見出し画像

東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと #10(最終回)

テキスト:石原夏実(すこやかクラブ)

このマガジンは、東京の小さな劇団「すこやかクラブ」が、2020年2月以降、刻々と変化する状況のなかで「あーだこーだ」と考え悩んで、結局やらないことにしたことたちと「あーだこーだ」の記録です。
(もしよかったら初めての方は初回記事をご参照ください)

すこやかクラブ 4月の活動

4月6日の緊急事態宣言を受け、稽古場やアトリエ、ワークショップ会場として利用していた施設が軒並み休館。
上演以外の形態で今年発表するものとして生き残っていた2つの企画、私のダンス動画作品「こうふく」(及び それに続くダンス動画作品)、そして、うえもとしほ による「青い鳥」をテーマにしたイラスト群の製作が、ストップしてしまいました。

すこやかクラブ 4月の活動
・オリジナルウェブラジオ番組「ゆっこのミッどナイトホッパー」配信
・親子向けワークショップ「ママ照らすテラス」オンライン開催
・NHK Eテレ「シャキーン!」にて「こんな民話があるんだよ」放映

「ママ照らすテラス」は、今年1月から月に1回ずつ、私が主導となって立川市で開催してきた親子向けワークショップです。4月は会場が利用出来なくなったことから、急遽オンラインで開催することに。
ゲスト講師で歌手の横手ありささんとともに、オンラインでのワークショップという初めての試みに向けて、オンラインでのリハーサルや打ち合わせを重ねました。子守唄をつくろう、という副題がついているこのワークショップ。オンラインでは避けられない”微妙な時差”のために、合唱は出来ません。この難題を回避するために、試行錯誤を繰り返し繰り返し… 結果、参加者の方々の笑顔とリラックスした佇まいが印象的で、素敵な時間の流れるワークショップにすることが出来ました。

第3回 青い鳥プロジェクト座談会

2020年5月6日。緊急事態宣言からちょうど1ヶ月。
ゴールデンウィークだったこともあり、いつもなら、娘の寝かしつけを終えたり、仕事先から戻ってくるメンバーを待ってからはじまる夜中のLINE通話ミーティングが、初めて、お昼の1時半からスタートしました。

結局、この「東京の小さな劇団が結局やらないことにしたことたち の こと」以外はすべて来年へ延期となった「すこやかクラブ 青い鳥 プロジェクト」に関する、最後の座談会。様々な活動が停止したひと月を経て、メンバーそれぞれの生活も、考えも、変化したり、クリアになったりしたことが感じられます。

戸惑ったり、悩んだり、「あーだこーだ」した果てに見えてきたのは、当初から一貫していた「やるなら舞台でやりたい」という、信念でした。

********

石原夏実(以下、な):…みんな最近何してるの?(笑)あれ?最後にミーティングしたのが4月の、あれだよね。
笛木加奈江(以下、ふ):2日だね。
:2日だよね。だからまだ緊急事態宣言前なんだよね。
:うん。
うえもとしほ (以下、う):うん。
:その後、うえちゃんは絵を描いてるんでしょ?ボールペンの。
:そうね、絵を描いてる。

画像1

画像2

画像3

画像4

(うえもとが4月初旬に突如SNSで発表しはじめた模写シリーズ。1ヶ月間、ほぼ毎日更新しつづけた。)
 https://www.instagram.com/shihouemoto/

