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建築家の京都案内 〜加茂川辺 散策〜

茂川 上賀茂神社 社家屋敷町

昨年より京都で設計していた、住居 兼 ギャラリー (画廊)が完成した。

オープニングパーティーが夕方催され、昼過ぎの新幹線に乗った。つい数日前まで、多くの職人さんが出入りし、雑然としていた現場も、今日はやわらかな間接照明につつまれ、絵や花が美しく浮かび上っていた。

 ギャラリーの設計は、展示される絵が主役であり、その空間は主張しすぎず、華美にならないことが、大切。  

 しかし、それでも建築家の個性が、色濃く出てしまうのが、設計の怖さであり、面白さでもある。

 設計で苦労したこと、悩んだことが思い出され、無事完成したうれしさと、明日から私の手から離れる切なさもチョピリ。 注がれるまま シャンパン、ワイン、日本酒と飲み、翌6日は二日酔い気味。

 連休中のことでもあり、仕事は午前中で切り上げ五月の空の下、どこか歩きたいと思った。 そして、京都新聞に若葉がことのほか美しいと、紹介されていた出町柳あたりから、加茂川沿いに上賀茂神社までと決めた。 

 京都に住む人を除くと、市街の東部を貫流する川は、「加茂川」 なのか 「鴨川」 か以外に知らない。

 いわれは様々だが、明治以降 出町柳にかかる葵橋から少し上の高野川との合流点より上流を 加茂川下流を 鴨川 と呼び分けるようになった。                          

加茂川は、葵橋を過ぎたあたりから水の色が澄み、緑の量がグンと多くなる。

それは、堤(土手)に沿って東側に 糺の森 という広葉樹が、ひときは多い自然公園や、下賀茂神社、そして京都植物園が続く。そのため特に西側の対岸から見ると、その緑の厚みというか、ボリュームがとても美しい。

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  つい2週間前まで、京都でも桜の名所のひとつでもあるこの堤沿いに、しだれ桜や八重桜が咲き乱れ、あふれるばかりの人で賑わっていたはずだ。

 新緑の今は、明るい外光を葉うらに透かして、五月の風に揺れ、蒸せ返るような若葉の匂いに充ちていた。 ゆっくり歩いて50分ほどで御園橋。
橋を渡ると上賀茂神社に着く。
上賀茂神社は、この付近一帯に繁栄した賀茂氏が創始した、京都最古の神社である。     
この地域は特別保存地区に指定され、建物ばかりでなく、塀や看板にいたるまで、現状変更行為を厳しく規制されている。

 神社に足を踏み入れると、したたるばかりの若葉と、青い杉木立、白砂利の参道の先に、丹塗りの鳥居と殿舎が点在している。目が洗われるような、その見事なコントラスト。
神社建築の丹塗りが、中国の神殿から影響を受けた、寺院建築の模倣であるとして、建築的な評価はあまり高くない。    
 しかし、上代日本人がこれを選び、今に残した色彩感覚は、ほんとうに素晴らしいと思う。
訪れる人が、そんな感覚にさせられるのは、法の規制ばかりでなく、よく見ると人為的な配慮がなされているのが分かる。

 いかに特別保存地区といえど、一般に公開している以上、公衆便所、ベンチ、駐車場、自動販売機など、全て排除するわけにはいかない。
しかし、他の都市から比べると、何倍かの経費と努力を払っているのが分かる。

 参道や境内から視野に入らないよう、樹木で隠したり、他の造営物と同じ造りにした公衆便所など、細かな部分まで工夫されているのである。

 従って、境内の中に入り四方を見ても、現代を思わせるものは視野に入ってこない。 
この日の上賀茂神社は、連休中でありながら北のはずれにあるせいか、人影もまばら。            
この神社が唯一賑わうのは、五月の 賀茂の競馬会と 十五日の葵祭りである。
五月の京都は 祭りの月 と言われるように五月一日から始まる上御霊神社の御霊祭りをかわきりに、 数えると36ほどの祭りが、社寺や神社で繰りひろげられる。
中でも 葵祭り は京都三大祭りと言われ、青葉若葉の最も美しい、この季節に行われる。

 花、紫、色とりどりの衣を身につけた大宮人達が、御所をスタートに 加茂の社 まで花帯のように繰り展べられる、生きた王朝絵巻物。   
祇園祭の前夜、七月十六日の 宵祭り(宵山)に次いで私の好きな祭りである。

上賀茂神社まで来たらぜひ足を延ばしたいのが、社家屋敷群。そこは今でも古い京都が生きている。

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 「 風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける 」 と歌われた楢の小川が上賀茂神社の境内を出て明神川となり社家の土塀の下を流れる。 

 このあたりは、室町時代から上賀茂神社に仕えた神職の住まい、すなわち社家の屋敷町として、町並みが形成された。
上賀茂伝統的建築群保存地区で、最も京都らしい風情を残している地域でもある。

 いにしえの社家特有の美しい土塀の家構え、独特の妻飾り、そして清流に映る若葉。
現代の住まいに較べて、なんと美しいのだろうとつくづく思う。
地球色と言われる色合いが、日本の風土にいかに合っているかを、教えてくれているようだ。

 陶芸家、画家、書道家、料理家としてあまりに有名な北大路魯山人。
私の好きな芸術家でもあるが、彼はこの上賀茂神社の社家で生まれ、幼年期を過ごしたという。 
彼の生み出す作品はどれも強烈な個性を放ち、見る人を圧倒させる。

  人生においてもそうであった魯山人が、この静かな社家の一角で生まれたことが、意外でかつ面白い。  
魯山人の人生の原風景や、この地がどんな精神風土を秘めているのか、静かに流れている川を見なら想いを巡らせた。
川沿いの道を、一筋か二筋横に入ると、現代から忘れ去られたような、昔のままのひっそりとした路地や、土塀に囲まれた小道に出会う。
角を曲がると、幼友達に出会うような、過ぎ去った遠いあの日を思い出させるような 『場』 が京都にはあるように思う。 
そんな 『場』 を発見するのも、京都歩きの楽しみでもある。

 再び社家屋敷に戻り、すでに西山に日が沈み、たそがれ迫るなか、土塀と川を急いでスケッチをし上賀茂をあとにした。



これまでに300以上の住宅を手掛け、富な実績を元に、本当に居心地のいい、家族が元気になる住まいをご提案します。noteでは住まいで役に立つトピックスを連載形式で公開します。