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ふいに近江牛が「君はもう若くない」と語りかけてきた。

妻の友人が結婚祝いとして高級な近江牛を送ってくれた。これがまた霜降りのとびきり素晴らしい肉である。なかなか食べる機会がないのでいつ食べようかと楽しみにしていた。しばらく冷凍庫に眠っていたのだけど、いつまでも冷凍させていても仕方がないので、ええいと気合をいれて、2週間前から「この日に食べよう!」と計画を練った。わざわざカレンダーに赤丸をつけたくらいである。庶民っぽすぎる。

それが昨夜だった。

いつもよりいい卵と、ちょっといいしいたけと、すき焼きにあわせたおいしい赤ワインを用意。準備万端だ。

珍しく妻もはりきり、スマホで「プロに聞く絶品すき焼きの作り方」的なサイトを熱心に熟読していた。そのサイトをみながら、割り下を作ってプロ直伝のやり方でやってみた。

めちゃくちゃおいしい。好きな食べ物ランキングをつけるとしたら、だいたいラーメン、カレー、トンカツ、ステーキなどが入ってくるのだけど(子どもか)、今回ばかりはすき焼きを1位に持ってこざるを得ないくらいの味わいだった。うまい。すき焼きを考えた人、すごい。牛肉の脂の甘みとたまごの濃厚なコク、そしてシンプルに砂糖と醤油でつくった割り下の素晴らしいコンビネーション。思わず目を閉じてしまう。

が、しかし。

お腹いっぱいになる速度がいつもより早い。しかも赤ワインも半分以上残ってしまった。いつもなら食べ切れる量の食材を鍋にしたのに、まだ半分も残っている。

「あ、あれ......。」

事態を飲み込むのに少し時間がかかった。きちんとお腹が空くように、すき焼きの前はわざわざ運動もしたし、お風呂も長めに入って空腹度を調整してまで挑んだのに......!?

霜降りの良いお肉はそんなに量を食べられないのは知っている。でも満腹というより、むしろ少し胃がもたれている気がする。いや、まだ30代なのだが......。

肉をがつがつ食べて、赤ワインをガブガブ飲んでいた時もあったんだけど、もう食べ方にも注意しないといけない年頃だなぁ〜と。

「美味しいものを美味しく食べられるうちに楽しまないと。君はもう若くないんだから。もっと歳を重ねると、もっともたれる食材が増えるよ」

そう近江牛が語りかけてきた気がした。

いわゆる「ショートケーキのいちごは最後に食べる論」はとても分かるんだけど、人生の楽しみというか、「いつかのために取っておくんじゃなくて今なんだ」という時って、いろんな場面である。

下手に先延ばしせずに、「今楽しめる」幸せを、噛み締めていきたい。

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