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”館内整理日”という大事なメンテナンスの日ー紫波町図書館

紫波町図書館には今、クマがいる。

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岩手県・紫波町には、図書館らしくない図書館がある、と以前書きました。

2021年秋の紫波町図書館では、鳥獣害対策についてのコーナーを展開していました。

農業従事者にとっては頭を抱える問題であり、町中で目撃情報も増えている"鳥獣害”は本当に身近に迫る問題。"図書館で鳥獣害対策を取り上げる”と聞くと、一見とっつきにくい印象を与えてしまうもの。

そんなわけで、紫波町図書館の企画展は、こうだ。

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んっ?

感電注意だと?

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なんと、展示コーナーには実物の電気柵が張り巡らされている。
(電流は流れていません)

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そしてクマの剥製まで登場。
電気柵は、動物の鼻先が電気先に触れると、強い静電気が起きてビリッ!とする。フェンスなどの物理的に侵⼊を防ぐ”物理柵”に対し、電気柵は”⼼理柵”と呼ばれるそう。「痛い!」「こわい!」と感じさせる、動物の強い警戒心を利用した防除方法なのですね。電気柵と聞くと思わず、感電死させるような強さだと連想していた私には、少し意外でした。

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「イテッ、コワッ」

鳥避けの「カイト鷹」まで飛んでいる。

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地元の目撃情報も収集。会期後半に向かうにつれ、着々と目撃情報のシールは増え続けている。地元の方も通りすがりで気軽に情報が提供できるし、集められた情報は地図上でわかり見えやすい。

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驚くのは、企画展で集める情報の奥行きと、立体感。
地元の有識者から有益な情報やその人たちからのおすすめ本を集めて提示すること、そして一般の方しか知り得ない声も収集して新たな情報を作り出していくこと。提示して終わりではなく、どうやって伝えれば展示コーナーに立ち寄ってもらえるか、どうしたら情報が必要な人に届くか、そんなことが練られた結果が結集している。

図書館内で行われるトークイベント"夜のとしょかん”も今回は農業編として、「獣害対策の秘訣、教えます!」と題した企画になった。

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今回の"夜のとしょかん、農業編"は、地域ぐるみで獣害対策に取り組んだ事例の地区をモデルにし、区長さんと専門家の方を交えたお話。イベントはキャンセル待ちが多数発生し、申込を締め切るほど大好評に。
参加者さんからも現状の報告を含む、熱心な意見交換が続きました。

町の人が困っていること・今欲しい、必要な情報を集めて掲示するだけに止まらない。目に止めてもらって、参加してもらいやすく、自分ごとにしてもらいやすい工夫。そして次のステップに進めるようなつながりを生み出す。これが紫波町図書館の企画展示の立体感なのです。

紫波町図書館の"館内整理日"

さて、図書館の日々の運営・業務に加えて、大事な日が毎月の最終平日の”館内整理日”だ。図書館が休館になるので、スタッフさんはお休みの日なのかな?と思われることも多いそう。でも実はこの日は、想像以上にフル稼働の忙しい1日なのです。きっと紫波町図書館だけではなく、全国の図書館がそれぞれの忙しさを迎える日なのでしょう。

朝は”館長の挨拶”からスタート。と、思ったら、いきなりお題を与えられます。「外に出て、きれいな落ち葉を拾ってきましょう」。

えっ?落ち葉?

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そして、スタッフさんがそれぞれ集めてきた落ち葉。

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「自分のが一番赤いと思う人!」と言われた人から、黄色、緑…と色の順に並べ、拾ってきた人もその順番で並びます。

そうか、落ち葉といっても、赤とか黄色じゃなくてもいいんだな、と気付かされる。そして拾ってきた理由でも述べるのか、と思いきや。
「今年の夏の思い出は?」という館長からの質問に拍子抜けする一同。

聞かれてふと、夏を振り返る時間ってなかったなということに気がつく。やわらかな思考の持ち主である館長に、一杯食わされたような気持ちながら、気づけばスタッフからそれぞれのささやかな夏の思い出がシェアされ、人となりが垣間見える和やかな時間となった。

スタッフ全員が集まる貴重なミーティングの日

シフト制で動く図書館では、スタッフ全員が同時に揃う日はほとんどない。だからこそ全員が集まるこの日は大事なイベント。ミーティングのタスクは山盛りです。

今後の企画展示の内容についての共有や、直近で実施した展示の貸出冊数などの数字データと合わせて反響の振り返り。日々の見学や就労体験の対応など含め先の予定も細かく確認していきます。

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ミーティング後半では、スタッフへのおすすめ本を、各スタッフがあらかじめ用意して、その場で時間内におすすめする理由も合わせてプレゼンし合う。あらかじめ本人にリサーチして好きそうな本を選ぶ方もいれば、あえて読まなさそうだけれど興味を持つかもしれない点を抽出して紹介する方もいて、おすすめのしかたも千差万別。

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もりだくさんのミーティングを終え、この日に行われる業務は数え上げればキリがないが、業務を箇条書きすると、以下になる。

・企画展示の撤収・設営(一般・児童)・展示A/Bの入れ替え
・カレンダー作成 ・コピー機料金集計 
・新刊データ変更 ・雑誌配架データ変更
・BM作業 ・督促本捜索 ・新聞書庫整理
・棚季節入れ替え ・ブックポスト返却 ・精密書架整理
・清掃(全棚モップがけ) ・ティーンズ棚調整 ・HP更新 など…

細かなものから、大掛かりな業務まで各担当に割り当てられている。
展示の入れ替え時には、児童コーナーの看板を手作りすることも。その他展示用のポップや、本にはさむしおりなど、視覚資料の入れ替えも多数。

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企画展示の入れ替えは、本のみならず、さまざまな展示物が。この日は……そう、鳥害対策に寄与するカイト鷹も高く吊るされていました。

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返却された本を棚に戻す通常業務に加え、この日は季節的な本の入れ替えもある。例えば編み物や、鍋についての本を棚の上にあげたり、夏の内容を書庫に下げたりなど。本棚にも衣替えがあるのですね。

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また普段できないところのお掃除も、この日の大事な業務。
全棚のモップ掛けも丁寧に行われます。

図書館休館の日に、図書館の中で起きている、地道な作業の積み重ね。
利用者として「なんだか心地よい」と感じる空間は、日々の業務に加え、毎月の最終平日に行われる大事なメンテナンスによって保たれていることを知った1日でした。

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紫波町図書館instagram/facebookページでは、#さくコラム も更新中。
この図書館に魅力を感じる大きな要因のひとつに”面出し”の多さがあるのですが、その秘密についても聞いた記事はこちらから。


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