:あと、スペイン語を勉強したりしてるけど。
:(笑)
:すばらしい。
:むっくんはテレワークしてるの?
向原徹(以下、む):うん、そう。ちゃんと自宅にいるよ。
:ああ、ステイホームしてるてこと?
:そうそう。
:うん、笛木は出勤してるの?
:うん。ゴールデンウィークはお休みだから、ステイホームしてるよね。
:うんうん。
:あしたから、通常営業。
:そうかそうか…。いやあ。なんか。私としては、ずっと「すこやか手帖」の製作を進めようと思いつつ、
:うんうん。
:状況がどんどん変わっていくなかで、発信する方向性が定まらなくて…手がつけられてないんだ。だからね、今日は、いま、どういう位置づけでどういう風に何をすこやかクラブとして発信するべきなのかということを話せるといいなと思って。
:うん。
:発信すべきこと…無いかもしれないし(苦笑)
:うん、なんかあれだよね…例えば、うちが何かを再開するんだったら、今だったら展示のための絵を描くってことだと思うんだけど。でもそれをウェブ上ではあんまり発信したくないなと思ってて。
:うん。
:単純に色鉛筆で描いたものってなんかやっぱウェブ上で見ると全然違う印象になるから、あまり良さが伝わらないなっていうのと。
:うん。
:今この状況でそれを発信する気はあんま起きないなっていうことなんだけど。

「すべきこと」は、無い。

:いまこの時に、すこやかクラブとして何かすることがあるかどうかっていうことに関しては皆どう思ってるかな。
:することというか、何かしたいことがあるかかなって思うけどね。
:ああ。
:べつに「すべきこと」は特には無いかなって。
向原徹(以下、む):うん。
:やらなければいけないっていうことは今はないと、うちは思ってて。べつに、したいことがあるんだったらそれをやればいいかなぐらいの感じかなって。やりたいことがあるかどうかかなって。
:うむ。
:だからなっちゃんが交換日記を始めたっていうのは(4月に開催を予定していたウェブ版「あおいとり展」に出品するはずだった石原夏実演出作品の出演ダンサーたちがnote上で交わす交換日記)やりたくて始めたんだろうし、いいねって思ってる、て感じかなあ。
:むっくんとかはどうですか?
:ん~…うえもとが、結構代弁してくれたなって。すべきことは特に何も感じなくて、むしろ今…何したら受け入れられるんだろうなあって気がして。
:受け入れられる?
:アート活動とか表現活動みたいので。
:うん。
:この何日間かずっと演劇とかアートがこのご時世でどういう風に解釈されてどういう風に受け入れられてるのかなあみたいのが気になって調べたりしてたのね。
:うん。
:やっぱり、3・11の時にも思ったけど…不要不急なんだっていうのがやっぱ結論としてあって。
:うんうん。
:生活の余裕があって初めて、舞台を観に行くなり、お金を落とすなりってことができる。絶対に必要なものではないんだろうなあというのが僕のなかで、腑に落ちて。

オンライン演劇とすこやかクラブ

:でー…、その上で、いま、ZOOM演劇とかオンライン演劇とか行われてるじゃないですか。
:うん。
:じゃあ、すこやかクラブで、オンラインで(※同空間に集まることなく徹頭徹尾オンライン上で作品製作をおこなう)表現活動でもする?っていう話になったとしても、それが総意としてやるって方向であればやるんだけど、やはり個人的には全く興味が持てず。
:うん。
:僕としては全くやりたいとは思えないっていうのがあるから。まあ結論としては、そうだねえ。すべきことも、今、このご時世で表現したいことも、特にないっていうのが…結論かなあ。
:うんうん。
:やるんだったら…前にうえもとさんが、やっぱり舞台上でやりたいなあって言ってたでしょ。なんか、そうね、方々に叩かれないように気にしてやるとかごめんだなっていう、べつにそんな伺いたててやりたくはない。
:ふんふん。
:オンライン演劇…興味持てないよねえ(苦笑)
(みんな笑う)
:わかんない、見てない。
:そうそう、私も見てなくてさ。見てなくて言えないなって思うんだけど。
:このご時世でリモートでのアートが伸びてる、評価されてる、新しいアートが生まれてるってことは、大いに結構なことではあるんだけど。
:うん。

