横山彰人

山形県生まれ。 建築家。 一級建築士事務所・株式会社 横山彰人建築設計事務所主宰。 『…

横山彰人

山形県生まれ。 建築家。 一級建築士事務所・株式会社 横山彰人建築設計事務所主宰。 『住まいに居場所がありますか?』、『夫婦をゆがめる「間取り」』『危ない間取り』、『子供をゆがませる「間取り」』等著書多数 https://www.akito-y.com

マガジン

  • 『建築をめぐる三人家族の物語』

    これまで、「家の構造」や「間取り」がいかに人間の精神や行動に、そして家族の暮らしに影響を与えるかを、著書をはじめ様々な機会を通してメッセージを送ってきました。  しかし、これから家を新築したり、購入、リフォームしようとしている家族にたいして、さらに分かりやすく理解していただけるには 「小説」という表現もあるのではないかと思ったのが、小説に挑戦する動機でした。  住まいに光や風が吹き抜け、家族コミニケーションが自然にとれ、家族の絆の強くなる豊かな空間は、だれもが望んでいますが、実現している人はごく少数です。  そんな家づくりのポイントを物語形式で掲載していきたいと思います。

  • 建築家のスケッチブック

    横山彰人の不定期日記Blogの掲載

  • 理想の住まいを叶える建築家コラム

    建築家が提案する新築、リフォームのポイント、現代の家族にふさわしい住まいづくり、間取りの知恵のを連載いたします。

  • エッセイ集

    建築家、横山彰人のエッセイ 『はじまりの記憶』、『祗園祭・宵山・京町屋』、『建築家の京都案内』の三本立てでお送りします。

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「理想の住まいを叶える建築家コラム」連載のお知らせ

建築家 横山彰人 30年間取り組んできたのは「家族の絆が強くなる家」の家づくりでした。 住宅の設計は、楽しい仕事だと思っております。今から15年前に、ある住宅の上棟式に、建主と幼稚園に通う娘さんが出席していました。それから15年経った今年、お父さんから娘さんが大学の建築科に入ったという知らせがあったのです。お父さんが、「どうして建築科へ行きたかったのか」と理由を尋ねたところ、「横山さんの設計した家がとても好きで楽しかったから、自分も建築家になりたかった」と答えてくれたそうで

    • 建築をめぐる三人家族の物語

      第24話(最終話) 再生  咲子がいつもの時間に起きた時は、武夫はすでに出勤した後だった。テーブルの上には、昨夜の小児科学会のコピーと、眠れないままワインを飲んだグラスが、朝の日差しの中で白いテーブルクロスの上に影を落していた。  そしてそのグラスの横に、武夫の字で書かれた一枚の白い便箋が置かれていた。そこには端正な字で、「夕焼けには間に合わないけれど、今日は七時までに帰って来ます」とだけ書かれていた。  咲子は、黒のサインペンでしたためられた字を、どのぐらいの間見ていた

      • 建築をめぐる三人家族の物語

        第23話 幻想 咲子は会話が途切れたまま、ぼんやり窓を見つめていた。雨はいつの間にか止んでいた。窓ガラスは雨で埃が流れ落ちたのか、遠く暗闇の中にいつもより多くの街の灯が見えた。遠く三浦半島の方に目を移すと、月が出ているのか、暗い海の中で波が光っていた。街の灯ひとつひとつには灯の数だけ家庭があって、その数の分だけ温かな幸せな家族があると思った。そんな事はあり得ない話だと思うが、今の咲子にはそう思えた。  和室で寝ている光は、先ほどまで壁側を向いていたが、いつの間にか寝返りをう

