近所のコンビニのギャル姉さん。
僕はコンビニなんて、何処に行ったって同じだと思ってる。
「◯◯のお弁当が美味しい!」とか「◯◯のパンが美味しい!」とか。
僕にはあんまりこだわりがないから。
田舎から引っ越して来て、一人暮らしを始めた頃。近所に有った、沢山のコンビニの中でココじゃなきゃダメ。なんて事は僕には特に無くて。
寄り道や帰り道に必要品だけ近くのコンビニで買い揃える。それだけの場所だと思ってた。
ただ、今僕は決まったコンビニに通っている。
引っ越しが終わり。しばらく経った頃に、近所のコンビニのギャルの姉さんに初めて会った。
喉が渇いていたから、近くのコンビニに入店して。ドリンク置き場に直ぐに向かう。あとは、次いでだからスナック菓子と明日の朝ごはんかな。
両手では持ちきれない商品を入れたカゴ。片手にカゴを持ってレジに向かおうとする。ふと、レジの方に目を向けたら。如何にもなギャルがレジ打ちをしていて。(あっ、ギャルだ)って僕は瞬時に認識した。
金髪で、肩くらいまで伸びた髪。そこまでは濃くないけど、何処かギャルしいような化粧。少し大人びていて、僕よりも4つくらい年上?26くらい?表情筋ちゃんとありますか?って感じの無表情を浮かべた人。
僕からすれば、正直ちゃんと接客してくれるなら大した問題ではない。見た目が少し派手なだけだと思っていた。
ただ、どうやら僕の前。レジでそのギャル姉が対応していた、中年の男性の会計が少し長引いてた。中年の男性は楽しそうにギャル姉と話していた。
ただギャル姉は別に大きなリアクションも取らずに「ホントですか〜」とか「へぇそーなんですね」とか。相槌をうっている。無愛想に感じるけど、何処か親切さがほんのり出てる。
僕はその姿を見てちょっと微笑ましかった。ギャルって、よくも悪くも目立つから、良い部分も悪い部分も映えて見えてしまう気がする。
中年の男性に対して。しっかり相槌をうっていた、このギャル姉は特段悪い人には見えなかったし。会計の合間だけのお客さん。他人を、必要以上に対応しているだけ「良い人」に見えてしまったから。
ちょっと雑な対応。いや雑なんだけど、どこか親切さが滲み出てる。慣れた会話している姿を見て。僕は少し面白かった。気がついたらちょっと表情が緩んでいたと思うから、戻した。
中年の男性の会計が終わった。本来かかる時間の、ほんの2.3分長引いただけで。特段怒りは湧いてこなかったし、別に急いで無かったから。そのままいつも通りに何事も無くレジの前に立った。
8点程度の商品のバーコードを、ギャル姉が機械で読み取る。「お会計975円ですね。あっ抽選のクジ引けますよ。」と告げられて、抽選クジ引けるんだと思った。
抽選クジっていつのまにか始まって、いつのまにか終わってるよね。でも引くのは楽しみだ。運試しの気分でちょっと面白いし。
ギャル姉は僕の目の前に、抽選クジのボックスを置いた。置かれた抽選クジのボックスに、僕の右手を突っ込み中にあるクジを引いて見たら。右手には商品引換券と書かれたクジを持って帰って来ていた。当たりが出るとは思ってなかったけど。
引かれたクジには『ブレスケア』って書かれていて。うわぁビミョ〜、それ意外の感想が出ない。
「当たりですね。ブレスケアとか使うんですか?」ギャル姉が僕の当たりクジを見て聞いて来たけど。なんでそんなこと聞く?「いいえ、全く使わないですね」
「そうですよね、残念です。商品取って来ますね」そう言われて、思わずちょっと吹き出してしまった。いや、だって普通「残念です」なんて言わないよ。当たってるのに、って思ったから。
でも悪意なんて全く感じなかったし、むしろ同情されてる気持ちが伝わって来て。ほんとノリで言ってんのか、天然が出たのか分からなかったから。
少し早歩きで帰って来たギャル姉は、何事も無かったかの様。会計の続きを終わらせた。
会計が終わったら当然に帰る。後ろから聞こえた、いつも通りの「ありがとうございました〜」だったけど。僕は何故か、まだ顔がちょっと笑ってたと思う。
「変なの」って思いながら。
「また来よう」って思ってた。
別にギャル姉の事が好きだからとかじゃ無くて。この感じは、学校でまぁ軽く、話すくらい。廊下ですれ違ったら会釈するくらい、気にはしてるような人。
僕はお客さんで、ギャル姉は店員さん。その線引きだから成立してるこの感じがちょうどいい。
コンビニに寄れば、高頻度でギャル姉は見かけたけど。会計の担当が別の人だったり、毎回会話するって感じでも無くて。
たまに話しかけられたら。僕がちょっとクスクス笑う、みたいな感じ。
一線は超えないし、超える気配も無かった。
ある日、僕が結構な高熱が出た。流石に仕事を休んだ時。
一人暮らしを始めてから。初めての風邪を引いた日。正直「こんなにも辛いのか」って、実家のありがたみを感じながら咳き込む。
作り置きなんて物は無いし。お粥だって自分で作らなければならず。飲料水もどんどん無くなって。結局何処かに買いに行かなくてはならなかったから。
近所のコンビニのギャル姉が居る場所に向かった。その日は、お粥とポカリスエット2本くらいを持ってレジに並ぶ。
レジには、たまたまギャル姉が担当してて。お会計を済ましてくれた。僕が購入する商品のバーコードを読み取った後、金額を告げて。
「風邪でも引いたんですか?」と聞かれた。なんか僕は当たり障りのない言葉を返してたけど。それでも相槌をうって「お大事に」なんて言われたから。
本当にこの人は、大胆な良心を持った人なんだと。感じさせられた。
普通、お客程度の他人に対して気遣いの言葉を投げ掛けようとしても。声に出そうとすれば、ちょっと詰まる。けどこの人は、詰まる事なく。他人がかけられたい言葉をスラスラと述べられる。
簡単に真似のできた事ではないかもしれない。
それから2、3年経った頃。ギャル姉がレジに立つ姿を見る事は今は無くなって。僕もコンビニはフラフラ変えてる。
世の中はロボットがどうのこうの。無人のコンビニがこれから復旧するんだ。人は労働しなくて良くなる、労働は機械に。なんて言われ初めて。
僕はますますコンビニなんて何処でもいいと思うようになった。
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