:でも、私、いま、仕事でオンラインレッスン開催しててね。
:ああ、うんうん。素晴らしいよね。
:最初は、スタジオでいつもやってたことをオンラインでやれるわけないじゃんって思ってたの。オンラインで初めて来た人に「こういうものなのね」って思われるのも絶対いやだって思ってたんだけど。
:うんうん。
:やってみたら、同じ時を過ごすことはできるんだっていう発見があったの。オンラインでも”会える”っていう感覚ってとてもいいな、いま、必要だなって。そして、ただ顔を突き合わせるだけではなくて、そこで、同じ動きをするっていうことが大切でね。自分自身の身体を通して、共有したいものを積極的に受け取ってもらえる。そういう意味で、オンラインとレッスンは相性がよかった。
あと、「ママ照らすテラス」。これは、オンラインだと、時差がネックでね。あとは、雑談ができないから。親御さん同士、子ども同士の交流なんかもなくなっちゃう。そういう意味で、醍醐味がかなり削られちゃうんだけど、それでも、”会える”喜びっていうのは、提供できたと思う。
…でも、私たちが、すこやかクラブとしてオンラインで何か表現活動をするっていうのは、違うなって、私も思います。

必要なことなんかない

:結局…4月も話してたけど、私たちには、ゆっこ(「ゆっこのミッどナイトホッパー」)があるじゃないっていう(笑)
:そう(笑)うちはもう、ゆっこがあるからいいんじゃないかなあって。
:うん。そういう、全然この状況とかけ離れてるものをアップしていくっていうことでは、ゆっこがあるよね。
:うん。
:それと同時に、3月の座談会以降、やりたかったことを変更したり、諦めたりしてきたこの経緯を、フリーペーパー「すこやか手帖」として発表したいっていう企画がずっとあった。あったんだけど、長いし、読みづらいなって、誰が読んでくれるだろうって思って…着手できてなかった(苦笑)
:うんうん。
:でもね、もう、べつに全然有名でもなんでもないちっちゃい劇団でも、この状況でこういうことを話して、で、いろんな企画が立ち上がっては消えて右往左往しましたっていうことは、発信してもいいのかなっていう思いはあるんだ。
:うん。
:全然、どんな影響力もないと思うけど。でも、なんか、意義のあることかなと私は思ってて。
:うん。
:そういうことを発信するっていうことについては、いま、必要ないんじゃないかなって思う? やったらいいんじゃない、て思う?
:うん。それぐらいだったらやったらいいんじゃないかな、て思う。
:ああ。
:必要かどうかはわからんが、なにをもって必要というかはわからんが、それくらいだったらやってもいいかもなあって思う。
:必要なことなんかないよ。
:あはは(苦笑)
:それぐらいだったらちょっとやりたいかもぐらいの。
:んー、やってもいいかなって言うより、やりたいって思うんだったらいいなって思って。
:ああ。や、そうだね。どうなんだろう。なんか、すげえやりたいとは思わないけど。
:うん。
:ちょっとやりたいかなあって。
:あはは。
:ははは。いやあ、すごい、やあ、いいねえ。
:中間ぐらい。やってもいいかなとやりたいの、やってもいいかな寄りのやりたいみたいなかんじ(笑)
な・む:(笑)
:それってさどういう形態だったらもうちょっとワクワクするの?
:ワクワク?
:私がいま、想定してるのは、noteに記事にしたいなっていう。
:あー、noteいいじゃん。
:いい?
:うん、noteっていいなあって思った、うち。
:noteに、ゆっこをあげたらさ。
:うん。
:たまーに「スキ」がくるようになったね。
:メール来てるよね。
:ね!だからnoteいいじゃんて思ったけど。
:じゃあnoteで、bozzoさんに撮ってもらった写真とか、4月の分はLINEビデオ通話の画面を撮った写真があったりするんですけど。
:うん。
:ビジュアルもいろいろと入れながら。
:うん。
:うんうん。
:あったかもしれない、いろんなものたちの…墓場、墓場じゃないけど(笑)。
:墓場(笑)。
:ふふふ。
:安眠所(笑)?
:安眠所(笑)?コールドスリープみたいなやつ?
:なにそれ?
:コールドスリープ?
:え?コールドスリープ知らないの?
:コールドスリープってなに?
:宇宙とかでさ、めっちゃ遠くに行くときに飛行船に、なんか10光年とかさ、まともにの乗ってたら10年分歳とるから、年取らないように冷凍保存して、旅行中は寝といて、起きるとその前に寝た時の年齢っていうか、あんまり年取らないっていう技術よ。
:(笑)
:技術っつーかフィクションだけど、今はフィクションだけど。
:じゃあそれだ、それだ、コールドスリープだ。
う・ふ:コールドスリープ。
:じゃあそれを、書きます。
:ありがとう。

