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買うより「作る」ほうがおもしろい(4)

前回はこちらから。

おもちゃは買うより作ったほうがおもしろい

白熱した焚き火トークの翌朝、心地よいベランダで朝食を食べた後、ゲームをしようと誘われた。

 ちゃぶ台にみんなが集合してはじまったのは、スマホゲームでもテレビゲームでもない。レオ君直筆の絵と文章が書かれた、紙芝居のようなスタイルのRPGゲームだった。参加者は大量なレゴコレクションの中から、好きな人形と武器をカスタマイズし、各々のキャラクターをつくる。そして、レオくんが手描きした敵キャラの数々とサイコロで対決し、目の数が大きければ敵にダメージが与えられるというルールだ。パヴェルさん、栄子さん、レオ君、ナオ君に私たちも加わって、サイコロを振って進行していく。

手描きのゲーム大会

ゲームは白熱し、なかでも弟のナオ君はすべてに一喜一憂し、のけぞりながら叫びながら熱中している。製作者のレオくんも楽しそうだ。手描きのゲームには、容赦なくゲームの記録が上書きされていくところをみると、どうやらこのゲームは1、2回くらいですぐに新調されるようだ。
 昨晩、自分で武器を作るレオ君を見ながらパヴェルさんが言った、「おもちゃは自分で作るほうが、買うより楽しいです」という言葉を噛み締めた。

手描きのモンスター

ゲームも落ち着いた頃、パヴェルさんはスケッチブックに絵を描きはじめ、その横でナオくんもなにかを描きはじめた。この家では、次から次へとなにかが生まれていく。そして絵を描きながらパヴェルさんはふと、強い言葉を漏らした。
「はっきり言うと……僕の作品は、ただのゴミなんです。僕はミケランジェロやピカソじゃない。おそらく、あなたの作品もね」。作品を批評されたわけではないが、あらためてストレートな表現に、ドキッとする。

残るのは、人間の記憶の中の思い出、楽しい時間だと思うんです。前、子どもたちと一緒にいかだを作ったんです。竹藪で大きな竹をとって、いかだと海賊の旗を作って、近くの海に浮かばせて、みんなでうわーって言いながら海に入ったよ。すっごく楽しかった。いかだはもう残ってないけど、写真が残ってるし、子どもたちの思い出はずーっとあるの。その思い出があったら、もしかしたら大人になってから自分の子どもたちといかだ作るかもしれないし、あんな変なおっちゃんがいた、って思い出してくれるかもしれない。それが僕のやりかたです」

子どもたちの心になにを残すか。自分の子どもはもちろん、地域の子どもたちに向けてマリオネットを上演すること、アトリエで絵画教室を開いていることも、その思いが根底にあるのがうかがえる。

「どんな空間で育ったっていうのは、すごい大事なんです。レオ君、ナオ君はね、ここで育ってるから、大人になっても絶対美しいもの作るの。家に夏みかんの木があるとかね。美しいでしょう? これはもう勉強じゃなくて、当たり前に頭の中に入ってるんです」
 自らの手と、実際に子どもたちの手を借りながらこの家を作り、手入れをすること。それ自体もまた子どもたちに大きなものを残している。

今回、チェコを切り口に、パヴェルさんに話を聞いたわけだが、パヴェルさんは自分についてこう話す。
「僕は栄子さんに、パヴェルはチェコ人でもないね。宇宙人だねってよく言われます。僕は典型的なチェコ人じゃない」

典型的なチェコ人ってなんだろう。それは私にも厳密にはわからないが、パヴェルさんがチェコ人だから器用、というわけではないことはわかる。その上で、育った環境がいまのパヴェルさんを構成していることもまた事実。パヴェルさんが歩んできた道のりは、パヴェルさんのものだ。
 帰り際、パヴェルさんが描いた絵を額に入れてくれ、さらには、レオくんのゲームも1枚一緒にいただいたので、自分の家の壁に飾ってみた。すると、目に入るたび、あの家であの家族と囲んだ焚火と、電動やすりの音が思い出されるようになった。
 作品を部屋に飾ることもまた、誰かの手の気配を伝えてくれるのだと知った。

ゲーム大会の後、おもむろに絵を描き出す二人
いすみ・里の家の全貌
Pavel Bednář(パヴェル・ベドゥナーシュ)1977-

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