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【短歌】文語の定型短歌を詠む

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自作の文語定型短歌をまとめるためにマガジンを作りました。今までに創作したものから定期的に note に横書きしてマガジンに追加します。初出は『橄欖《かんらん》』誌ですが、一部を修…
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#短歌を詠む

【短歌】光前寺の夜桜|文語の定型短歌を詠む 25

光前寺の夜桜を見に駒ヶ根へ 金曜日の夫の講義後に発つ 週末の食材と本を積み込みて大学門前に駐車して待つ 上弦の月が雲間に見え隠れ中央道の県境を越ゆ 参道の杉大木の黒ぐろと立ち居並びて守護神の如 駒ヶ根の冷たき風に揺られても枝垂れ桜は堪へて散らず 2013年4月詠 『橄欖』2013年7月号初出

【短歌】巡礼|文語の定型短歌を詠む 24

伊那谷の小さき二つの聖堂を十人で訪ふ巡礼の旅 松川のルルドの聖母の洞穴は仏寺の墓地を肩越しに見す 聖壇に供へられたる臘梅を活けし信徒は華道の師とふ 右にマリア左にヨゼフの聖像と供花の外は一切置かず 飴色の木彫りの聖母は磨かれて頬の艶良く笑みて居ませり 左肩に幼子乗せる聖ヨゼフ 右の手に鋸 大工の証 2013年2月詠 『橄欖』2013年5月号初出

【短歌】留学生|文語の定型短歌を詠む 23

初めての雪に喜び駆け回るメキシコ人留学生二人 「ユキ、ユキ、ユッキー!」と叫び合ひ雪玉投げ合ふメキシコ男子ら ウリセスとエマヌエル連れて国宝の城に赴く氷点下の日 大学の講師となりて早十年 並木の楠の冬陽に光る 構内のスタバ 隣のテーブルの就活女子らは溜息もらす 大学の付属図書館入り口にあるスタバ

【短歌】ワルツ|文語の定型短歌を詠む 22

山間の小さき宿の大晦日村びとら弾くヨハン・シュトラウス 碧き眼の青年古風に一礼しワルツに誘ふ かの日の母を 延べらるる若人の手に手を重ね舞の輪に入る三十路の母は 東洋の女性と踊るは初めてとその眼で語る碧き眼の男性 黒髪の艶を奢りし母なりき紅毛人らに混じりて独り ************** 私は12歳だった。 家族でクリスマス休暇を過ごしたオーストリアの山の村の大晦日の晩。 特別に「大人の時間」までテーブルに座ることを許してもらった。 次々にヨハン・シュトラウス

【短歌】秋の光に|文語の定型短歌を詠む 19

夏過ぎて都会の人々帰る頃 雲の御簾上げ富士は現はる 澄み渡る東の空に富士見えて 秋の光に里は息衝く 八月の喧噪消えし山の上に広がる空の清かなる青 八ヶ岳 九月の空に伸びをする 夏の疲れに苦笑ひして 子ども等の歓声響きしこの道も 初秋の風に葉擦れ聞くのみ 山荘の窓辺に唐松の葉降りて 優しき声の亡き人を思ふ 2012年11月詠 初出 『橄欖』2013年1月号

【短歌】君の手を|文語の定型短歌を詠む 18

2021年11月詠 手袋を外し看取らむ 君の手を素手で握らむ 違反なれども 2022年5月号に発表された『橄欖』誌上歌会で十位に入賞しました。 私が歌会に出すうたは、今の時代、今の時世を意識するうたが結果的に多いように感じています。 菅原義哉氏に講評をいただきました。 「普通のことながら新型コロナゆえに、素手では施設のルール違反という何とも切ない事情。とても辛いことであろう。」 ありがとうございました。

【短歌】亡き人を|文語の定型短歌を詠む 17

2013年3月詠 亡き人を恋ふ人の歌 わが魂の傷の瘡蓋なぞりて届く 絶望の日へと瞬時に引き戻り闇に覆はるわが意のままに 忘れじと誓ひし我に降り積もる時を恨めど天の慈悲なり 死を思ひ死を語る日が増えて行く子無き我らの常の暮らしに ウツクシイニホンゴデスネと頷きぬ「彼岸」の字義を説かれし人は 初出 『橄欖』2013年6月号 見出し画像 東山魁夷 唐招提寺御影堂壁画「桂林月宵」(1980)