********

3月の熱量、4月のグダグダを経て、「すべきこと」も「必要なこと」も無い、と言い切るところまできた、最後の座談会。
なんだか低体温というか、随分サラリとしてしまった感じもありますが、当初からこだわってきた「気持ちよく舞台でやれないならやらなくていい」というスタンスが、緊急事態宣言以降、さらにクリアになっただけなのです。もちろん、うえもとらしい、飾りっ気のない言葉遣いが、輪をかけてぶっきらぼうな印象にしているのは間違いありませんが。

「やれないこと」が明確だった4月。
私個人としては、娘の保育園も休園となり、インストラクターとしての仕事はすべて自宅からのオンラインに切り替え。夫も1週間の休業ののちに短縮営業となり、あり得ないほど家族の時間が増えて、先の不安を除けば、ご褒美みたいな日々を過ごしていました。初めてのオンラインレッスン、初めてのオンラインワークショップ、知人からの依頼で体操をつくったり… つぎからつぎへと湧いて出る初めての事態への対応に躍起になっていたことで、異様な充足感すらありました。
そのまま5月へとなだれ込み、目新しいことも減ってくると、まず、娘の機嫌がすこぶる悪化。すぐに発火する癇癪玉に振り回されて、家の空気がどよんとすることも度々でした。

「緊急事態宣言が出されています。感染症の拡大防止のため、不要不急の外出はお控えください。」

あのこえ、きらい。と言う娘を、あれが聞こえなくなったら、おじいちゃんおばあちゃんにも会いに行けて、お友達のおうちにも遊びに行けて、保育園にも来ていいよって、なるからね。と言ってなだめながら、

あー。note、書くなら今だな。今がラストチャンスだな。

と、自分を奮い立たせたのが5月半ばでした。
気がつけば、あれから、もう2ヶ月。いまだに、おじいちゃんおばあちゃんのおうちにも、お友達のおうちにも遊びに行けずにいるのに、再開した保育園には元気に通う娘。
こわい おびょうき もういない?
と聞かれるたびに、いなくなってほしいよねー。と心の底から叫びつつ、私は間も無く、第二子の出産予定日を迎えます。

2020年7月4日現在。
東京都の感染者数は3日連続で100人を超え、お偉い方は口を揃えて「緊急事態宣言下の生活には戻りたくないですよね?みんなで頑張りましょう」と言い、都知事選の明日は雨から曇りの予報に変わったようです。

「気持ちよく舞台でやれないならやらない」を貫いてきたすこやかクラブも、少しずつ、感染予防を徹底したうえでの上演やワークショップのご依頼をいただくようになりました。
自分にも相手にも感染の可能性が0ならば「気持ちよく」上演できる、とも言っていられなくなってきているのかもしれません。モヤモヤするから嫌だ、と言っていた3月とは、感染症に対する情報量も違います。気持ちのいい状況を自ら生み出す方法も、当てずっぽうではなくなってきているはずです。

来年までコールドスリープさせている「すこやかクラブ 青い鳥 プロジェクト」も、解凍したままの姿で皆さまのお目に触れることは、きっと、できないでしょう。
それでも、また「あーだこーだ」を繰り返しながら、必ず舞台に乗っけてやるぞと宣言して、この連載を締めくくりたいと思います。

長くて稚拙なテキストにお付き合いいただき、ありがとうございました。
これからも、すこやかクラブのあれこれを、気にしつづけていただけたらうれしいです。

すこやかな日々を。

2020年7月4日 
石原夏実(すこやかクラブ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?