できます。リッチーは子ども時代、大人時代の2度、このドアに試されることになります。Chapter2ではドアの中が洋服クローゼットっぽくなっていたのも、気になる点です。

以上がリッチーの恐怖であり、マイノリティに関する考察です。。
そしてリッチーのマイノリティが明確に語られず、こうした鑑賞者の考察に任されるのは、リッチー自身がカミングアウトに踏み切れなかったためです。同性愛者がマイノリティを公にすることはカミングアウトという儀式なのであり、本人が言い出さないとわからない問題でもあるので、自分から言わないと察しにくい、公言することで他者との関係が変わる可能性があるという点で、他のルーザーズが抱える悩みとは違った性質があるということだと思います。

ついでに、アメリカの防疫センターが初めて男性同性愛者のエイズ症例を報告したのが1981年で、それ以降の10年がエイズ、そしてゲイへの無知と偏見による差別がひどかった時代です。エディもベンを薬局まで運ぶシーンで、エイズについての間違った知識を喋っていました。ルーザーズの子ども時代が1989年ですから、今では考えられないほどの差別と偏見が横行していたんだと思います。そのような環境もあって、リッチーはカミングアウトできなかったんだと思います。

🎈リッチー：子ども時代

子ども時代のリッチーはお喋りで、エディをはじめ他のメンバーをからかう、生意気な子供です。下ネタも多く、思春期の男の子という感じがします。
しかし恐怖していることを知ると、やはりお喋りはピエロ（＝みんなを笑わす役）を演じているのであり、本当の自分を隠しているのかな、と思われます。女性に関する下ネタが多いことも、自らのセクシュアリティの裏返しともとれるでしょう。

一見してわかりにくいですが、リッチーは誰よりも繊細で、不安を隠すことで自己防衛する傾向にあると思うのです。不安を口にして周りと危機を共有するエディとは対照的になっています。行方不明のチラシ（大人時代には追悼リッチー・トージアのチラシ）も、自分が傷ついたり、具体的に被害者となるのを恐れているからかもしれません。

エディとの関係ですが、2人がお喋りであるという性質もあり、いつも言い合いをしているような印象を受けます。その言い合いの中で、Chapter2になって口癖のように頻出するのが、「お前のママとヤった」です。その真意についても様々な考察があったと思いますが、エディの愛を独占するママへのやきもちみたいな気持ちがあったのでしょうか。
それ以上に、エディがママ（そして大人時代のママに似た奥さん）を大事にしていることを理解しているので、それをいじればエディが真面目に取り合ってくれるとわかっていたのではないかと思います。本心を隠した精一杯の愛情表現なのです。

リッチーは親との関係があまり描かれないルーザーズの一人です。Chapter2では、回想シーンのバルミツバのとき隣にいた金髪の女性が親ということになっていて、スタンにスタンディングオベーションをしたリッチーをたしなめますが、あの女性はChapter1ではスタンの母親というクレジットになっています。髪の色からも、どっちかっていうとスタンな気がしますね。

🎈リッチー：大人時代

大人時代のリッチーは、コメディアンです。
トークショーに出ていますが、トークの内容は自分で書いていないことを吐露しています。本心ではないことで笑いをとって取り繕い、自らの言いたいことを言えていない。まさに、子ども時代の彼と同じ状況なわけです。
そういったこともあってか、大人になったルーザーズの中では珍しく、自分の力で成功できていないのです（ベヴもそうかもしれません）。

大人時代のリッチーはデリーに戻っても本当の自分が暴かれる恐怖に怯え、そういう意味ではエディよりも臆病です。そのため、エディに守られ、最終的には彼を犠牲にしてしまいます。

大人リッチーは、自己防衛が働いてかデリーから逃げようとします。ヘンリーに怒鳴られた痛み、そしてカミングアウトという恐怖を思い出したことで、ルーザーズの絆を自ら壊すことを恐れたのかもしれません。
その時思い出すのは、「自分を変えるくらいなら敗者（ルーザーズ）のままでいい」という旨のスタンのスピーチです。クローゼットで、本心ではないコメディを演じる生活に甘んじるくらいだったら、と腹を決めたのかもしれません。そして、自身のホモフォビアを決定的にしたヘンリーにとどめをさします。その後ヘンリーの死体どうするんだろうと思いますが、細かいことはいいのです。

Chapter2で大人になってから、リッチーは頻繁にゲロを吐きます。プレッシャーなのか、言えない本心がゲロになって出ちゃうのか、単に監督がゲロ好きだからなのかわかりませんが、リッチーはゲロを吐く、エディは吐かれるという役割分担（？）が好きです。

🎈思いでの品

リッチーの思い出の品はゲームセンターのコインです。
リッチーは1人でいるとき、映画館内のゲーム機・ストリートファイターで遊んでいます。考察としては、ゲームセンター＝１人になれる場所で、自分自身と唯一向き合った場所なのではないかと考えられます。

また、ヘンリーのいとこ・コナーと対戦して遊んでいたということもあり、ゲームセンターが一時的に精神的な重荷となっているルーザーズ、そしてエディと離れられる息抜きの場だったのかなと思います。

そして、ゲームセンターではヘンリーに性的指向の差別用語で怒鳴られた思い出もあります。このことが彼のホモフォビアへの決定打であり、青春時代の嫌な思い出であり、長く引きずるトラウマとなったと考えられます。

以上が、リッチーに関する考察です。