        • 建築をめぐる三人家族の物語

          第22話 原因長野の父親に、マンションを購入し引越しをしたと報告したら、京都の方からお金を出してもらったのかと露骨に言われ、しどろもどろの返事をしたら、父親は状況を察したらしく、 「武夫、長男であるお前が女房の実家に金出して貰って家を買ったなんて、田舎に来て親戚や周りの人に絶対に言うな」それだけ言って、電話を切ってしまった。 父親は長男である自分に何を言いたいか、よく分っていた。このショックは大きく父親の声がずっと耳に残って癒えなかった。 また、咲子の父親の電話に出るたび

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          建築をめぐる三人家族の物語

          第21話 他人の顔 光が自分のこぶしでドンドンと床や壁を激しく叩くようになったのは、いつからだろう。そればかりではなく、光、光と呼んでも振り向かなかったりあまり言葉も話さなくなった。また、以前のように目を輝かせて笑うこともなくなった。咲子は、そのうち治るだろうとあまり気にしていなかったが、床を叩く回数や叩く時間も長くなって、さすがに心配になった。一度医者に行こうと思ったのは、買ってきた育児書を読み、二歳を過ぎた光の成長の度合が気になったからだ。周りに同じ年齢の子供を持った友達

          建築をめぐる三人家族の物語

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          第20話 人工の街並 様々な思い違いや思惑違いによってストレスは蓄積された。 ストレスのはけ口は、まずテレビ。 朝起きてテレビのスイッチを入れて武夫を送り出した後は、光に教育用のビデオを見せる以外は、殆んど一日中つけっぱなしにしていた。先生の言う通りだった。そして、パソコンのネットオークションと携帯メール。これは光の衣類をオークションで買っているうちにはまってしまい、昼ごはんを与えるのも忘れるほど熱中する日も多かった。武夫の帰りが遅く疲れてもいるので、話したい事が沢山あるの

          建築をめぐる三人家族の物語

          建築をめぐる三人家族の物語

          第19話 マンションには子どもがいなかった また、ある家族にとって取るに足りないこと、全く気にしないことが、乳幼児をかかえこれから子育ての大事な時期を迎える家族にとって、大きなマイナス要因になってしまうこともある。次の問題においても咲子にとって不運だった。 このマンションは購入価格からして高級マンションに属しているので、入居者の多くは四十代後半から五十代だった。つまり住んでいる多くの世帯は、買い替えという二件目の物件でもあった。三十代で価格で言えば二千万~三千万の2LDKの

          建築をめぐる三人家族の物語

          世界でただひとつの我が家のつくり方 第三回

          世界でただひとつだけの我が家のつくり方家族で考えた、どんな暮らしをしたいのか、家族のこだわり、ライフスタイルといった様々な要望や暮らしのイメージを伝え、相談し、そして家という形にしていくのは、設計者です。 設計者は極めて大きな責任を持ち、お客様との最初の打ち合わせから、平面プラン (間取り) そして住まいの形にしていくまで、一般的には次のようなプロセスをたどることになります。 ① お客様から時間をかけて、暮らしのイメージを丹念に聞き取ります。 ② 打ち合わせから、設計者なり

          世界でただひとつの我が家のつくり方 第三回

          家づくりの参考に。

          家づくりのスタートでつまずかないための3つ方法誰もが一生一度の家づくりを、十分な準備時間と知識を蓄え、取り組みたいと思っているはずです。 しかし、現実はどんな住まいが自分の家族にとって望ましいか、という基本的なことを問いかけたり、相談する相手もないまま、ある日突然家づくりが始まり、あれよあれよ進行し、こんなはずではなかったと後悔や悔しい思いをする家族が多いのです。 この動画では、最初の一歩でつまづかない「家づくりの知恵」をお伝えしています。(動画の内容は中盤〜後半がオススメ

          家づくりの参考に。

          建築をめぐる三人家族の物語

          第18話 生活動線が遮られた家 振り返ると、異常は引越してから二ヶ月目頃から始まっていた。 最初の兆候は、社宅にいる時は日中殆んど泣かなかった光が、引越してからしばらくして盛んに泣くようになった。その泣き方も目が落ち着かなく、不安げでヒステリックだった。 原因の一つは先生が言われたように、急に環境が変わったことや、部屋の構造であり生活動線によるものであることは明らかだ。 それは、咲子が最初に心配していたことが的中したと言ってもいい。 このマンションは、リビングダイニング