【短歌】羊三匹|文語の定型短歌を詠む 16

2012年8月詠 八ヶ岳を仰ぐ畑に夏野菜あまた育てる友に招かる 黒面の羊三匹庭に飼ふ友の面も陽焼けして黒 三匹の羊 ミツバチひと巣箱 庭いっぱいの野菜とハーブ 唐黍を三期に分けて植ゑしとふ 年長 年中 年少の列 ジャガイモの花を知らざる吾に友は啄木の歌を引きて教へり 摘みたてのラベンダーの香わが部屋に満ちて安らぐ山荘の夕 初出:『橄欖』2012年11月号 一部修正しています。 note にはスペースを挿入したりルビを多めにふったりしています。

【短歌】異変|文語の定型短歌を詠む 15

2012年6月 詠 フクシマから二百キロある東京の人等つぶやく今春の異変 「鳥が来ない」「虫がいない」と何件も Twitter 画面に流れる報せ 「二十三区内です。今年は蝶が来ません」とベランダ園芸家のツイート ベランダに育ちし大葉巨大化し大人の手よりも大きく「食べず」と 山荘に到着せし日に驚愕すタンポポの花の首の長さに 囀りが聞こゆる度に安堵する二〇一二年の八ヶ岳麓 初出:『橄欖』2012年9月号

【短歌】石垣島|文語の定型短歌を詠む 14

2012年5月 詠 子を連れて西へと逃げし俵万智をNHKテレビ遂に取り上ぐ 避難せし母の決意を称賛しみなも逃げよと暗に伝へる 逃げられぬ母子への配慮を滲ませて放射能汚染に一切触れず 仙台を捨つる辛苦を語るにも綺麗な言葉を歌人は選ぶ 原発の放射能から逃げし事がスローライフの物語と化す 俵万智の石垣島の子育ての映像の影に拡がる闇よ 初出:『橄欖』2012年8月号 見出し画像の出典:https://www.excite.co.jp/news/article/Jpri

【短歌】寄り添ひて|文語の定型短歌を詠む 13

2012年4月 詠 門前に少年と少女佇みて飽かず語りぬ黄昏れる間も 新しき制服ならむ少年と少女は我に立礼をする やや離れ顔を見合はせ立つふたり教室の中で語らふごとく 暮るるほど寄り添ひてゐたきかの想ひ自らにさへ伏しし春の日 外灯に浮かぶ桜の薄紅を頬に映して語らふ二人 初出:『橄欖』2012年7月号

【短歌】鹿が来てるよ |文語の定型短歌を詠む 11

2012年2月 詠 先に起きし夫に呼ばれぬ低き声で「静かにおいで鹿が来てるよ」 五頭のうち二頭は子鹿山荘の向かうに遊ぶ雪の朝に 雪の下のやはらかきものを透視する能力を鹿は有すると聞く 美しきこの生き物も有害獣駆除の対象ニホンジカなり 降りしきる雪の森へと帰る鹿白き尾を立て軽やかに跳ね 雪原になりし田んぼを凝視する梟一羽森の端の木に 初出:『橄欖』2012年5月号 一部を加筆修正しています

【短歌】おおつもご |文語の定型短歌を詠む 10

学生時代に付き合い始めた人の妻になったが、結婚後も自分の仕事を続けた。 30代に入り、夫と私はそれぞれの道でプロフェッショナルになっていた。 二人とも多忙を極め、日付が変わる頃に帰宅、翌朝は出勤時間ぎりぎりまで寝る。朝食はとらなかった。 夫婦の会話の時間を作らなくては、という思いから、たまに渋谷で夕食デートをして、またそれぞれの職場に戻ることもした。 日本じゅうのビルで深夜まで残業の灯りが煌々としていた時代だった。 夫の出身地の愛知県にUターンすることを二人で話し合って

【短歌】ジャーナリスト|文語の定型短歌を詠む 9

難解なテキストを読む我が声は学生たちのララバイとなり 若かりし頃の仕事のミス談には熱心に耳を傾ける学生ら 原文の解説よりも訳文の日本語の解説長くなり ジャーナリスト志望を綴る英作文二十歳の女子の夢の溢れて 汚染進むこの国を発ち新しき生を拓けよ我が学生らよ 2011年12月 詠 初出:『橄欖』2012年3月号