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08|マクドナルドを嫌いになれない理由[絵日記]

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子どもの頃、僕は荻窪と言うところに住んでいた。
環八という、大きな道路が走っていて、南下すると、高井戸っていう街があった。
そこにはそびえ立つ白い灯台みたいな煙突があって、結構遠くからでも、その煙突がよく見えてた。吐き出される白い煙とたもに街のランドマークになってた。
当時のぼくは、自転車に乗って、友達と走り回ってた。
その高井戸にも、よく自転車で行った。
ある日、その煙突の下にある温水プールに行ったの。
事件は帰り際に起こった。

夕方、その高井戸から、荻窪まで帰ろうとした時、ちょうど夕立ちにあったんだよね。
少しくらいの雨なら、子どもには、へっちゃらなんだけど、どう言うわけか、自転車の鍵が見当たらない。
ポケットをひっくり返したりして、さがしてみたんたけど、やっぱり見つからなくて。気づくとひとりになっていた。
それで、途方にくれて、そのプールの近くにあったマクドナルドに入ったんだよね。
それで、何していいかわからなかったんだけど、雨宿りしてたら、クルー*のお姉さんが、どうしたの?と話しかけてきてくれて。
(マクドナルドでは働くスタッフの事をクルーと呼ぶ。船に例えて)
それで、ぼくの手荷物から、きっと電話番号をみつけて、家に電話してくれた。当然、この時代はスマホなんて存在しない。
その間、僕はずっと下を向いてて。
そしたら、ここに座ってな、とか
コーラ飲める?とか、
色々面倒を見てくれて。
外の雨を見ながら、しばらく、そこにずっと座ってた。
しばらくして、母が現れて、お礼をしてる後ろで、まねして頭を下げて。
何十年経っても、あの時のことは忘れられなくて。
お姉さんの声とか、黄色と赤のストローとか、茶色のレンガみたいなタイルの床とか、傘に弾ける水滴とか、グレーな景色とか。
あのお姉さんは、今ごろ、どこで何をしてるんだろう。
だからぼくはマクドナルドが嫌いになれない。

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