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          第17話 何が間違いだったの? 咲子は、もうこれ以上耳をふさいで聞きたくなかった。「やめて下さい」と叫びたかったが、必死で我慢し三つ目の原因の話を待った。 「三つ目は、これが一番やっかいな問題でもあります。光君が名前を呼んでも反応が鈍かったり、話しかけても話さないというこの状態は、恐らく公園に連れて行っても、友達と一緒に遊ぶことすらできない状態ではないでしょうか」  確かに光は、友達と一緒に遊ばせようとするが、交わらずいつの間にか一人で遊んでいることが多い。そんなことが何

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          第16話 高層階の罠 小児科の先生の話は続いていた。病名を告げられ動揺を必死で抑えている母親が取り乱さないように配慮をしているのか、目に笑みを浮かべ光の病状、原因、今後の対策をゆっくりかみ砕くように説明してくれたが、咲子は半分も理解できないでいた。理解しようとする冷静さを失って、黙って聞いていた。 「まず無気力症候群といっても、表れてくる症状は人によって違います。光君に特に見られるのは、会話力が少ないこと、つまり言葉のボキャブラリーが正常に発育した子供と比べ三分の一ぐらいで

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          第15話 引越し 引越しの前の一ヶ月は、目の廻るような忙しさだった。リフォームの打合せ、引越しの準備や整理、引越しセンターの見積り、マンションの引渡しまでの事務手続き、そして近隣の挨拶まで、一切咲子一人で行わなければならなかった。  武夫は年度末という会社が忙しい時期にぶつかったせいもあるが、家のことはお前に任せてあると言わんばかりに、日曜日の休みの日ですら、引渡しの立会や工事中のマンションにも一度も顔を出さなかった。咲子はかなりストレスも感じ、武夫に対して内心腹も立った。

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          第14話 リフォーム ようやく契約をしたのは、初めてマンションを探し始めた日から一年と二ヶ月目の十二月上旬、街にジングルベルの音楽が流れている頃だった。渋谷の文化村界隈や道玄坂の街路樹には、ブルー、白、赤の様々なイルミネーションが輝き、東京で一番といわれるファッションの発信基地渋谷の街が、さらに一段と光輝く季節だった。 咲子は、ようやくマンションが決った安堵感と共に、二ヵ月後にはこの街から離れる寂しさと、幸せに過した日々を思った。  引越しまでの間、壁紙の貼り替えだけのリ

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          第13話 手付け  翌日、吉川と駅で四時に待ち合わせをし、マンションまで歩けば十五分程だというが、夕方なのでタクシーで向かった。ワンメーターで、車の窓から見る街並も新しく美しい。 目的のマンションに着き、カードを差し込むだけでドアが開き入って正面の中庭には、現代風の彫刻がありそばには噴水があった。間接照明が中庭全体を包むように浮かび上がらせていた。エントランスロビーの床と壁は、落着いた茶系の御影石が貼られ、中央にスウェードのゆったりとしたソファーが置かれていた。サイドテーブ

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          第12話 めったに出ない物件 武夫が帰って、今日の吉川との話をしたら、「いろんな要望の中で諦める項目があれば、その分だけ物件が見つけやすくなるということなんだろ。とすると、ドアツードアで会社まで一時間以内という条件をやめ、二時間以内にしようかな」と言い出した。 「だめよ、会社まで二時間なんて。ますます帰りが遅くなって、私や光との会話が少なくなるじゃない。光とのスキンシップもこれ以上少なくなったらかなわんわ」  結局結論は出なかったが、しかし管理体制がしっかりしていれば、築五年

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